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第12話「お言葉のままに」

 ──会場には大きな歓声が沸きたち、大気を震わせる。

 ふむ、小枝も成長したな。

 俺はモニターに映った小枝を見て小さく口角を上げる。

 小枝は初めて一線を交えた時の印象が少し悪いしな。

 ここれ汚名返上とは行かずとも、株は上がっただろう。

 そんな小枝の勇姿を見届けると、ゆっくりと腰を上げて医務室へと足を運ぶ。

 昴の試合まで少し時間が空くからな、月夜の様子を見に行くことにしよう。


 会場として使われているのはドーム状の大型訓練場であるため、その通路もかなり広々としている。

 更に、普段は滅多に人も通らないため、一層広く感じてしまうほどには広い。

 筈だったのだが……。

 俺の目の前には飽和状態の生徒達がごった返して歩くスペースもない通路が現れる。

 それも、これで4つ目だ。

 通路は合計6つ。

 あと2つしか残されてはおらず、そのうち一方は関係スタッフの生徒以外の立ち入りが禁止の通路であるため残されるのは最後の一つ。

 そして、最も医務室から離れた通路だ。


 俺は渋々踵を返すと最後の通路へと足を運んだ。

 転移魔法を使えばいいと思うかもしれないが、試合中の会場内での転移魔法は使用禁止らしいので使いたくても使えないのだ。

 少し早足でその通路に向かえば、此方も生徒で溢れているではないか。

 だが、先程の様にごった返してはいない。

 確かに、少ない訳では無いが、それでも通れないほどではない。

 とは言え、歩きづらいのは変わらないため、俺は最後の手段に出る事にした。

 ゆっくりと足を前に進めながら全身に一つの魔法をかける。


 【透過魔法】。


 足元には透過防止の結界を張りながら生徒で溢れた通路をすり抜けていく。

 透過魔法で実態を一時的に消したため、周りの生徒達にぶつかる事は無く、着々と医務室に近付いて行ける。

 そうして医務室の前にたどり着くと、扉を開ける事無くそのまま壁を通り抜けていく。

 と、中々に広々とした吹き抜けの空間が広がっており、其処にいくつものベッドが並んでいる。

 その中でも少し陰った場所にあるベッドの上に月夜が横たわっていた。


 ゆっくりとベッドの間を通り抜けて月夜の元へ向かう。

 途中途中に、他の生徒の影もあったので、他の生徒の見舞いに来ていた生徒もいたのだろう。

 俺はそんな事を考えながら月夜に声をかける。


 「大丈夫そうか?」


 そう声をかけると、少し瞼に力を込めてその翡翠色の瞳を露にする。

 しばらく焦点の合わない眼であたりを見渡し、数舜遅れて俺を認識する。

 と、大きく目を見開く。


 「世冥……?」


 その声には、少しの戸惑いが隠れていた。

 俺はそんな月夜の前に屈みこみ、頭に掌を置いて月夜の魔力を少しだけ動かす。

 体内の魔力を動かす事で、脳の働きが活発化し、しっかりと意識が覚醒するのだ。

 ほかにもいろいろと効果はあるが、今は他の効果は関係ないし、必要ない。

 と、陽気に当てられたように目を細め、何かを思い出したように声をはっする。


 「……あ、私……」

 「ああ。負けたぞ。」

 「……」


 俺の声を聞くと、月夜は少ししょぼくれたように顔を俯かせてしまう。

 が、俺はその頭をそっと撫でながら慰撫の言葉をかける。


 「……そう気を落とすなよ。手の裏が分からなかったんだからしょうがない……と言うか、あれはまだお前には早い相手だったかもしれないな。」

 「早い相手?」

 「ああ。」


 俺は、先程少女が使っていた魔法の正体について説明をしようと、少し考える。

 が、どうせ後から教えるつもりだったので、今はそんな事は気にせず休ませてやろうと話を逸らす。


 「まあ、少し相手が悪かっただけだ。心配すんな、俺がお前の分まで頑張ってあいつのことぶっ飛ばしてやるから。仇でもなんでも取って来てやるさ。」


 俺は立ち上がり、そう言いながらその髪を乱すように少し力を入れて頭をなでてやる。

 確か、頭を撫でるのはかなりフィーリング効果があるとかないとか。

 まあ、俺はそこまで考えていた訳では無いが。


 「それじゃあ、時間的にもうそろそろ俺の番だろうから、行ってくる。」


 月夜の頭からその手を退けるとそう言い、少し寂しそうに眉の端を下げる月夜を見てちょっとした罪悪感にかられながらも医務室をでる。

 そうして、丁度昴の一つ前の生徒の名前が呼ばれたことを確認して客席に戻る。

 スタンバイは自分の一つ前の生徒の試合が始まる少し前らしいからな。

 ゆっくりと自分の出番が来るのを待つとしよう。


 ──「ねえ、頼みたいことがあるんだけど。」


 厳かな装飾で埋められた生徒会室に、少し幼さの残る凛としたちぐはぐな声が木霊した。

 その声は少し陰った入り口に消えていく。

 と、入り口のそばの陰りが水面の様にゆらゆらと揺らぎ始める。


 「どうかなされましたか?」


 刹那、そんな声と同時、押し上げられるようにして陰りから羽場が生えてくる。

 それを確認すると、生徒会、その主がもう一度そのちぐはぐな声を発する。


 「私、未だもう少し仕事が残ってるんだ。紙事が。」


 と、手元の書類をひらひらと閃かせてみせる。

 そうして少しの間をおいて話しの続きを始める。


 「それで、試合に間に合いそうにないんだ。だから棄権って事にしておいてくれないかな?」


 と、豪奢な机の隅にある小型モニターに映し出された試合中の生徒に目をやりながらそんな事を口にする。

 その声を聞いて、羽場が少しの間を開けるとそっと陰りの淵から日光の差し込んだ室内に足を踏み込む。

 と同時、そっと口を開いた。


 「少し申し上げにくいのですが、そのような事をする必要はないかと。」

 「ほう? 何故かな。何か策があったりするのかな?」


 その声を聞いて羽場が口角を上げて答える。


 「勿論ですとも。」

 「それは、面白い事かな?」

 「ええ、貴方様を退屈させるような案など、私には出せません。」

 「教えてもらおうか?」

 「『生徒会長』、貴方様のお言葉のままに。」


 何かに操られているかのように羽場が恭しく頭を下げる。

 そんな羽場を見て、豪奢な机、その備え付けの豪奢な椅子に深々と座りこみ、生徒会室の主、『生徒会長』──神音かみのね 姫妃ひめはにんまりと嗜虐的な笑みを浮かべるのだった。

渦巻く陰謀。その陰りに光るのは、純白の薔薇。

生徒会も少し面倒臭そうですね。

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