ルビナには婚約者がいる
「それでは二人の婚約を認めることとする。両家のさらなる発展に期待しよう」
皆が笑顔の中で私達の婚約が結ばれた。
私の名前はルビナ・ローゼンと言います。たった今婚約が成立したばかりです。
私の婚約者となったのはディートリヒ・モリソン。子爵家の嫡男、そして私の家も子爵家で家格も丁度よく、年齢も同じ。お互いの両親の仲も良好だという事から婚約をするに至りました。
ディートとは幼い頃から何度も顔を合わせた事があるので、この婚約に反対はなかった。全く知らない人と政略結婚するより良いかな。そんな感じでした。
貴族の結婚は両親が家の繁栄のために決定する事が多く、すごく年が離れていたり、見ず知らずの人と結婚させられたりすることも多々ある中で、両親が決めた相手はディートだったから良かったのかも知れません。
私達が婚約したのは十二歳の時だった。その後十五歳になると学園に通うこととなります。学園に入り知らない貴族の子女達と出会う事は楽しみでもあり少し不安でもあります。
今日はディートが家にくる日だった。
学園から入学のパンフレットが届いたので二人で確認をしようと思いました。
お茶を飲みながらパンフレットを見ました。学園は広大で【騎士科】【一般貴族科】【官吏科】といった感じでクラス分けされる。
【騎士科】は男女問わず人気のクラス。
【一般貴族科】は経営学を学ぶクラスでディートは経営学を選んだ。将来は嫡男として領地経営をする為だ。
ルビナはディートと同じ科でもクラスが異なる淑女として花嫁修行の一環である教養を学ぶ淑女コースを選んだ。将来はディートを支えていかなくてはいけませんからね。
【官吏科】は公務員のようなもの、将来王宮で働く事務官になるためのクラスだ。貴族の家の次男などが多かったりする。
この学園は誰でも入学できる訳ではなく、入学金や寄附金その他諸々出費が重なる。
この学園に入学する事は一種のステータスともいえる。
【王立学園に子供が通っています】と社交場で親達は声高々に自慢する。
この学園に入学するということは厳しい入学試験を合格しなくてはいけない。入学はできても卒業できなかったとなると恥である。中退なんてしようものなら一家の恥だ。
ゆえに皆が切磋琢磨して高めあう。中には出会いのチャンスを求めて……などという生徒もいるが、風紀を乱さなければ咎められる事もない。
結婚し子孫を残すことは貴族としての義務のようなもの。
それからルビナもディートも入学しお互い忙しくしているが、お昼休憩は婚約者らしく二人で食事をする。同じ学園ではあるが、クラスが違えば中々会うこともないのだからお昼くらいは一緒に過ごそう。という約束をしていた。
学園では多くの人が食堂を利用しする為、人が多くメニューも騎士学科の生徒がお腹がいっぱいになるほどの量を提供される。少なめと言っても結構な量だ。お腹がいっぱいになりお昼の授業に支障が出ることから令嬢からは不評である。
しかしスイーツセットが美味しくそして安価な為これを目当てに食後のお茶だけに行く生徒たちも多い。
ランチタイムとの時間が重ならないところを見るとそういう目論みもあるのかもしれない。
食堂は人が多く落ち着かないためルビナがディートの分も昼食を準備し晴れた日は外で、天候が悪い日は休憩室などで過ごす。休憩室は食堂と違い机と椅子があるだけで食事の提供はない。ここを使う生徒はランチ持参の生徒が多い。
いつも通りランチをとり会話を楽しんでいた。すると女子生徒がディートリヒを呼んだ。
「ディート!」
「おっ。パトリシア、どうしたんだ?」
ディートリヒを愛称のディートと呼ぶ綺麗な令嬢。ルビナとはクラスが違うので面識はない。誰だろう? 首を傾げるとパトリシアと呼ばれた令嬢はディートと話し込む。
「ディートったら本当に婚約者とランチしてるのー? 律儀だね。クラスのみんなディートとランチしたがってるのにディートは婚約者と約束しているからって言うんだもの。どんな子か見に来ちゃった」
「あぁ、そんなこと? 婚約者のルビナだよ。幼い頃からの付き合いなんだよ」
ディートのクラスメイトなのね。挨拶しなきゃ。
「初めまして。ルビ」
「そんなことより、たまにはクラスのみんなと交流を深めるためにもランチしない? バカ話に付き合ってあげてよ」
ルビナの自己紹介は遮られる形になった。と言う事は名乗り合っていないのだから、知り合いでも何でもないと言う事。自己紹介をさせて貰えなかった。
「それもそうだな。ルビナはクラスに友人ができたんだよな? 僕がいなくても大丈夫か?」
ディートに言われて返事をしようとした矢先、
「まぁ。ふふっ。ディートったら婚約者じゃなくて保護者みたいよ。友達くらいいるでしょ。女子しかいないクラスなのよ? いない方がおかしいわよ」
「そうだな。ルビナ悪いが明日はクラスの友人と過ごしてくれる?」
ディートに言われ「うん」と返事をした。