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第5話「私のスキルは」

少し情景描写なんかをしっかりさせてみようと思い立ち、気が付けばかなり長くなってしまいました……。

気長に読んでいただけると幸いです。

 ──月夜が家のクラスに来たが、それだけで大きな変化は一切なく、普通に授業が進んでいくばかり。

 とはいえ、何が変わったかと言えば、結構な数の変化がある。

 例えば、月夜の膨大な魔力、そして魔法技術のお陰で、このクラスでは一番の実力者だと既に噂されている。

 この調子でいけば、俺の最強説も消えて少しは目立たなくなるだろう。

 目立ちたくない訳では無いが、目立つよりは目立たない方がのんびりできるだろうとの事である。


 そして現在、実技の授業である。

 魔法、体術のどちらか、もしくは何方ともを専攻し、技術を磨いて自分の力を安全に扱うための授業だ。

 だが、俺は何も習う事は無く、只々つまらない時間を使うだけだ。

 本気で体を動かしてみたいものだ。


 そんな事を考えながら、室内に不自然に生えた大木に厚く何重にも巻かれた藁を殴る。

 少しの力も込めずに。

 何故か?

 普通に殴ればこの都市ごと吹き飛ばしてしまうからだ。

 【過負荷魔法(デバフ)】をかけても普通のパンチでこの周辺一帯は吹き飛ぶだろう。

 と、そこで後ろから声がかかる。


 「……三簾君、全然力が入ってないわね。どこか調子でも悪いの?」


 実技の講師である槍凱兎(そうがいと)先生がそんな事を言ってくる。

 調子が悪いのではなく、単純に普通の動きが出来ないと言うだけだ。

 ……その場合、俺はどう返せばいいのだろうか?

 無難に、「調子悪いっす」とかか?

 いや、この先生が医療用の魔法をつかえた場合にとても最悪の展開になる。

 そうだ。

 ならば、少し強引だが、力を少しだけ入れよう。


 「……すみません、少しイメージトレーニングで力抜いてました。」

 「そうだったの。イメージ通りに出来そう?」

 「はい。」


 俺は返事をすると、少しだけ腕に力を籠め、常人には到底見えないであろう速度で腕を前後に動かす。

 そう、もはやパンチでもない。

 だが、俺の拳には少しだけ何かが触れる感触が残った。

 という事は──


 バキッ!!と、何かが折れる音が聞こえる。

 俺はそれを見ずとも何がその音を出して言うかを察する。

 深呼吸。

 そして、その音がした方を見る。

 そこにあった光景は目の前の大木は勿論、その奥にある大木と、その奥の強化アダマンタイト合金製の重層壁までもが凹み、罅入(ひびい)っている。

 ああ、やったわ。


 これには槍凱兎先生も呆れて──


 「す、すごいわ! イメージの通りに動かせていたかは分からないけれど、これだけの力が出せたのだから、きっともっと伸びるわ!!!」


 ──無かったらしい。

 俺は「っす」とだけ返してまた力の抜けた素振りを始める。

 危ない所だった。

 いや、まじで。


 ♢


 今日は午前授業のため、実技の授業が終わるとあとは自由だ。

 俺は開けた中庭を歩きながらこの後の予定を考える。

 中庭は広大な草原の様な空間が【空間拡張】の魔法によって形成されており、開けたレンガ造りの道が一本数百メートルほど、下手すれば数キロほど続いている。

 一本道の幅は数10人単位のグループが横一列で通っても問題が無い程の広さで、約10~30m程の横幅だ。

 そして、そんな一本道の小脇には更に細い道があり、人二人がやっと通れるくらいの幅で、1,5mあるかどうかと言ったところだ。

 そんな細道を区切っているのは、一本道と同じくレンガによって腰のあたりまで積み立てられた花壇だ。

 花壇は所々途切れ、出入りが可能になっており、その出入り口の地面は円形にレンガが積まれていて、デザインにも気を使っている所が窺える。

 そんな花壇に植えられている色とりどり多種多様な花々は絶大なフィーリング効果が成される。


 俺はよくこの道を歩いてから帰っている。


 眠気を煽る暖かな擬似太陽による陽気、程よく適温の中吹き抜けるそよ風、草花の揺れる音。

 心を落ち着かせてくれる。

 更に、花壇は反対側にもあり、その方の花壇には出入り口が3個に1個くらいの割合で半円系に窪みがあり、その中にベンチが設けられている。

 そのベンチに偶にカップルなんかが座って「ねえダーリン♡」「なんだいマイハニー☆」なんて手を繋いで数ミリ単位まで顔を寄せ合ってやってるんで思いっきり【爆化】の魔法をかけた花束をぶん投げてやりたくなるよねハハハハ。(ノンブレス)


