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ジェイ


 店に入りスタッフにベンチに座る令嬢のことを聞いた。


「お連れの方と逸れてしまったようで、あそこで待っているようです。もうかれこれ三時間……」


 は? 三時間? 店の柱時計を見て驚いた彼女が店を訪れたのが昼を過ぎた辺りだった。



「店の中でお待ちいただいてもよかったのに、外で三時間も……?」


「守衛が声をかけたのですが、お連れの方とすれ違ってはいけないと外で待っているようです」


 ……信じられない。ダメだ、もう黙ってはいられない。そう思い声をかけることにした。



『お嬢さん、お連れの方はまだお見えにならないのですか?』


 驚いた顔をする令嬢。するとすぐに申し訳なさそうな顔をした。


『お店の前のベンチを占拠してしまい申し訳ありません。家に帰ろうと思っていたところです』


 家に帰るってどうやって……?


『失礼ですがお連れの方は?』



『……いつの間にかはぐれてしまったようです』


 いつの間にかはぐれる? そんな事あるわけない! 事情は知らないがあの子息は何を考えているんだ! 申し訳なさそうな顔をしているが君は悪くない。そんな顔をさせたいわけでもない。

 


『そうでしたか……失礼ですがお嬢さんの家はどちらでしょうか? 私は決して怪しいものではありません。この店のオーナーをしているジェイ・ハドソンと申します』


 安心してもらえるように自己紹介をした。暗くならないうちに帰さないと、危険なことに巻き込まれては大変だ。


『私はルビナ・ローゼンと申します。家は東の区画にあります』


 ローゼン。子爵家の令嬢だったのか。確かに東の区間に屋敷があるはずだ。



『ふむ、東の区画ですか。ここから馬車でも二十分はかかります。歩くと一時間以上ですし、お嬢さんの足では帰る頃には暗くなってしまいます。よろしければお送りします』



 どうやって帰るつもりだったのだろうか。もうすぐ辺りは暗くなるし、雲の様子も怪しい。こんな子を歩かせて雨にでも降られて体調を崩してしまっては大変だ……それより怖いのは人攫い。屈強な男にか弱い令嬢が抵抗できるわけもない。

 


『申し訳ありません。知らない人に付いて行っては行けないと言われていますのでお気持ちだけ頂戴しておきます』


 頭を下げられた。しっかりした家の令嬢のようだがここは引けない。



『それはご両親の言う通りです。知らない人に付いて行ってはいけません。しかし私は困っているレディを放って良いという教育は受けていないのですよ。しかしレディの言う通り知らない男と二人になる。と言うことは世間体も良くないでしょう。私の店の女性スタッフを呼んできますので少々お待ちください』



 先程から令嬢のことを気にしていたスタッフに馬車を出すから送って行って欲しい。と頼んだ。そのまま直帰で構わないよ。と言うと心配もしていたし自身も早く帰れることから喜んで送っていく。と言った。これで安心だ。


 無事に家に着いたようでホッとした。あんな可愛らしい子が貴族街を離れて一人で歩いていたらすぐに誘拐されてしまう……物騒な事件が続いていることから貴族街には王宮から派遣されている騎士も増えている。


 私が口を出したことにより連れの子息と喧嘩になりはしないだろうか?



 いや……すればいい。守衛に詳しく聞くと後から偶然店に来た知り合いらしき令嬢と店を出た。と言った。はっきり言うと連れの子息はクソだな。



 令嬢を無事送り届けたと聞き店仕舞をしようとしたら扉のベルが鳴った。急いで店内に駆け込んでくる若い子息。


 


『すみませんが、ロングのシルバーヘアーでグリーンの瞳で、薄い緑色のワンピースを着た女の子を知りませんか? 十六歳くらいの女の子なんですけどっ』


 令嬢の連れのクソが今更何用だ? 笑顔で対応するが反吐が出そうだ。


『あぁ。そちらのレディでしたら、お連れの方を外で()()()お待ちでしたが、暗くなってきましたのでうちの女性スタッフが家までお送りいたしましたよ。ご安心ください』


 すると何を思ったか急に怒り出し意味のわからぬことを言う。


『はぁ? 勝手に帰ったのか! 全く……どういう教育を受けたらそんな自分勝手な真似ができるんだか……帰るならせめて伝言を伝えるべきだ。そう思いませんか?』


 同意を求められても困る。そもそも勝手に出て行ったのは貴様だろう。令嬢を外で何時間も待たせて言うことか? お前の家の教育の方がどうなっているのか知りたい。そして親の顔を見てみたい。どこの家なんだろうか……



『お客様がお帰りです。またのお越しをお待ちしております』


 出口まで誘導し、頭を下げた。聞くに堪えない。どっと疲れた。こんなクソがあんな可愛らしい子の連れだとは……


 少しの会話でも純粋であることが分かる。清楚で可愛らしい子だった。


 

『塩を撒いておいてください』


 守衛が見守る中での事だった。子息が暴れれば守衛が止めていただろう……守衛が返事をしすぐ塩を用意していた。



『あのお嬢さんが気の毒だな』



 あの時はただそう思った。純粋で気の弱そうな令嬢は社交界に出始めた。


 あるパーティーに招待され、スッキリした顔で楽しそうに笑っている彼女を見た。何かあったのだろうか? その時は何の気なしに話をした。



 まさか婚約の解消をしたとは……原因を作ってしまったのだろうか! 罪悪感がありルビナ嬢が行きたがっていた舞台へ招待することにした。


 


 


 

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