社交シーズンです
社交シーズンという事で、夜会に誘われる事が増えた。学生の身分なので参加するパーティーはお母様と相談し決めている。
私には婚約者がいないので参加出来るパーティーも限られている。
昼間に行われるティーパーティーはお母様と出かける事も増えましたけれどね。
家族と行くパーティーでは子息を紹介されることもあって疲れてしまいます。そっと離れようとしても一人になってはいけない。と家族に注意されます。社交場というのはお見合いの場でもあるようです。
噂には聞いていましたが、本当でした。
こういう場で素敵な男性に出会えるのか……という疑問もあります。子息を紹介されてお話をしていると二人になれるところで……などと誘われゾッとしました。
両親に嫌だという事を目で訴えると子息側の両親は“後は若い二人で”なんて言うのです。
子息に手を取られ「それではあちらでゆっくりとお話しをしましょう」
ってこの方一体幾つなんでしょうか? そんなに若くないですよね……お父様が止めに入ってくれた時だった。
「あら、ハドソン卿ではないですか。ご機嫌よう」
お母様が挨拶をしこちらに向かってきたジェイ様。
「良い夜ですね。ローゼン子爵、夫人」
笑みを絶やさず挨拶してこちらに向くジェイ様。
「やぁ、ルビナ嬢。お邪魔だったか?」
取られた手を見ながら微笑まれました。
「ご機嫌よう。ジェイ様」
「この前の約束を覚えてる? ダンスに誘いにきました」
約束? 首を傾げる。
「練習の成果を見せてもらおうかと思ってさ」
耳元で言われてゾクっとした……多分私の顔は真っ赤だと思う。
「あはは。耳まで赤くなっちゃって可愛いね。失礼、彼女は私と先約がありまして手を離してくださいますか?」
そういうと若くない男性は(すみません名前忘れました)ばつが悪そうに手を離してくれた。グローブをしていて良かったと思った。
ジェイ様が来たことにより、この若くない男性(名前忘れた)の家族とは別れた。
ふぅ。
「お父様もお母様ももっと早く助けてくだされば良かったのに……こういうのはもうやめてくださいね」
こういうのとはお見合い的な顔合わせだ。
「うちはお断りしているんだよ……しかし声を掛けられたら挨拶くらいはしなきゃ失礼だと思ったけれど、しつこい男もいるようだし気をつけるように」
チラッとジェイを見るルビナ父。にこりと微笑み返すジェイ。
「さて、約束通り、ルビナ嬢一曲いかがですか?」
手を差し出された。
「……はい」
「それではローゼン子爵、お嬢様と少しの間過ごさせてくださいね。ご心配いりませんよ」
「分かりました。娘をお願いします」
お父様……なんで? 後でこの事を聞くと、親に断って連れ出すのだから変なことにはならないだろう。ハドソン卿はそんな事をするような方ではない。ちゃんと筋を通す人だ……
軽い人なんじゃないの?
「返事をくれないから、直接会いに来たよ。ルビナ嬢」
工房へのお誘い。
「お父様にまだ話をしていなくて……行ってみたいけれど、ジェイ様にそこまでしてもらう関係でもありませんし……」
どんな関係? 友人でもないし知り合い? でもないし……
「……関係か。深めてみる?」
さらっと変なことを言うジェイ様。
「……? 揶揄っていますか?」
むっと眉を顰めるルビナ。
「やぁ。怒った顔も可愛いね。揶揄ってなんてないよ。ルビナ嬢といるとなんか、こう……世話したくなるっていうか、むずむずするっていうか。楽しいと言うのが本心だよ」
「誰にでも言っているのでしょうか? ジェイ様は初めてお会いした時から親切でしたけど、舞台に誘っていただいた時も誘い慣れている感じがしましたし……声をかけ慣れていると言うか……」
「え! そんな風に捉えられていたのか! それはショックだな……」
「……違うんですか?」
「誤解だよ。困っているレディに声を掛けるのは当然だと言われて育ってきているけれど、誰にでも声を掛けるわけないだろう……嫌な事を思い出させて悪いけど、外で何時間も待っている姿が健気に見えた。舞台も、行ったことがないって言うし、見せてあげたくなったんだよね。それにいつも誰かに絡まれているし……なんでだろうね」
「? トラブル体質と言いたいのですか?」
たしかに助けられている。あの時もこの時も……!
「ふふっ。トラブル体質か面白いね。それなら呼んでくれればいつでも助けに参上しますよ」
「……いえ、」
「さて、と。工房の案内はいつにする? 出かける許可を子爵に取るよ」
あれ? いつのまにかジェイ様のペースになっている。そしていつの間にか一曲踊りきっていた。
いつの間に?
ジェイ様はお父様に出かける許可を取っていた。
いつの間に?