 ま、まあ、そういう事だよ。ウン。


 あんまり悲しくなるような記憶は掘り起こさない様にしよう……。

 さて、この後は何をしようかなぁ!!


 ……ん?


 俺は少し奥のベンチへと目を向ける。

 するとそこには白衣に短パン、黒縁眼鏡の黒髪ウェーブショートと言った印象の強い少年の様な姿。

 そして整った顔にクリクリとしたつぶらな瞳と小さな口が幼さを倍増させる。

 その少年──ではなく、少女の名は出雲(いずも) 夏織(かおり)だ。

 あんな生りだが、学年は俺よりも上で、前の遠征授業の時も取締役か何かで参加していた人物だ。


 そんな出雲を見ながら歩みを進めるが、一人、見覚えはあるが名前も素性も知らない人物が出雲の横にいた。

 そう、その人物と言うのが、『ヘルパー』を名乗った少女だ。


 灰色のボブカット。

 そして、ベンチコートのように長いローブを身に纏い、どこか愁いを帯びた瞳を揺らしている。


 あの少女がこんな場所にいるなんて珍しいなと思い、凝視していると気付かれてしまったらしい、ふと此方を見る出雲。

 俺に気づくと、一瞬頬を紅潮させるが、直ぐにこちらに元気よく手を振って来る出雲。

 俺も小さく手を振り返す。


 「どうしたんです? こんな何もない所を歩いて」


 どちらのセリフだろうかと聞き返したくなるような質問を投げかけてくる出雲。

 そうは思ったが、実際には聞き返さないのが礼儀だ。

 さすがに失礼だろう。


 「ちょっと気分転換にな。」


 と、無難に返しておく。

 その答えに納得したのかは分からないが、「そうですか、丁度私達も気分転換をしに来たんですよ」と返してくる。

 俺も無難に「そうか」とだけ返す。

 そして、視線のする方へ顔を向ける。


 「……前から気になっていたんだが、名前は何て言うんだ?」


 俺は素知らぬ顔をする少女に問いかける。

 その瞳は下を向いているが完全に視線は俺を捉えている。

 だと言うのに知らぬ顔をして話を全て出雲にさせている。

 それだけならばコミュニケーションが苦手なのかもしれないとなるかもしれないが、俺に向けるその視線は獲物を見定める様な気色の悪い視線だ。


 「…………私ですか」


 無機質な声でそう言ってくる少女に有無と頷く。

 そうすると、大きな間を開けてゆっくりと声を発する。


 「……………………忘れました」


 その一言につなげて、


 「……私はヘルパーです」


 と、自ら好機の眼を向けてきておきながら拒絶するようにそう言い捨てる少女に俺は内心首を傾げる。

 おかしいと思うのは俺だけだろうか??

 すると、横から出雲が声をかけてきた。


 「責めないで上げてください。彼女が拒絶をする様な態度をとるのは彼女の意思ではなく、仕方がない事だからなのです。」

 「どういうことだ?」


 拒絶が仕方がない?

 人間不信か何かだろうか?

 と言うか、 別に責め立てるつもりはないのだが……。


 「簡単な理由です。彼女の持つ《スキル》が禁忌の《大罪系スキル》だからです。」


 大罪……響き的にも字面的にもいい気はしないがどのようなスキルなのだろうか?

