街歩き
男性向けのお店を何軒か見て回っているけれど、これ! というものがまだ見つからず輸入品を扱っているお店に入る。
財布やネクタイなど取り揃えているものは多い。洋服の生地なども扱っているようで仕立て屋さんの紹介までしてくれるんですって。店内はそんなに広くはないけれど、見て回るには十分な広さ。小物など品揃えが多くじっくり見ているとあっという間に時間が経ってしまいますね。
「うーん。何にしようかなぁ。みんなは何をプレゼントするんだろう。教えてくれなかったんだよなぁ」
店内を物色しながらディートが頭を悩ます。
「事前に何をプレゼントするか皆んなで相談すれば良かったのにね」
「それもそうだけど、もしプレゼントが被ってしまっても気が合うな! と言って笑い話になるだけだよ」
今の会話からするとディートはクラスの友人達と上手く行っているようです。
「あら、ディートじゃない」
「シアか! どうした?」
二人は偶然会ったようで話し始めた。どうやらパトリシアさんもプレゼントを買いに来たみたい。
ディートとパトリシアさんには私の姿が見えなくなってしまったようで一人ポツンと立っていました。
話は盛り上がっているようでチラッと二人を見ると、まるでディートとパトリシアさんがカップルの様に見えてくるから不思議です。
ディートは幼馴染で私の婚約者なのだが、異性としてというか家族のような存在だったから、パトリシアさんと並んでいると一人の男の人に見えるのも不思議です。
取り敢えずここは邪魔をしてはいけないと思い、一人で店内を見て回る事にしました。
男性向けのお店をまじまじと見るのも新鮮。女性向けのお店はカラフルで心躍るのに、このお店はシックで落ち着いている印象で、大人になったような感覚。
財布や時計などシンプルで使いやすそうな物からネクタイや靴、靴下などもある。
ネクタイの柄だけでもたくさんの種類があり女性物とは違う柄でそれを見ているだけで目の保養になるし、今後お父様やお兄様のプレゼントにいいかもしれない。と真剣に見ていると思ったより時間が経っていて、時計を見ると三十分も経過していた!
ディートとパトリシアさんはどうしているかと思い店内を探すが姿がありません。
「あれ?」と首を傾げる。流石に店内ではぐれる事はないと思うのだけど……?
店の前に立っている守衛さんに声を掛け、ディートの服装や特徴を言う。
「その方なら女性の方を伴い出て行かれましたが……」
気まずそうに答える守衛さん。私はお礼を言い取り敢えず店を出ることにした。
「……どうしよう。はぐれちゃった」
ポツリ独り言を言う。お店の前にはベンチがあり木陰になっているので、ここに座り待たせてもらう事にした。流石に私を忘れて帰る事はないよね?
店の前のベンチでぼんやりと街の風景を眺める。もうすぐ夏なのかしら? 雲が近く感じるわね。じんわりと額に汗が滲む。
一時間、二時間……三時間経った。
「どうしよう。そろそろ帰らなきゃ皆んなに心配かけてしまうわ」
最近世の中を騒がせている誘拐事件……貴族の令嬢も攫われることがあるって聞くし……うちは東の地区だからなんとか歩いて帰れる距離だけど……
街の騎士団の方に事情を説明して家に連絡を入れて貰って馬車を呼んでもらおうかしら。侍女を連れてくれば良かったなぁ。ディートの家の馬車がどこに停まっているかも分からないし……ディートを探して迷子になっても困るし……夕暮れも近い。
悩んでいると、お店の店員さんに声を掛けられた。
「お嬢さん、お連れの方はまだお見えにならないのですか?」
先ほどのお店で接客をしてくれた店員さんだった。すぐに立ち上がる。
「お店の前のベンチを占拠してしまい申し訳ありません。家に帰ろうと思っていたところです」
店の前のベンチにずっと座っていたので嫌でも目に入ってしまったのでしょう。そう思い頭を下げた。
「失礼ですがお連れの方は?」
「……いつの間にかはぐれてしまったようです」
「……そうですか……お嬢さんの家はどちらでしょうか? 申し遅れましたが、私は決して怪しいものではありません。この店のオーナーをしているジェイ・ハドソンと申します」
胸に手を当て自己紹介してくるあたり、貴族なのだろうとルビナは思った。名前を名乗られたのだからこちらも名乗らなければ失礼にあたる。
「私はルビナ・ローゼンと申します。家は東の区画にあります」
「ふむ、東の区画ですか。ここから馬車でも二十分はかかります。歩くと一時間以上ですし、お嬢さんの足では帰る頃には暗くなってしまいます。よろしければお送りしますよ」
この店のオーナー様。でも知らない人に付いて行ってはいけないと両親にも屋敷の皆んなにも口を酸っぱく言われている。気持ちはありがたいのだけれどここはお断りするべきだわ。
「申し訳ありません。知らない人に付いて行ってはいけないと両親に言われていますのでお言葉だけ頂戴しておきます」
有難い申し出だけれど、断ることにした。