社交界
お久しぶりです。ルビナです。
ディートと婚約を解消してしばらく経った。両親の知り合いの家で夜会があるからと私も招待された。家族全員で行くこととなり今回もお兄様がエスコートをしてくれる事になりました。
どこから漏れたかは分からないけれど釣書が送られてきたみたいで困っています。いつかはお嫁に行かないとお兄様に迷惑がかかるけれど、しばらくそういうのはいいかな……婚期を逃すことになったら領地で大人しく過ごすか、どこかの家に仕えるのも悪くないかもしれない。と思い始めてきました。
お父様はお断りの手紙を書いてくれたみたいだけど、次々に送られてくるって家令から聞いた。ごめんね、お父様。心の中で謝った。
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初めての夜会は両親と親交のある伯爵家だった。古くからの付き合いで伯爵夫妻は私のパーティーにも駆けつけてくれた。
「おじさま、おばさま、先日は私のバースデーパーティーに来てくださりありがとうございました。本日はお招きいただき感謝します」
カーテシーをした。
「ルビナちゃんは相変わらず可愛いわね。うちの息子のお嫁に来て欲しいくらいだけど……残念だわ」
確か息子さんは……二十五歳と十二歳? だったはず。年が離れている兄弟でまだ結婚する気がないと聞いた。男性は三十歳くらいで結婚する人もいるものね。女性は二十三歳くらいで行き遅れとか言われるのに……ずるい。
長男はザック様と言い家を継ぐ予定、次男のニコラス様は騎士団に入りたいのだそう。まだ十二歳なのにもう将来に向けて頑張ってるなんてすごい。
この夜会にはお兄様の知り合いが何人もいて、一緒に挨拶しながら会場を回っていた。するとしばらくしてお父様に呼ばれた。
「ルビナ、こっちにおいで」
お父様とお母様が黒髪のまだ若い男性と話をしている。誰だろう? 見かけない人だ。
お父様達が話をしている感じで見ると高貴な人のようだわ。取り敢えず呼ばれたので返事をしてお父様の隣に立った。
「ルビナこちらの方を覚えているかな?」
はて? 記憶にない。
「えっと……どこかで……」
私は社交界に出たばかりの殻のついたヒヨコのようなもの。知り合いなんて本当に少ないし男性となると皆無。
「思い出せないのも仕方がありませんよ」
……優しそうな声だわ。でも聞き覚えはあるんだけどなぁ?
「申し訳ございません。聞き覚えのある声だと思うのですが」
うーん。うーん。どこで? それにしてもこの方はちゃんと私の話を聞いてくれて返答を待ってくれるのね。
「はははっ。子爵そろそろ種明かしをしないと、レディが百面相をしていますよ」
ん? レディ。聞き覚えがあるわ。
「あっ!」
お父様とお母様がホッとした顔をして男性はにこりと笑っていた。
「もしかして……オーナー様ですか?」
「……まぁ、そうだね。覚えていてくれて嬉しいよ」
苦笑いするジェイを見てルビナの両親は、ジェイの名前を伝えた。
「ルビナ、彼はジェイ・ハドソン卿だよ。あの時のお礼を言わなくて良いのか?」
そうだわ。お母様がハドソン侯爵の三男の方だって言っていたわね。まさか夜会でお会いするなんて思わなかったんだもの。
街でお世話になった時も洗練された仕草だと思っていたけど、こうしてお会いするとまた違った感じで高貴な感じがした。
「ルビナ・ローゼンです。先日はお世話になりありがとうございました。オーナー様またお会いできて光栄です」
カーテシーをしてあの時のお礼を告げた。
「オーナー……うん。まぁ、間違いないけれど、私の名前はジェイ・ハドソンです。いや……もうすぐハドソン姓ではなくなるから、ジェイとでも呼んでください」
もうすぐ? どう言う意味だろうか? と首を傾げる。
「ここで話をしては通行の妨げになるかな。あちらに移動しようか? 子爵、ルビナ嬢とお話をしても?」
ここは人も多いしすれ違いざまに邪魔になるかもしれない。
「えぇ。もちろんです。ルビナ失礼のないように。ルークにはその旨伝えておくよ」
お父様とお母様はすぐに知り合いに声を掛けられていた。
「せっかくだから何か飲もうか? ルビナ嬢は果実水の方が良いかな?」
アルコールは得意ではないし匂いだけでも酔いそうになる。ジェイ様は桃が入っている炭酸水を渡してくれた。
「しゅわしゅわしていて美味しいです」
フルーティーで喉越しが爽やかだった。
「炭酸水は喉越しがいいよね。桃が入っていて見た目からしても爽やかだ。オレンジや葡萄と種類も豊富だよ」
バーテンダーさんに頼んで作ってもらうのだそう。オーダーしてからじゃないと炭酸が抜けちゃうからだって。
「あちらに置いてある飲み物や給仕のトレーはアルコールだから気をつけないと、甘くて美味しいからと飲みすぎる事になるし酔っ払った姿は見たくないかな……それに危険だからね」
お酒に飲まれて、介抱という名で別部屋に連れていかれることがあるそうだ!
「こんな話をしたくないけれど、今日が初めての夜会と聞いたから、気をつけないと変な男に絡まれてしまう……って側から見ると私がそう思われているのかもしれない……!」
ふ、ふふっ……
「そんなことありません。親切に教えていただきありがとうございます。家族と来ているので安心してそういうことには無縁でしたもの。……ジェイ様に教えていただかないとうっかり甘いお酒を手に取るところでした」
見た目は色が付いていてジュースに見えるもの。分からない時は素直に給仕をしている人に聞けばいいのね。知らない人からの飲み物は受け取らない。それはお兄様も言っていたわね。
初めての夜会で緊張していたけれど、知っている? 人が居て良かった。それはそうと姓が変わるどういうことか聞いて良いかな……?