バースデーパーティー
「ルビナさんおめでとうございます」
クラスの皆さんからお祝いの言葉とプレゼントをいただきました。
「ルビナ、友達が沢山来てくれた様だね。良かったな」
ポンといつものように頭を撫でるお兄様。友人の前で文句を言ってはだめね。じろっと睨んでおいた。
「ルビナさんからいつもお兄様のお話を伺っていますの。本当に仲が良くて羨ましいですわ」
ソフィアさんがそう言うとお兄様の婚約者のシンシアさんが近くにいて、お兄様がシンシアさんを呼んだ。
「ソフィア嬢はシンシアと親戚なんですよね? ルビナやシンシアからソフィア嬢の話をよく聞いています。これから妹共々よろしく頼みます」
お兄様がソフィアさんに挨拶をしていた。
シンシアさんはお兄様の婚約者で明るい方でソフィアさんとは親戚で仲が良いと聞いた。ソフィアさんはお兄様が二人いてシンシアさんはソフィアさんにとってお姉さんのような存在らしく将来は私の義姉になるので、ソフィアさんとはよく、シンシアさんの話も話題に上がります。
パーティーが始まる頃にモリソン子爵家の皆さんが来てくれた。
「おめでとう」と声を掛けられる。今日はディートと話をしようと思っていたので、その事を伝えようとした。
「あの、ディートあとで、」
と言った瞬間…………
「シア、こっちだ!」
そう言って手を振りこっちに来るように促した。シアってまさか、パトリシアさん? 招待した記憶はない。
私の友人達は皆眉を顰め怪訝な顔をした。その様子を見てお兄様も何かを察したようだ。
「ルビナ、あの令嬢は招待客か?」
お兄様に耳元で聞かれて首を横に振る。
「そうか……それにディートは“シア”と呼んでいて仲が良さそうだが、彼女が噂の令嬢か?」
お兄様には全て話をしていたから味方になってくれる。だから頷いた。
「分かった。ここは私に任せなさい。今日の主役はルビナなんだ。すぐに戻るから背筋を伸ばしているんだぞ。周りに何かあったと悟られない様にするのもホストとして大事な務めだ。シンシア、ソフィア嬢、悪いけれど私は少し離れるからルビナの事を頼みます」
「「はい」」
シンシアさんとソフィアさんは声を揃えて、私に笑顔を向けた。
「ルビナさん、ここはルークに任せましょう」
シンシアさんの言う通りお兄様に任せておく。私のパーティーになぜパトリシアさんが来たのか分からない。社交界にデビューする私のドレスの色は瞳の色に合わせたグリーンと白を基調にして白のすみれの花が刺繍してあります。私は昔から花の中ですみれが好きだから刺繍を入れてもらいました。すごく気に入っています。
パトリシアさんは大輪の赤いバラをイメージした派手なドレスを身に纏っていた。美しい方なのにあんなにゴテゴテとしたドレスを着なくても良いのに……というのが第一印象だった。
私のパーティーで嬉しそうにパトリシアさんに近づいていくディートを見て私の決心は固まった。モリソン子爵夫妻が近くにいてディートの姿を見るなりワナワナと震え出した。
「おじさまもおばさまも楽しんでいってくださいね。それでは失礼します」
カーテシーしてその場を去った。モリソン子爵夫妻は焦ってディートを追いかけようとするが、ディートはお兄様に声を掛けられ会場の外に出た。パトリシアさんは家令が出てきて会場の外に連れて行った。
これはあっという間の出来事だったので、私の周り以外は何のことだか分からないだろう。そしてディートが戻ってくる事もなかった。
私は背筋を伸ばして招待客に挨拶をして回った。婚約者はいるけれど社交界にはまだ出ていないので、ディートと二人でいる所を見たことのない大人達は知らない。
と言うことは大半の人が知らないのだ。今日のパーティーでディートと二人でいるところをお披露目する予定だったが、お兄様がパートナーになってくれた。不測の事態に備えてだった。
私にはディートに対して忠誠心などない。この先将来を共にするなんて出来ない。人をペット扱いするような人間とは無理だ。
周りに迷惑がかかるかもしれない。でもこれだけは譲れないの。
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パーティーは無事終了した。私はお父様とお母様にディートとの婚約を続けるのは無理です。と頭を下げた。
勇気を振り絞り声が震えた。家同士の決めた婚約だから子供が嫌だと言っても聞いてもらえないかもしれない。
すると…………
「分かった。今すぐ白紙に戻そう」
とお父様は言い、婚約解消手続きの書類が用意されていた。そこにはモリソン子爵とディートのサインも記入済みだった。