お父様は知っていた
「え? どうして……」
驚いた。たった今気持ちを告げたばかりなのにどうしてこんなものが用意されているのか。
「街歩きの件、学園での暴言、これについてはモリソン子爵に既に報告済みだ。ディートがこれらを子爵夫妻に話してどう対応をするか確認したかったからだ。ルビナも暴言については私達に相談してくれなかった様だが、自分の中で気持ちは決まっていたのだろう? ルビナの気持ちを優先したかった」
お父様もお母様も全て知っていたのね。
「暴言の件についてはショックを受けましたが、友人達に話を聞いてもらい整理がつきました。今日から私も社交デビューし大人の仲間入りとなります。ですから一人の意見として今日、お父様やお母様に話をしようと思いました」
「……バカね。大人になるって言ってもルビナはいつまでも私達の子供に違いないのだから、いつでも相談して欲しいの。今回の事でディートと言う人間がよく分かったわ。きっとこれからも同じことを繰り返すと思うし、これ以上傷つくルビナを見たくないのよ」
お母様も色々考えてくれたみたいだ。お母様とモリソン夫人とは友人関係でもある。きっと今まで通りとは行かない。
「今回のパーティーではルークが速やかに対応した事により、招待客に不快な思いをさせることがなかったと思う」
私の周りにいた人。主にクラスの友人は見ていたけれど彼女達は空気を読み何事もなかったようにパーティーを楽しんでくれた。
「お兄様ありがとうございました」
隣に座るお兄様にお礼を言った。
「いや。私は当然の事をしたまで。可愛い妹の晴れ舞台に何故かいた邪魔者を排除しただけだよ。それと、あの無駄に着飾った令嬢を招待したのはディートだった。令嬢が来たいと言ったそうだが招待状を持っていなかったのでお帰り願った。会場に入って来られたのはディートが門番に無理を言い令嬢が来たら通すようにと言っていたらしい。加担した門番は半年間の減給とした。部外者を中に入れて何かあってからでは遅い。ゲストの安全を守ることもホストとしての役割だ」
本当はクビにしたかったが家族を路頭に迷わせるのは得策ではない。とお兄様は言った。今後勝手な真似はしないと門番に一筆書かせて二度目はない。誰に雇われているかということを言い聞かせたようだった。
この短時間でお兄様は色々動いてくれていた。
それにしても……ディートが勝手にパトリシアさんを呼んだ? 私のパーティーに?
うちと接点はあるけれどモリソン子爵家(ディートの家)とあまり仲の良くない家は呼ばなかったりと気を遣い招待客を吟味したのに、ディートが勝手にパトリシアさんを呼んだと言う事に対して全く信用が出来なくなった。
「この書類は先程子爵とディートにサインをもらった。ルビナから相談を受けて、いつでも婚約解消できるように。ルビナには悪いがこの件は私の一存では決めることが出来ない為、両親に話をして了承を得ての事だった。ディートがルビナのバースデーに勝手に人を招待するとは思わなかった」
「お兄様を信頼して相談したので、お兄様がお父様やお母様に話をした方が良いと思ってくださったから、この書類があるんですもの。領地の事ではお互いに協力しあっていると聞いていますが、この件で亀裂が入りませんか?」
領地に迷惑が掛かっては元も子もない。と言ってもディートとの婚約解消はしたい。迷惑がかかるのなら、私は……
「この件に関して領地のことは全く関係がない! それはモリソン子爵も分かっているだろう。だからルビナは気にしなくても良い」
「はい。何か罰があればおっしゃってください」
「そんなものはない。ルビナは今まで通り学園生活を楽しみ、社交をすれば良い。ディートの件はこの父に任せておきなさい」
「そうよ。今日はルビナのバースデーで今日から社交を頑張るのよ。そうだわ。ルビナのバースデー祝いに乾杯しましょうか? 良いシャンパンがあるのよ」
執事がグラスを四つとシャンパンのボトルを持ってきた。
「ルビナ、おめでとう乾杯」
「ルビナ、今日から新たな気持ちでね。乾杯」
「今日のよき日に、嫌な事は忘れよう。乾杯」
お父様、お母様、お兄様が順番に言葉をかけてくれた。
「お父様、お母様、お兄様ありがとうございます。この家に産まれてきて良かったです」
初めて口にするお酒は苦く感じたけれど、家族で乾杯出来たのは嬉しい。でもお酒はもう良いかな……美味しさが分からないもの。