第24話 過去
♢部分から少し過去についての話に入りますが、直ぐに現在へ戻りますので、もう直ぐで一章を終わらせる事が出来そうです。
──「月夜、いきなりで悪いんだが、これから少し付き合ってもらえるか?」
バスの前で待っていた月夜に俺はそう声をかける。
勿論、その言葉の意味が一発で伝わる訳もなく、月夜は首を傾げる。
「……どういうこと?」
「魔族の討伐を手伝う事になったから一緒に来て欲しいんだ。」
俺は簡単にそう説明する。
すると月夜は、顔を強張らせて思案する素振りを見せる。
この様子からすると、過去に何かあったのだろう。
「……嫌なら無理強いはしない。ここで待っていてくれ。」
俺は少し間を置き、そう言って踵を返す。
態々無理をしてまで来てもらう必要はない。
そう考え、魔族の元へ向かおうと足を踏み出した瞬間だった。
「──行く。」
背後からそんな言葉が聞こえた。
その声のする方を見れば、月夜が何か吹っ切れた様な、生き生きとした力強い瞳で俺を見つめていた。
「……わかった、移動は学校が用意してあるみたいだから、早く行くぞ。」
俺は月夜の瞳を見つめ返し、そう言って再度踵を返した。
──私は、弱かった。
いや、力はあったのかもしれない。
だけど、私にはその力を扱える強さは無かった。
私は、小学六年生の頃にクラス全員で異世界に転送された。
所謂、異世界転移と呼ばれるものをその身で体験したのだ。
転移する際に、私達は一人一つの特別な力を得た。
私の友達は【経験値取得率上昇の加護】だったり、【魔法を作れるスキル】だったり、色々な能力を貰っていた。
その中でも私は無難な物で、【膨大な魔力】を神様から与えられた。
【膨大な魔力】、ソレは見方によれば魔法を幾らでも使えると思うのかもしれない。
だが実際は違った。
魔力を操るためには、それ相応の力を付けなければいけない。
だと言うのに、私はその力を付ける方法も解らず、扱いきれない魔力を体内にため込んで逆に体に重りをかけている状態だった。
魔力が体に溜まり続けると、体の動きを鈍らせるらしい。
私達はその世界の代表国の王による悲願で神に呼び出され、その国の王に、その世界にいる魔王を倒してほしいと言われた。
いきなり呼び出されて快く引き受ける事も出来ず、私達はただ黙っている事しかできなかった。
でも、クラス委員の少女、弥登 愛彩が言った事がきっかけで私達は断るにも断れない状況に陥ってしまった。
♢
──「……質問があります。」
「はい、どうされましたかな? 勇者様」
筋骨逞しく、漢らしい顎髭を生やした男性──この国の国王がその足を立たせて私達のクラス委員、弥登さんの声に耳を傾ける。
一国の王が年端も行かない私達にペコペコとしている様は少し面白い。
「魔王? を倒さなかった場合、私達はどうなりますか?」
刹那、その場に緊張が走った。
確かに、私達は結果断って終わりだろうと思っていた。
だが、その後はどうなるのだろうか? 考えてもいなかった。
緊張により、場の空気が張り詰める中、国王が少し表情を暗くして声を出した。
「申し訳ないが、その後の事は私では分かりかねますな……。」
国王が放ったその言葉、それは言外に、断ればお前達はどうなるか分からないぞと脅しているも同然だった。
確かに、この世界に私達を呼び出したのは彼ではなく、神なのである。
そのまま返してくれる筈もなく、この世界で止まり続ける事になるだろう。
それも、魔王なんてものが存在する危険なこの世界で、生きる方法も知らず野放しにされておしまいだ。
さすがに、それだけは避けるべきだろう。
つまり、私達は受け入れる他に答えは無いのだ。
「……わかりました、つまり、私達に断る事は出来ないと、そういう事ですね?」
「いいえ、断っていただいても構いはしませぬ。ただ、私にはその後どうなるかは分からないと言うだけですな。」
そんな事を言うと、その瞳は既に断らせる気が無いような、冷酷な瞳に変わっていた。
私達の背中に冷たい物が走る。
「わかりました、私は断りません。」
そう言ったのは勿論、弥登さんだ。
だが、あちらこちらから俺も私もと声が上がり始める。
結果的に、私達は全員が断ることなく、この世界を救う事になったのだった。
そして、そんな状況に浮かれて、いい結果になるだろうなんて安易な考えで笑みを作っていた私達は、直ぐに絶望を目にすることになる。
♢
そう、この世界がそんなに甘い物では無い事は誰もがすぐに分かる事だった。
だと言うのに、危機を知らない私達は安易な考えによる行動で直ぐに足をすくわれる事になった。
まず、戦いの基礎も知らない私達は戦いの基礎を叩きこまれた。
そう、その身をもって。
剣術の特訓、鍛錬では、その身が痣だらけになるまで刃の潰れた件で殴り続けられる。
魔法の鍛錬では、血だらけになろうが火傷になろうが直ぐに回復魔法をかけられ、数十数百もの魔法を浴びせられた。
だが、それでも力が付くまでには長い月日がかかった。
その間、何人もの生徒が命を落とした。
実践などで魔物と戦い、敵わず死んでしまった者。
鍛錬中、耐えきれずに死んでしまった者。
この世界の過酷さに耐えきれず、自害してしまった者。
だが、それでも残っていた数人に私は入っていた。
──落ちこぼれ、無能として。
「これより、魔王城へ乗り込み、魔王の討伐を実現する! 勇者様方、今まで長かった。これでこの長い苦痛からも解放されるだろう!」
そんな事を言って私達を先導するのは王国騎士団の騎士団長だった。
やっと、やっと帰れる。
そう思った。
だけど、そこまでが長かった。
魔王は、圧倒的なまでに強かった。
いや、魔王だけじゃない。
その取り巻きである魔族達ですら私達はてこずらされていた。
そんな中だった、私は大切な友達を失った。
魔族の攻撃を避けきれず、その身を焼かれ、藻掻き乍ら死んでいった。
私はそれを見ているだけしかできなかった。
それがきっかけだったのか、それは解らない。
だけど、私はその時手にしてしまった。
──『破滅の能力』を。
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──でも、そんな私を変えてくれた。
世冥が私の事を強くしてくれた。
昔までの私じゃない、今は、彼が強くしてくれたから。
だから、そんな特訓の成果を。
彼に見せなければいけない。
感謝を伝えるために。
過去の私を終わらせるために。
「それじゃあ、行くぞ。しっかり掴まってくれ。」
【異能騎士】の団長のような人が【魔導制浮遊低空機】の後ろに乗る私達のそう言ってくる。
私はそれに従い、近くの手摺をしっかりと掴む。
一方、世冥は腕を組んでどっかりと座っている。
「……掴まらないの?」
「その必要はない。どうせ浮かんで進むだけだしな。」
そんな事を言うと、その目を遠くを透かす様に細める。
きっと、本当に何かを見透かしているのだろう。
私もその方を見て、その先の未来がいい物であるように願った。
そうして、【魔導制浮遊低空機】は浮き上がり、猛スピードで魔族達のいる方向へと進み始めた。