 出雲はの花が咲き蝶の閃く広原に踏み入っていき、彼女に聞こえないように配慮をしてか少し離れた場所で話を始める。


 「彼女のスキルは、《魂喰(こんじき)》という物です。このスキルは、勝負や戦いで自身が買った場合、経験値は勿論、敗北した相手の【魔力】、【寿命】、【記憶】、【スキル】、『全て』を奪い取る。正しくは喰らう。そんな能力を持つスキルです。」

 「……確かに強いな。でも、人を拒んだり拒絶するような効果ではない気がするんだが──」


 俺はそこまで言ってその説明の真意に気づく。

 そう、倒した相手、とは言っていないのだ。

 負けた方の全てを喰らう、それはつまり、相手の生死にかかわらずその全てを喰らってしまうのだ。

 そして、あの様子ではどんな些細な事であっても勝負とみなし、そのスキルの餌食になってしまうのだろう。


 そう考えればさっきの気色の悪い視線の正体も合点がいく。


 あれは彼女が意図的に俺を見ていたのではなく、彼女のスキルが勝手に相手を物色しているのだ。

 だからこそ、彼女は自ら人に近寄らない……いや、近寄れないのだろう。


 「察しがよくて助かります。」

 「まあ、伊達に異世界救ってないからな。」


 俺は未だ感じる気色の悪い視線の方を見る。

 その少女はどこか機械の様で、無機質な冷たさが残るその瞳は何処か愁いを帯びているようで、俺には計り知れない苦しみを抱えているようだった。


 「ただ、羨ましいのはそのスキルの中にある【寿命】を奪えるという部分ですよね。」

 「そんな歳で何言ってんだ。」

 「いや、若さではなく、その生きる時間が欲しいという事ですよ。」

 「時間ねぇ……」

 「まあ、そういう面では彼女は苦しい思いをするでしょうけど。彼女はこの学園で一番寿命の長い人物でしょう。」


 確かに、長生きをするほど苦しい事は折り重なって永遠に自分に付きまとうだろう。

 そして、永劫の時の中で徐々に感情が薄れていく感覚が最も苦しいだろう。

 俺はそんな事を思い出しながらふと気づく。


 「お前、たしか《不老》とかってスキルもってたよな?」

 「そうですね。」

 「じゃあ寿命とか関係ないだろ。」

 「いえ、それがそうではないのですよ。」


 そう人差し指を立てながら説明を始める。


 「まず、寿命と言うのは定められた時間の中生きられると言ったものです。ですが、私のスキルは魂に刻まれた寿命の概念そもそもを否定し、魂の時間を止めてしまうのです。ですから、私の寿命は一般人と変わりませんよ。」

 「ほう。」


 ならば彼女はいったいどれほどの人間を手にかけたのだろうか。

 陽気に当てられた彼女を見て思うのはそんな些細な疑問だけだった。

 そして、彼女はいったいどれほど生きる事になるのだろうか?


 「私の見立てだと、ざっと数億はくだらないかと。」

 「数億か……。」


 意外と短いな。

 個人的には兆は超えるかと思ってたんだが。


 「兆は超えると思ってたんだが、さすがに無理か。」

 「いや、流石に兆はありえませんよ! 見た事がありませんし、そんな人きっと存在しませんよ。」


 肩を竦めてそう言ってくるが、俺はその存在を知っている。

 それは俺にとって最も恐ろしい存在でもある。

 それは──


 「俺の師匠、兆超えてるぞ。」

 「……は?」


 俺の言葉に変な声を出してグイっと首を回転させて乗り出してくる出雲。

 だが、事実だ。


 「み、見た目はどんな感じなんですか??? やっぱりよぼよぼだったりするんですか??」

 「いや、見た目ならお前と大差ないぞ。」

 「ええ?!」


 俺の言葉に今度は身を仰け反らせる出雲。


 「お前ももしかしたらそれくらい生きる事になるかもな。」


 とは言ったが、もしかしたら俺も同じくらい生きる事になりそうだから怖いのだ。

 師匠と初めてあった日、師匠はソラマメの様な大きめの豆を俺に飲ませてきたのだが、未だに怖くてその正体を調べられずにいる。

 そのためもしかすると不老の薬とかだった場合は、俺もそれくらい生きる事になるのだ。


 ……エグ。


 ま、まあ、変な事は考えない様にしよう。


 俺は自分にそう言い聞かせると、仰け反る出雲に別れの言葉をかけてその場を後にしたのだった。

……この後の展開をどうしようか……。

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