第10話「何がしたいの?」
連日の投稿です!
楽しんでいただければ嬉しい限りです。
今回は少し長めの戦闘回です。
──映し出された少女二人、そのどちらともがその手に持った武器を構える。
そんな様子を、投影された仮想モニター越しに俺たち生徒は見守るのだ。
あの世界は、世界の中でならばどんなことをしても実世界では一切影響がないと言う。
そのため、死者は滅多に出ないと言うが、ごく稀に出るんだとか。
さて、今回はどうなるか。
俺は騒がしい客席とその元凶である司会の煽り文句を耳から耳へと流して膝に頬杖をつくと試合に目を凝らした。
──「まさか、あなたが試合の相手なんてね……。」
そう口を開いたのは猫耳のついた水色のパーカ、そのフードを深々と被り、明るめな焦げ茶を揺らす少女、生徒会会計、鬼禰嶋だ。
その問いかけに月夜は首を傾げて答える。
「……誰?」
勿論、おちょくっている訳では無く、実際に月夜には見た事も無ければ記憶も無いのだ。
それもそのはず、鬼禰嶋はやらかしてしまった先の覚えがあるが、月夜からしてみれば、出会い頭に眠ってしまったのだから覚えているはずもない。
そんな事に気付いてか気付かずか少しほっとした様子で胸をなでおろす鬼禰嶋。
それに相対する月夜は更に怪訝そうに眉根を寄せて首をひねる。
「何がしたいの?」
「い、いや、何でもない……デス……。」
目を逸らしながらそう答える鬼禰嶋。
だが、月夜も既に慣れたのか諦めたのかは分からないが、特に気にする様子もなくゆっくりとその手に持ったミスリル性の杖を構える。
それに気が付くと、鬼禰嶋もその手に猫の肉球を模したナックルを装着する。
そうして、両者、十分な距離を保ちながら臨戦態勢へと移る。
一時の静寂。
観客もこの静寂に気が付き一瞬、熱狂を止めてしまったほどの静けさ。
その数舜後、もはや緊迫感までもが生まれつつある静寂を、けたたましい破裂音が一瞬にして消し飛ばす。
破裂音に続き両者の足場が抉れると同時、会場の熱狂もまたぶり返し始める。
そんな熱狂に答えるようにして、モニターを埋め尽くす砂埃の中から2つの魔法名が響く。
「《獄炎》!」
「《猫之欠伸》!!」
その声と同時、砂埃を穴をあける様に弾き飛ばし、2つの魔法とその使用者が姿を現す。
黒く濁った巨大な火球と白く曇った咆哮が真っ向で激突する。
当たれば、刹那の内に大轟音を残して辺り一帯を消し飛ばし消えていく。
霧散した魔力は濃密で、薄紫の霧が出ているようにも見えてしまう。
更には、投影モニターの中継機までもが魔力に充てられて乱れてしまう。
そんな鍔迫り合いの展開に会場は更なる熱狂に包まれる。
タイミングよろしく、濃霧の中から鬼禰嶋の声が聞こえる。
「中々、やるね。」
そんな鬼禰嶋の声に答えるように濃霧を掻き分けて2度目の火球が姿を現す。
だが、その色は先程と打って変わって鮮やかな瑠璃色だ。
咄嗟に鬼禰嶋が強化魔法をナックルにかけ、その拳で魔法を打ち消す。
それと同時、どこからか月夜の声が響いて来る。
「ありがとう。でも、あなたはまだ少し足りていないみたい。」
刹那、周囲の濃霧が白く発光を始める。
鬼禰嶋がその場から飛び退こうと身を翻せば、時すでに遅し、周囲の濃霧が一気に爆発する。
「《連撃炎》」
空を漂いながらゆっくりと降りてくる月夜は、今使用した魔法の名前を呟くと、鬼禰嶋のいた元まで歩きだす。
と──
「そんな程度で、軽くやられてあげるほど甘くないよ。」
──背後から声が響く。
その方へ顔を向ければ、其処にはそのフードが剥がれ、隠れていた後ろ髪がはっきりと見えている。
その髪の色は──
「白く……光っている……?」
──絹のように滑らかな白色だった。
そんな後ろ髪は特殊条件で魔法を発動した時と同様に白色の魔力光を放っていた。
それと同時、月夜が地面に膝をつく。
その瞬間、大地が大きく凹んだ。
「重力操作……?!」
いきなりの事に戸惑いの声を上げる月夜。
そんな彼女の頭上にゆっくりと小柄な影が近付く。
顔をあげれば、鼻から血を垂れ流し、その瞳を真紅に染めた鬼禰嶋が息を乱すことなく聳え立っていた。
そうして、ゆっくりとその右腕をもたげると月夜に向けて掌を突き出す。
そして一言。
「《暇乞之合言葉》」
途端、月夜はその身が抵抗をしていた事を忘れた様にその意識を手放す。
と、大轟音が会場を包み込む。
それは、抵抗も出来なくなってしまった、力ない月夜のその身が一気に大地を貫いた音だった。
それを合図とするように、試合終了の金が鳴り響いたのだった。
その能力の正体とは……。




