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第23話「不愉快だ」

 ──「──俺は、お前が本気を出すまで、魔法を使わない」


 途端、彼女、鬼禰嶋大廻が眉間に皺を寄せる。

 それは、不快感、怒り、屈辱、彼女の中にあるプライドを破壊するような、自尊心をずたずたに引き裂かれたかのような、途轍もない憤りを感じる言葉だった。


 「……お前、不愉快だ」


 彼女の口調が乱れる。

 普段のお調子者の様な、甘ったるい口調とは一切変わって、全面に棘が付いたような、薔薇の様な声で彼女は世冥に近付く。

 その一歩一歩に、景色、空間が歪むほどの魔力を滲ませ、ゆっくりと近づく。


 「どうしたんだ、本気は出さないのか?」


 世冥の心からの純粋な、ただの疑問が、彼女の怒りに油を注ぐ。

 既に沸点の低い彼女は爆発寸前だ。

 そんな彼女は最後の忠告だと言わんばかりに、その拳に魔力を溜める。

 溜められた魔力は、猫の手の形を模したナックルに収束し、大気を震わし始める。


 「これでもまだ魔法を使わないつもり?」


 吐き出される、呪詛の様に重たい声、言葉に、去れども世冥は何も変わった様子がうかがえる訳でも無く、ただ一言。


 「使う必要もない」


 途端、砂煙が舞い上がる。

 折るれて、けたたましい揺れと、快音を超えた轟音が響き渡る。

 周囲には荒らんだ魔力の残滓。

 その砂煙の中に、影が映る。


 そこで司会が言う。


 『おーーーーーーっと!!どうやら!あの期待の1年、三簾世冥君ですら生徒会の力の前には平伏す事しか出来ないのか!!!』


 鬱陶しい程の甲高い声に、気の立った鬼禰嶋は更なる苛立ちを覚える。

 鼓膜が、怒りの限界が弾けそうだ。

 砂煙の中、彼女は勝利を確信し、パーカーのフード、その端を掴んで深くかぶりなおす。

 もう用はないとでも言ったように、その場に背を向け転移陣の書かれた地点へ足を一歩踏み出した。


 その瞬間の事だった。


 気が付けば、彼女は反射で魔法結界を張っていた。

 彼女の背中に、今まで感じた事の無い程の恐怖が突き刺さるように飛んでくる。

 魔王と相対したその日以来感じてこなかった、背筋が凍りつくような、濃密な殺気と恐怖。

 背筋を凍らせたその正体は、勿論、世冥である。

 鬼禰嶋が、体中の魔力を一時的に一点に纏め上げ、防げるはずのない魔力の圧倒的質量に、セクラは涼しい顔で佇んでいた。


 ありえない。


 彼女はそう思った。

 だが、この事実は、覆しようもない真実だった。

 自分では彼に遠く及ばないと、言外に、叩き付けられたような錯覚に陥る。


 否、既に言葉にされていたかもしれない。


 「本気を出すまで、魔法を使わない」


 この言葉に、そんな意図があったかは、世冥の身が知る所だが、彼女にはそう思わずにはいられなかった。

 否、それ所がそう思わねば、彼に攻撃を与える権利すらなくなるのではないかと思えるほどに、鬼禰嶋の眼には世冥が大きく見えていた。

 敵わない。

 生徒会の一員が本能でそう悟るほどに圧倒的な、威圧感。


 「……この、悪魔……」


 息が乱れる。

 心拍数が乱れる。

 思考もまとまらなくなる。

 何もかもが全くと言っていい程に遠く感じてくる。

 否、遠ざかっている様に感じてくる。


 「悪魔?お前には言われたくないがな」


 セクラの声に、全身の毛が逆立つ。

 怪しげな笑みに、圧倒されるほどの殺気。

 気が付けばフードは開け、その絹のように真っ白な後ろ髪が露になっている。

 若白髪なんてものじゃない、もっと特別な、“神”に選ばれた物の印。

 それを汚された怒り、そして、世冥への圧倒的な恐怖に、彼女の感情は限界を超えた。


 瞳に死が灯った。


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