ディート父の決断
「セシルを呼んできてくれ……」
ディートの父宛に抗議文が届いた
…… 送り主はもちろん。もし次があったらと……考えていたからその決断は早かった。
そして頭を抱えディートの妹であるセシルを呼び出した。セシルはあどけなさが残る十歳。
ノックをして入室許可を取りセシルが執務室へ入ってきた。
「お父様、お呼びとの事ですが何か?」
セシルにはまだ婚約者がいない。ディートのせいで良い縁談がなくなってしまったらどうしよう……それは可哀想だと思っていたところだった。
「セシル、お前にはもう兄はいないと思ってくれ……私はディートの教育を間違えてしまったようだ。これを機にセシルには家を継いでもらいたいと思っている。苦労かけてすまないが、これから後継者として子爵家の未来の為にも頑張ってはくれないだろうか……」
子爵はせめてディートに学園だけは卒業させようとしていた。学園に通っていることはステータスであり、在学中に心を入れ替えてくれる事を願っていたが、もうあのバカには期待をするだけ無駄だ。
ローゼン子爵は慰謝料は要らないと言い、今後の工事代の負担で良いと言ってくれた。ディートが継ぐのならディートの代で払わせてやろうと思っていたが、今後セシルが子爵家を継ぐのならセシルに負担をかけさせてはいけないので、慰謝料を支払う旨を子爵家に伝えた。
ディートの廃嫡と慰謝料でローゼン子爵に許しを得た。なんで息子はこんな愚かな男になったのだろうか……婚約解消されたのはお前なんだ……なんで自分の都合のいいように捉えられるのか不思議だ。
「お兄様がやらかした後始末をすればよろしいのですね? 分かりました」
サッパリキッパリと答えるセシル。
「良いのか?」
「えぇ。お母様がもうお兄様はダメだと寝込んでいた時にそういうこともあるのではないかと自分なりに覚悟していました。幸いお兄様と歳も離れていますので、現在学園生活を送っている方と被らないので、私が学園生になる頃にこの件は少し風化している事を祈るばかりです」
しっかりしているセシル十歳。
「それにお兄様……いえ私はゴミと呼んでいましたので、兄でなくなるのならゴミと呼ばせてください。私はルビナ様がとても好きでしたしお姉様になってくださる事を夢見ていましたが、あのゴミに潰されたのです」
「ゴミか……なぁ、セシル、ディートはいつからあんな男になったんだろうか……私達の教育は間違っていたのだろうか……」
十歳の娘に弱さを見せ始めた。
「元々ゴミは怠け者でした。人が見ていないところでは平気でサボるような男でした。ルビナ様が努力をしているのを鼻で笑うような所も見られました。性根が腐っているのですわ」
……そうだったのか。
「教師たちにはいい顔をしますから裏表があったのでしょう。私の事も小馬鹿にしてきました。あのゴミは努力を嫌うので努力している人間は疎ましく思うのでしょうね」
セシルよ、もっと早く教えて欲しかった……と、そんなことは言えない。自分で知らなくてはいけない事だったのだから。セシルの話を聞いて廃嫡の件に後ろ髪引かれることは無くなった。まだ十歳なのにセシルはしっかりしていると教師は誉めていた。
「あい、分かった。セシル、子爵家を頼んだ。婚約者の選定にも入るが嫌なら嫌だと言ってくれ。セシルが嫌う相手との婚約はさせない」
「それでしたら、ゴミのようなモラハラ、暴言、暴力、妄想癖、付き纏い、勘違い男との縁談はお断りします。お父様、あのゴミはどこへ捨てる気ですか? どこにでも捨てていいと言うわけではありませんよね? 粗大ゴミですから迷惑になります」
セシルの言う通りどこに捨ててもいいと言うわけではない。監視の目が必要だ。
「ディートは領地にいる母に頼もうと思う。それで領地の工事や、畑仕事をさせる事にする。頭を使わせてはダメだ。変に知恵が付くのも困るからな……肉体労働をさせ疲れたら寝る。腹が減ったら食う。そういう生活をさせる」
父が亡くなってから母は領地に篭っている。私はとても厳しく育てられてきた。孫には優しかったがこんな事を起こしたディートを母は許さないだろうから厳しく躾けてもらうことにした。私や妻の顔を見ると甘えてしまうだろうから、領地で面倒を見る事にする。
ただし、子爵家の離れの小屋に住まわせることにし、自分のことは自分でするようにさせる。炊事洗濯全てをさせる。
領地内から出さないようにし、もし好きな女が出来たら金を貯めて独立して結婚でもすれば良い……働いた分の給料は出してやるんだから後は、心の成長を待つのみ……
「分かりました。これからモリソン子爵を継ぐ身として邁進してまいります。ご指導のほどよろしくお願いします」
セシルの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい……ディートよお前の妹の方が後継者に相応しいようだ。




