学園祭〜ジェイ視点〜
「ルビナ・ローゼン嬢のクラスで間違いありませんか?」
ルビナのクラスの前で受付をしていた生徒に声を掛けた。
「はい。そうです。ルビナさんは今休憩中でしばらくは戻って来ないと思います。ルビナさんが戻ってくるまで中で待たれますか?」
チラッとカフェの様子を見る。他の令嬢がお茶を淹れているようだ。
「いえ、また来ます。ありがとう」
……休憩中か。
校長の話が長かったのがいけない。寄付金を出しているから丁寧にもてなそうと言う気持ちは伝わった。私はこの学園の生徒ではなかった故に学園の歴史を聞かされていた。
それにしても広い学舎だな。庭も綺麗だし立派な図書館もある。看板が立てられていて【この先騎士科】と書かれていた。
「ちょっと行ってみるか」
留学していた国では騎士科は大人気で、マッチョが多くいた。体を大きくしないと女性にモテないぞ! と言われ騎士科でなくても皆が身体を鍛えていた。
劇団員は細いがしなやかな筋肉がついていたが、あの国は男らしいマッチョがモテるのだ。腕なんて大木のように太くて硬かった。制服もぴちぴちになっていた。懐かしいなぁ。
私も友人達に混じり身体を鍛えていたが、身体を大きくしたいという気持ちはなかったのでそれなりに鍛えていたが全く見向きもされなかった。鍛えているうちにガタイの良い男にも急所があるという事や、そこそこの力でも懲らしめる方法を学んだのだが、向き不向きがあるという事も同時に学んだ。
興味があるのはやはり劇団員との会話や、職人の仕事だった。プライベートで女性と話すことなんてあまりなかったし、異性というより仕事的要素がないと話はしなかった。芸術面で優れた人材が多いのにあまり評価されていないのがなによりも残念だった。その職人達を国に呼び寄せて現在に至る。
この国の騎士科の生徒は皆しゅっとしていてスリムだなぁ。ゴリゴリマッチョの友人達を思い出しながらそう思った。
ここが騎士科か……令嬢が一人の令息を取り囲んでいた。金髪でこの国でいうところのイケメンだ。きゃぁきゃぁと黄色い声が飛び交っている。
しかし他国ではモテないからな。と心の中で忠告しといた。なんせマッチョがモテる国だから、あれくらいの身体では“細い”と言われるであろう。私は男女共に散々言われ続けた。懐かしいなぁ。
このクラスでは演武を披露していたようだが、終わっていた。遅かったか。
そろそろ戻るか……と思った時に“きゃぁ”と言う女の子の声が聞こえた。
これは悲鳴か? 黄色い声とは違うような……ってルビナ嬢?! 何でまた絡まれているんだ!
それから助けに行った。
学生相手だからあっさりと手を離してくれた。まぁ少し大人気ない態度もあったがよしとしよう。
ソリオ伯爵の息子だと確信した私はハドソン侯爵家の名を出した。
あっさり謝っていたな……
ソリオ伯爵家はハドソン侯爵家に仕えている家だ。ソリオ伯爵とは幼い頃から顔を合わせていたからすぐにわかった。
それともう一人の男。バンデッド伯爵家の令息だったな。バンデッド伯爵の次男は確か……夫人に暴力を振るい多額の借金をしているとか? 暴力を振るうのは兄に似たのか? 警備に通報するか? と腕を軽く捻りながらそう言った。
“私の連れに今後一切近づくなよ? 友達にも言っておけ”と言って手を離したら顔を青ざめていた。バンデッド伯爵家叩けば埃が出そうな家だ。
こう言う時でも助けられるのが侯爵家の名前とは若干情けないが使えるものは使っておこう。
「ここでいつもランチをしてるのか」
ルビナ嬢のクラスへ向かって歩いていると中庭があった。花やハーブが咲いていて風の通りも良いし、木陰になっていてテーブルやベンチもある。
「はい。大体はここで過ごします。これから寒くなってきたら休憩室か教室で摂ると思います。食堂は人が多いですし離れていますから」
「それにしても警戒心が強いのに何で騎士科なんかに行ったんだ?」
「普段行ったことのないところに行こうと思いました。用事がないと行きませんし、せっかくのお祭りだったから……」
分からなくもない。祭りだから。それに招待客じゃないと学園祭には来られないから安心しきっていたんだろう。
騎士科の生徒からしたらルビナ嬢は大好物だろうな……シルバーヘアーが儚げに見えて守ってあげたい症候群? で心の中がざわつくんだろう。分からなくもない。
自らが餌になってトラブルを引き寄せているんじゃないだろうか……
「……今後気をつけて。学園内では助けられないから、必ず友達と行動する方がいいね」
学園をルビナ嬢と歩いていたら、令息たちが驚いた顔をしていた。狙っていたのか? ルビナ嬢は全く気にしてないようだ。
「ジェイ様、どうしました?」
「いや、私の通っていた学園とは違って新鮮だと思っていただけだよ。さてと何のお茶を淹れてくれるのかな? 楽しみだ」
気がつくとルビナ嬢のクラスに着いていた。
「あれ? お店が閉まってますね」
教室の扉を開くと数人が座っていた。後ろからひょっこりと顔を出す。
「でも人はいるね」
「はい」
「あ、来た来た! ルビナさん。今日はもう閉店するけれど自由に使って良いって先生がおっしゃって待っていたの。ハドソン卿もどうぞ、こちらへ」
ルビナ嬢と席に座るとカートを押したルビナ嬢の友人らしき令嬢が言った。
「ルビナさん、お茶を淹れて下さいね。このクッキーはルビナさんが作ったものです。よろしければどうぞ。それではごゆっくり」
にこりと頭を下げて令嬢は去っていった。
ルビナ嬢はお礼がてらと言いお茶を淹れてくれた。ブレンドティーのようで花の香りがして美味しかった。
「お茶淹れるの上手だね」
と言うと当然です! と胸を張って言っていた。あぁ。そうか。花嫁修行も兼ねてこのコースを選んだのか……と思うと胸が痛んだ。
 




