ポスターが貼ってありました
「お待たせ致しました」
スタッフさんは丁寧に包装してリボンをかけてくれた。
……貯めていたお小遣い全部使っちゃった。いつも迷惑を掛けているし、お兄様が喜んでくれるのならいいかな。
「良いものが見つかってよかったわね、ルーク絶対喜ぶわ。あらこのポスター」
シンシアさんが店内に貼ってあったポスターにふっと目を遣ったので私もポスターに目がいきました。
「これは今度、大ホールで行われる舞台の紹介ポスターです」
ジェイ様が説明してくれた。人気のある劇団でいろんな国を回っているようでジェイ様は留学中に劇団員と知り合いになりスポンサーをしていて店内にポスターを貼って宣伝しているのだと言いました。
「私も今度ルークと行くのよ。週替わりで演目が変わるそうでこの国では二ヶ月間滞在するみたいね。人気の題材のチケットは争奪戦だと聞いているわ」
「学園でも話題になっていました。確かソフィアさんも行くと言っていました」
舞台かぁ。行ってみたいな。こういった観劇などは年齢制限があったりする。それにお酒が提供される場でもある為、パートナー同伴じゃないと入れない場合もあるし、大貴族となるとボックス席を期間中購入していたりするので、別世界なんだって。友人達が興奮するように話をしていた。
「ルビナ嬢、もしかしてこの舞台に興味がありますか?」
ぼぉーっとポスターを眺めていたらジェイ様に言われてハッとした。
「え? えぇ。舞台に行った事がないので興味はあります」
お父様かお兄様に頼んでチケットを取ってもらえばいいのかな。でもチケットがソールドアウトとなっている。
「一緒に行きますか? 私はスポンサーですからチケットの用意はあります」
スポンサー? 行きたいけれど、よく知らない人? と二人で出掛けてはいけないので返事を躊躇っていた。
「警戒しているね。いい心掛けだよ」
うんうんと頷くジェイ。楽しそうにルビナを見ている。
「子爵には私からルビナ嬢を招待したいと言ってみよう。いい返事が聞けたらご一緒しませんか? レディ」
ウィンクをされた。ジェイ様は軽く女性を誘ったり出来る人なんだわ。
それから店を出てシンシアさんとカフェに行ってお茶をした。
「ルビナさん、オーナー様はとても素敵な方でしたね。お話も上手でお店もセンスが良く、ハドソン侯爵の御子息が留学をされていると聞いたことはありますが初めてお目にかかりました。舞台に行けるといいですわね」
シンシアさんに言われましたがお父様が許してくれるのかしら?
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「……ハドソン卿から舞台のお誘いとは……なんでそうなったんだ?」
約束通りジェイはルビナの父に舞台に招待したいと手紙を書いていた。
「あなた! これ人気のある演目でチケットは入手困難なんですよ。ルビナが行きたいというのなら行かせてやってはいかがかしら? ハドソン卿はお話をした限り悪い方ではなく、むしろ良い印象でしたわ」
家柄もしっかりしているし、ルビナに害を与える感じもしない。社交の一環として舞台へ行くのはよくある事だ。
「……ルビナに任せる。舞台はいいとして羽目を外して……いや。ルビナに限ってそれはないか。酒を飲んではいけないとだけ約束させよう」
幕間で休憩し酒を楽しむ事がある。ルビナはまだ十六歳。酒を飲んで眠たくなったり、楽しすぎたりする事もあるかもしれないし加減もわからないだろう。
身内と行く場合は問題ないがジェイは男性で何かあってからでは遅い。そう思うと行かせない方がいいような気もするが……娘を信じなくてはどうするのかと葛藤の末承諾した。
社交界に出たばかりの殻のついたひよこのような娘。うまく立ち回れるかも心配だけど、これも経験……と己に言い聞かせるルビナの父。
両親からオッケーが出たのでルビナは初めて舞台を観に行く事となった。
嬉しい反面、ジェイ様と出掛けることによる不安もあった。だってよく知らない人だもの……
知っていることといえば、お店のオーナーだと言うこと。実家は侯爵家でもうすぐ伯爵になる事。名前がジェイだという事くらい。怪しい人ではないだろうけど、誘われた時は少し軽い感じがしたな……




