第9話 魔法
すみません……!
最近は少し忙しかったため、更新が滞っていました。
明日も投稿する予定ですので、飽きないで見守ってやってください……!!
──放課後、そよぐ風を受けて、今日も平和を感じる。
走りながらではそんな感情もなくなってしまうかもしれないが、俺は別段、変わった心情はない。
ただ、横を顔を青くし乍ら全力疾走する少女──月夜の絶叫を聞いてしまえば、その平和的ムードを壊される。
「な、何故魔物に追われているの……私たちは……!!!」
「そりゃあ、自分の縄張りに入ってこられて怒ってんだろうよ?」
「縄張り……? 魔物にそんな物は無かった筈……!!」
ふむ、勿論のことながら魔物にだって縄張りはある。
その縄張りが個体によって変わるために、縄張りとして確立されていなかったが……。
とはいえ、魔物の縄張りは大体が1mから10mほどだ。
そして、今俺達が追われている……俺達を追っているイノシシ型の大型魔物はそれを大きくはみ出して、100m程の大きな縄張りを持っていた。
つまり、俺達はその中に入ってしまったために魔物に追われているのだ。
「と言うか、何で攻撃をしないんだ?」
「……出来ない、から。」
「……なんか事情があるらしいな。とはいえ、このままだとお前の体力も底をついて終わりだぞ。一旦魔法の構築位はしとけ。走行補助の魔法とかな。」
街の横に存在するこの森は足場が悪く、坂道が多かったりもするため、戦士でも何かから逃げる、追うなどの行為は少し難しい物となる。
だと言うのに、魔法職であるはずの月夜は走行補助の魔法もかけずに走っている。
まだ追われ始めて2分とちょっと。
既に息が上がり始めている月夜はそれでも魔法を発動しようとしない。
俺は疑問符を浮かべて月夜に聞く。
「……なんで構築すらしないんだ?」
「だから、私にはそれが出来ないから……!!」
つまり、魔力自体はAクラス級だが、実力は劣るという事か……?
だが、それならば何故ここまで熱心にAを目指すのか……?
いや、あの時此奴は「実力はある」と言っていた。
だが、走行補助の魔法が使えない。
そして足止めの攻撃もしない……なんとなくだが、わかった気がするぞ。
俺は月夜を止め、魔物に相対させる。
「ちょっと、なにをして……」
焦っているのか、朝とは少し違った口調で俺の静止に戸惑いの声を漏らす。
そんな月夜に俺は言う。
「お前、魔力操作が下手なのか?」
「っ……」
びくりと体を震わせて顔に影を落とす月夜。
正解か。
俺はその反応からあまりいい思い出が無い事を悟る。
一つ溜息をつくと月夜の腕を掴んで持ち上げる。
そうして月夜の魔力を操作して魔法を組み上げていく。
「これは……何……?」
自分の魔力を使われる感覚にか、それとも、自分の魔力によって魔法が組みあがっていくことに対する感覚にかはわからないが、月夜がそう声を漏らす。
俺は月夜の魔力によって構築した魔法を起動した。
「【照火球】。」
俺の声と共に魔物へと近づいていくマッチ程度の小さな火の玉。
魔物はそれに気付いていないのか、尚も俺達に突進してくる。
つまり、無知という訳だ。
そして、彼女、月夜もまたそれに該当する。
「あ、あんなので止まる筈ない! 早く逃げよう……!!」
この魔法を切らない物は全員このような反応をする。
だが、案ずる事は無い。
何故なら、今の魔法は、魔法の弱点である精密な魔法構築を隠す事も無く曝け出しているからだ。
魔法と言うのはその精密性にこそ威力や効果が左右される。
そして、本来はそんな大事な骨組みを晒して攻撃をする事等無く、その守りが強固であればあるほど強い魔法であるという証になる。
だが、それは目安であり、絶対ではない。
今の魔法は、その大事な骨組みを晒している訳だが、その骨組みはそこらのどの魔法よりも繊細で精密だ。
つまり──
「逃げる必要はない。」
──ドゴオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
魔物に当たると同時、俺が月夜を媒体にして放った魔法は大きな爆発を起こす。
見れば、皮膚肉は炭化し、残った骨が剝き出しになって魔物が息絶えていた。
「しょうがない。お前に特訓を施してやろう。」
俺はそう言うと、指で月夜を此方に寄せて、森の奥へ歩き出した。
何故、Aの高みを目指すのか……。
そして、何故、魔法を発動できなかったのか……。