パトリシア父
パトリシアの父はローゼン子爵家と連絡が取れ面会出来るようになった。実は抗議文が来るのではとヒヤヒヤしていたが、全くその様子はない。あってもおかしくないのに、ない方が余計に恐ろしい。それなら自ら謝罪に行った方が良い。
「この度はうちの娘が失礼しました。招待状も持たずにパーティーに出向くなど、あってはならない事です」
パトリシアの父が頭を下げ謝罪をした。
「……うーん。スミス伯爵に謝罪されても困りますよね」
そう言われるのは目に見えていた。他家の問題に首を突っ込む形だ。
「いえ、うちの娘がモリソン子息と誤解を招くような行動をした事で、ローゼン子爵のお嬢さんにご迷惑をかける形になりました」
なぜ下手に出ているのか? 歴史が浅い名前だけの伯爵家と歴史が古く信頼のあるローゼン子爵家とでは貴族としての礎が全然違う!
ローゼン子爵家は王家とも交流があると聞く。陞爵の話もあったらしいのだが頑なに断っているようだ。
なんでも先祖代々子爵家として国を支えているからなんだそうだ……そんな子爵はいろんな意味で顔が広い。こういう事を言ってはいけないと思うが……隣の領地だからと言ってわざわざモリソン子爵家となぜ縁を? ローゼン子爵家ならもっと良い家に嫁げるだろう。
「顔見知りで歳が同じ家が近い。娘は気の弱い子だから、私たちの近くにいてほしかった。親のエゴで婚約をさせたのが失敗でした。娘は学園で良い友人に恵まれたようで、自分の意見を持ちきちんと伝えられるようになりました。良い友人と言うのは人生の宝ですね。それもあり婚約を解消したまで。それに公の場に出る前にモリソン子息の人格が分かって良かったですよ。スミス伯爵令嬢のおかげでもありますね」
少し嫌味を含めた言い方にも聞こえる。良い友人に恵まれたルビナに対してディートとパトリシアは単なる友人としつこく言っていた。
「しかし、」
「しかしも何もありませんよ。これはうちの問題ですからスミス伯爵には全く関係ありません。モリソン子爵家とはこれからも付き合いをして領地の発展に尽力するだけです。婚約が無くなったからといって争いをするつもりもない。そんな事をしたら領民に迷惑をかけてしまう」
治水工事や道路工事は隣り合っている領地で話し合いの元行う事が多い。ローゼン子爵家とモリソン子爵家も話し合い助け合っている。
「せめて謝罪の気持ちとして慰謝料を、」
「結構だ。それを受け取りうちにどうしろと言いたいのでしょうか?」
キッパリと断るローゼン子爵。
「しかしそれでは私の気持ちが収まりませんので」
小切手を出し金額を……
「私は要らないと言いました。金を出すからこれまでの事は許せと言っているのでしょう? そんな金があるのなら娘の再教育に使ったらいかがですか? いずれは伯爵家の女当主になるのでしょう? 着飾るだけが貴族ではない。貴方はご存知でしょう? スミス伯爵家にはもう一人お嬢さんがいましたね? そちらの教育を早めた方がまだマシなのかもしれませんよ」
妻がローゼン子爵夫人に声をかけられ、それから血を吐くような努力をして、伯爵夫人として家を支えている。茶会でも恥をかくことがなく、自身でも茶会を開くまでになったのはローゼン子爵夫人の優しい声かけのおかげで、いずれはローゼン子爵夫人を招きたいと妻は言っていた。
外見だけを整えれば良いと言うことではない。中身が大事なのだ……貴族社会で仲間はずれになると言うこと程怖いものはない。家格ではなく信用が大事なのだ。
貴族は平民からしたら税金をむしり取り金を巻き上げ毎晩パーティーを開き贅沢をしていると言うイメージだ。領地を経営して発展させているのは領主次第だし、何かあれば家族や親族……血縁関係のある家はあっという間に没落する。
その中で子爵家は昔からある家門で貴族の心得を承知していると言う事だ。金を渡せば収めてくれる様な家ではないと理解した。
「私どもの教育が行き届いていませんでした……私も今回の件で勉強させて貰いました」
心からの謝罪をする事でローゼン子爵は収めてくれた。うちの評判は落ちるだろうが、今から出来る事はしなくてはいけない。
金で買った貴族と本物の貴族の違いを見せられた。ローゼン子爵がなぜ皆に慕われているのかが分かった。