パトリシア
「このっ! バカ娘っ!」
ここはパトリシアの家の伯爵家当主の執務室だ。びくんと肩を揺らしそぉっーと父の顔を見る。
パトリシアの家は伯爵家だが、新参者と言われるほど歴史が浅い。金をばら撒いて伯爵家を金で買った。
元は平民でパトリシアの祖父が一代目で現在は二代目だ。貴族のしきたりも突貫工事の様に覚えさせられたパトリシアの母は毎日疲れている様子だった。
祖父が伯爵を買った時パトリシアの両親は裕福な平民だった。平民の中ではピラミッドの頂点にいて母もそれなりの家の娘だった為偉そうに振る舞っていたが、貴族になると全くそれが通じない。憧れていた貴族は思っていたより窮屈だった。
貴族になりたての為誰よりも下の立場にある。伯爵とは名ばかりで新伯爵家の奥方を興味本位でお茶に誘う。
誘われたら行ってこい。家の為だ。と祖父に言われパトリシアの母はお茶会に参加するが、どう振る舞えば良いかわからず苦労した。それを見て楽しむ貴族たちの姿があった。あるお茶会は家の近くの子爵家で、子爵家や男爵家の夫人が何人もいた。
この頃は少し茶会に慣れてきた。と言っても友人が出来たわけでもなかった。
パトリシアの母の隣に座った夫人はローゼン子爵家の夫人で古くからある家のようだった。笑顔で挨拶をされ見かけない顔ですがどちらのご婦人でしょう? と声をかけられた。
最近貴族になった私は子爵夫人の事を知らなかった。初めて茶会でまともに話をしてくれた人がルビナの母ローゼン子爵夫人だった。とパトリシアの父は妻から聞き心の広い方で素晴らしいと思っていた。ローゼン子爵夫人と話をしていると、周りの婦人も話に加わり初めて茶会を楽しめたのだ。と聞く。ローゼン子爵夫人のお陰でパトリシアの母は救われたのだ。
その後ローゼン子爵の話を取引先から聞いた。夫人もそうだが当主も慕われている。そんな人柄だった。
三代目が上手くいけば貴族としての地位も確立する。パトリシアには高位貴族の家を継げない次男か三男に婿に入ってもらい、伯爵家を安定させる予定だった。
パトリシアには十分に金をかけ、伯爵令嬢として美しく育てた。しかし心の成長が追いつかなかった。伯爵家令嬢だからと子爵家や男爵家を小馬鹿にする様なところが見られた。いわゆる選民意識がある。
「お前のせいでローゼン子爵家に申し訳が立たない。なんて事をしてくれたんだ……」
怒る気力を失い椅子に座るパトリシアの父。
「たかが子爵家に何でお父様が低姿勢にならなくてはいけないの? いつものように金をばら撒けば良いじゃないっ! うちは伯爵家なんだから、たかだか子爵家になんで頭を下げなきゃいけないのよ! パーティーだって伯爵令嬢の私が招かれた方が格が上がるでしょう! 華やかな衣装を着て場の雰囲気を良くしてあげようと思ったのに! それにあの子の婚約者のディートがいいって言うから入れてくれたわけだし問題なんてないわ」
「招待状を持っていなかったとは……これは侵入行為だ。令嬢の大事なデビューにケチをつけよって……それに婚約者の略奪まで、」
「はぁ? ナニソレ? 略奪なんてしてないわよ! ディートは単なるクラスメイトよ! あんな小物相手にするわけないじゃない! 子爵家よ?」
たかが子爵家の息子よ? いくら嫡男でも無理でしょ! 私は伯爵家女当主になるんだから!
「とにかく……私はローゼン子爵家に面会出来るように手紙を書く。おまえへの罰は後ほど言い渡す。学園に通うのはいいがそれ以外の外出は禁止とする。他家へのパーティーなどもっての外だ」
何よ! 私は悪くなんてないのに。外出禁止? 来月はクラスの子息のパーティーが二件だから間に合うわよね。それ以外の外出は……ってあれ? お茶会の招待って最近ない……クラスの子息以外のパーティーへの招待もない……え? いつから?
確かに私は令嬢と連むタイプではないけれどお茶会の招待状はそこそこ来ていたはず。だって伯爵令嬢だもの……
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それにしてもディートとは本当に友人なだけ。しかも元友人! 今は単なるクラスが同じの同級生。
あのルビナって子も何様よ! 婚約者を私に取られたと思って親に泣きついたってこと? 単なる友人なんだからそれくらい笑って許せばいいのに。
ディートだって買い物に行ってくるからちょっと待ってろ。って言えば済むだけの話を怠っただけ。一緒に来たんだから一緒に帰るのは当然なのにルビナって子は大袈裟なのよ。
か弱いふりして爆弾を落とすなんて性格悪すぎでしょ!
何が暴言よ。持ち場を離れたのは自分なのに被害者ぶって! これだから女は嫌いなのよね!
クラスの男どもの婚約者も、私と仲良くするのが嫌だなんて言って心が狭すぎるわよね! 友人なんだから良いじゃないの。婚約者の心を繋ぎ止めることができなかったのなら、それは自分のせいじゃないの! 鏡でも見て美しくしてれば良いでしょう? 努力が足りないのよ!
人のせいにするなっての。