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第17話「そして俺は」

今回は少し長くなってしまったので途中で切り上げるような形にしたのですが、少し残酷な描写が出来上がってしまいました。

 魔力の混じった湿った風が吹き抜けていく。

 それを肌で感じながらも、辺りを眺めて自分がいる場所を確認する。

 魔力で作られたとは思えないリアルな質感の土、草、木、湿った空気。

 生い茂る草木は天まで延び、周囲を覆い隠し、苔の生えた大木が横たわっている。

 そのどれもが魔力を帯びているため、周囲に溶け込むには好都合かもしれない。

 俺のステージは森林か。

 木々からぶら下った蔦をいじりながら相手選手が現れるのを待つ。

 まだだろうか?


 と、思っていたのだが、どうやらこの場にその相手選手が現れる事は無いようだ。


 『さてさて!!!やってまいりましたは!第2リーグ第七試合!!!現在、無条件で第2リーグへ進出した今年の新生Aクラス、世冥君はフィールドの中心で周囲の探索中か!?まさか、あの鬼瓦おにがわら てつ君をおちょくっていると言うのか!!恐ろしや新生Aクラスぅ!!!!!』


 などと、中々の煽り文句を垂れてくれるものだ。

 そもそも俺は相手がだれかを把握していないので、おちょくるも何もないのだが、中々戦闘が始まらないからこうして煽りつつ進行しているのだろうな。

 そして、こんな煽り方をするという事は、相手は中々短気な性分なのだろう。

 要するに面倒臭い奴という事だ。


 俺がそんな事を考えていると、少し離れた所からけたたましい騒音が響いて来る。

 何事かと思いその方を見てみると、此方に急速接近する魔力が一つ。

 どうやら、今の煽り文句で火が付いたようだな。

 と、気が付けば俺の目の前に小規模なクレーターを作り、豪快な音を立てて着地をする相手生徒、鬼瓦。

 クレーターの中は土埃と蒸気で覆われ、鬼瓦のその姿は見えないが、溢れる魔力がその居場所と挙動をしっかりと教えてくれる。

 と、何やら大きなものを持ち上げたようだが、どうしたのだろう。


 魔力を満ちた巨大な岩の様な物を持ち上げ、勢い良く振りかぶると、その質量が出せるとは思えない速度でそれを投げ飛ばしてくる鬼瓦。

 必然的に発生した煙幕を掻き分けてその岩石が姿を現し、鬼瓦のその姿を露にしてくれる。


 「やっと姿を見せてくれたか。待ってたぞ。」


 俺はそう言いながら岩石を手の甲で軽く弾いて数キロ離れた地点に軌道を変えて飛ばす。

 その光景に対してか、俺の言葉に対してか、どちらにせよ何とも言えない顰めっ面で鬼瓦は俺を睨み付けてくる。


 「お前の実力は解った。確かに、それくらいの力があれば俺の事をおちょくるのも解るが、あんまり先輩を揶揄うのはやめておいた方がいいぞ。先輩には俺にも手の届かねえ存在がわんさかいるからな。」


 と、何やら忠告めいたものをしてくれるが、別に俺は先輩をおちょくる様な事を趣味にしている訳でも無いし、今回も俺が知る形式で始まる物だと思って鬼瓦を待っていただけなのだが。

 まあ、そんな事を言っても相手にされない事は既に分かり切っている。

 「とりあえず、さっさと始めよう」と、声を出そうとしたところで鬼瓦が続けて口を開く。


 「そして俺は、お前の手の届かねえ存在だ。」


 と、突如として地面に亀裂が走る。

 何かと思い、その亀裂を見れば亀裂が発光し、鬼瓦が飛び立つと同時に鬼瓦がいた場所を中心として大爆発が起こる。

 紅紫こうし色の爆炎が俺の体を飲み込み、爆心地から半径6キロ程を焼き尽くす。


 「ハァハハハハハ!気持ちがいいな!一年を甚振るってのは!」


 鬼瓦が木々を抜けた先の天空で高笑いを響かせる。

 黒煙で全経12キロ程の様子が一切窺えない状態で司会が叫ぶ。


 『なぁんとぉ!!!!鬼瓦君、容赦なく一年生を葬ったぁ!!!これには流石にAクラスであったとしても一年生である限り耐えられないだろう!!!!勝者──』


 なんて、既に決まったように勝者の名をあげようと司会が声を張り上げる。

 一瞬開いた隙間から鬼瓦の勝ち誇った顔が見える。

 俺は少し考え、ため息をついて声を上げる。


 「まだ、勝者の名を上げるのは早いんじゃないか?」


 刹那、司会の声が止まる。

 それに合わせて、周囲に立ち込めた黒煙を右から左に薙ぎ払う。

 黒煙が一気に晴れていき、司会からも俺の姿が見えるようになる。


 『……あ。な、なんとぉ!!!!!今の一撃はもしや、鬼瓦君の先輩としての慈悲から威力調整をしていたのか、一年Aクラス世冥君、無傷だぁぁああああ!!!!!!!』


 司会室にまで響き渡る生徒たちの歓声を聞いて、どうやらウケている事を知る。

 中々恥ずかしい物だが、それは置いておこう。

 俺は鬼瓦に向き直る。

 鬼瓦は呆けた表情で俺を見ているが、数秒ほどで再起動し、戦闘態勢を整えると、森林の中に落ちていく。

 何だろうか?


