ディートの言い分
「ですから、何度も言っていますよね、シアは単なる友達ですってば」
会場からなぜか出され、いやルークに追い出された!! 両親は慌てて別室へと追いかけてきた。
「このバカっ! もう我慢が出来ん! その友達と婚約者どっちが大事なんだ! そもそも婚約者以外の令嬢を愛称で呼ぶ奴がいるか! ルビナ嬢の存在を蔑ろにする行為だと何故分からんのだ!」
別室にてディートの父であるモリソン子爵が息子を怒鳴っていた。
「父上は何を言っているんですか? 何度も言いますがシアは友達ですよ、ルビナと比べる事なんて出来ませんよ」
やれやれと言った具合にディートは頭を振る。その余裕な態度に答えは“ルビナ”と答えるだろうとディートの両親は思った。
「ルビナはルビナでシアはシアです」
意味のわからぬ答えに夫妻の思考が停止した。
「比べるなんて失礼ですよ。でもシアの家は伯爵家だから身分は上か……それならシアの肩を持った方がうち的には、」
誰に対して失礼なのか……
「……もういい。ここにサインをしろ」
ルークが準備した婚約解消届だった。ディートが会場の外に出された時に追いかけて行った子爵夫妻にルークが渡した書類で、サインをするようにと言って渡された。
子爵は自分の息子の愚かさに黙ってサインした。そういう約束であった。後はディートにサインをさせるだけ。それで婚約は解消になる。
この話が終わるなら良いか! と思い書類の確認もせずにディートはサインしろと言われてさっさと書類にサインをした。そしてその行動に呆れてため息を吐く子爵。
「なんですか一体! あぁ、きっとルビナが我儘でも言ったのでしょう?」
子爵は拳に力を込めて思いっきり息子の頭に目がけて殴りかかった。
ゴンッ!! 低い音が部屋中に響く。
「……何をするんですかっ! 痛いじゃないですかっ! 脳に異常があったらどうするんですかっ」
目をチカチカさせながら頭を押さえている。
子爵は騎士を目指して鍛錬していた過去がある。しかし父親の具合が悪くなり騎士の夢を断念、子爵家を継いだ。身体は今もなお鍛えているから重い一撃だった。
「嘘つきに鉄槌を下したまでだ……まず街歩きの件!」
「……? 街歩き……」
「ルビナ嬢を置いて先ほどの令嬢と帰ったそうだな」
「あぁ、ルビナが何も言わずに勝手に帰ったんですよ。普通言付けをするなり、なんな、」
もう一発は腹を思い切り殴る。
「ごふっ……」
ディートは酸っぱいモノが込み上げてくる……
「な、なんで……父上、暴力は反対、」
「お前が勝手な行動をしたんだろうがっ! 店の前で夕方までルビナ嬢はお前を待っていたんだぞ、それなのにそんな嘘を抜け抜けとよく言えたモノだっ! あちらはお前を信用して街歩きを許可してくれたんだ! ルビナ嬢が人攫いにでも遭っていたらどうするつもりだったんだ! どうやって責任を取るんだ! お前の命くらいじゃ足りんのだぞ! 私はこの話を聞いてお前の人間性を疑っている! 三時間だぞ! ルビナ嬢はお前の事を三時間も待っていたんだ!!」
「なっ。それはルビナの言い分でしょう! 息子のことが信じられないのですかっ」
なぜ嘘を本当のように語るのか……
「あぁ。息子がこんなにバカだったとは……ローゼン子爵家の皆さんに申し訳が立たない。詳細はもちろん我が家でも調べたに決まっているだろう! 証言者もいるんだ! 次は学園での暴言……それも私達に隠し次は今日! 主催者に許可も得ず人を招くなど言語道断! 婚約者のパーティーに異性を呼ぶとは……一生に一度のデビューの日が台無しだ!!」
「暴言ですって? 婚約者を躾けただけですよ! 何も言わずに勝手に帰るなんて有り得ませんからね。今回は許すが二度目はないと懐の広さを見せました」
子爵夫妻は自分は悪くないと言う息子が恐ろしく映った。
「おまえの躾を間違えたのは私達だっ! なぜ勝手にあの令嬢を招待した?」
「シアが来たいと言ったからですよ。僕の友人はルビナの友人。女性同士仲良くするのは当然でしょう?」
「お前の誕生日にルビナ嬢が男友達を連れてきたらどうする?」
「あり得ません。ルビナに男友達は居ませんから」
自分勝手な意見をつらつらと並べる息子を見てゾッとした……
「お前の頭をかち割ってそのおかしな考えを取り除きたくなってきた……が、もういい。ローゼン子爵令嬢との縁談はなくなった。もうお前に婚約者はいない。次の婚約者はお前の好きにしろ」
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