 『もしやこれは、潜伏作戦かぁ!!鬼瓦君、実に大人げない!』


 それは言い過ぎでは?

 と、司会の声に少し違和感を覚えてると、周囲に無数の炎魔法が展開される。

 どれもが中級から上級の魔法だが、含まれる魔力は少量で構築は乱雑過ぎる。

 威力は中の下程も無いだろう。

 俺が分析を終わらせると同時、魔法が一斉に放射される。


 けたたましく鳴り響く轟音だが、俺には何のダメージもない。

 まったくもって無害だ。


 上がる黒煙の中からちらりと見えた鬼瓦の顔を見て少し笑ってしまった。

 希望に縋ったような、汗でぬれた笑み。


 滑稽だ。


 「もうすこし、実力を磨いた方がいいぞ。これじゃあ、熊の一頭も殺せやしない。」


 そう言いながら、また腕を横に振って黒煙を掃う。

 焦った様な顔で木々の間を駆け巡り、所々からランダムに魔法を照射してくる。

 中々に鬱陶しい。

 俺は一瞬止まった鬼瓦に向かって手を向け、鉄砲の形をまねて鋭撃の魔法の一種を放つ。


 「【空撃エア】」


 刹那、鬼瓦の胸と肩の間、腕の付け根にピンポン玉程度の穴が開く。

 血が噴き出し、数舜遅れで痛みを感じた様に腕を抑えて転がり落ち、森林の中から空に向けて飛び出る。

 中々消耗しているようで、肩で息をしながら皮脂油をぽたぽたと垂らしている。


 いや、痛みか。


 治癒魔法を肩にかけつつゆっくりと森林の中に潜り込み始める鬼瓦に少々鬱陶しさを感じる。

 いや、鬼瓦ではなく、森林に対してか。


 「……鬱陶しいな。」


 声に出てしまった俺の呟きに鬼瓦が肩を跳ねさせる。

 そんな気はなかったのだが、少し申し訳なくなるな。

 とりあえず、この森、焼き掃うか。

 態々このフィールドを書き換える必要もない。


 俺は一つの魔法を練りあげ、地面に向けて発動する。


 「【飛燕煉獄】」


 刹那、黒煙を上げる事も無くフィールド上にあった森林が炭に変わり、俺の魔法によって起こした暴風で宙に舞って消えていく。

 それに合わせて、大地が顔を見せ、先程まで大森林だったこのフィールドは荒れ果てた荒野に変わったのだった。


 「あと、あんたも降りて来てくれ。」


 宙に浮かんだままで茫然自失の鬼瓦に声をかけて重力魔法をかける。

 と、勢いよく地面に叩き付けられる。


 「ガフッ!」


 思っていたよりも強くかけすぎたようだ。

 だが、鬼瓦もこの程度ではこれと言ったダメージはないようだ。

 ゆっくりと立ち上がると、腰に掛けてあった剣を取る。

 時間も迫っているので、早めに終わらせた方がいいだろう。

 俺は、鬼瓦に向き直り、指先の動きで鬼瓦にかかって来いと意思を伝える。


 汗をダラダラと垂らして大きく吠えるように叫ぶと、愚直に突っ込んでくる。

 が、悪いがここら辺で終わらせてもらおう。


 大上段で振り下ろされた腕を左手で掴み、その顔面を右手で鷲掴みにすると、魔法を放つ。


 「【死爆】」


 相手の魔力を全て吸い尽くし、そのすべてを使い爆発魔法に変える魔法だ。

 その威力は相手が持つ魔力量によるが、今回は大当たりだったようだ。


 俺の掌から鬼瓦に向けて途轍もない爆発波が放射され、魔力の嵐が吹き荒れる。


 俺の掌にはねっとりとした液体がこびりつき、鬼瓦のいた場所からその後ろは真っ赤に変色していた。

 思っていた威力の十倍はあったな。

 俺の頬についたそれを、何もついていない左手の親指で拭う。

 それと同時に、司会が試合終了の声を上げる。


 『し、勝者、三簾世冥!!!!!なんとも圧倒的な勝利だぁあああああ!!!!!!!!』


 その数舜後に司会室に轟く歓声と悲鳴が俺の耳に届き、溜息をつきながら試合終了で自動発動する転移魔法に飲み込まれていくのだった。

悲鳴と歓声の嵐。主人公は一体どこへ向かっているのか……。

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