第22話 避難
──俺は魔力反応を見分け、一気に月夜の元へと駆ける。
多分、かなり待たせてしまっているだろうから、早めに戻った方がいいだろうという考えだ。
と言うか、人を待たせておきながら徒歩でのんびりと歩く人は滅多に居ないのではないだろうか?
俺と月夜の距離は少し遠いい。
が、流石に本気で地面を蹴ってまで詰めるほどの距離が開いている訳でも無い。
体に身体強化などは一切かけずに普通に走っている。
だが、普通に走っただけでも俺はそこら辺のスポーツカーを抜く位の速度は出せる。
本気で走った事は無いが、一つ言えるのは確実にスポーツカーよりは早いという事だ。
なんて無駄な事を言っているうちに月夜のいる場所についてしまったようだ。
ずっとここら辺をウロチョロと捜索していたのか、【魔力の残滓】がそこら中に漂っている。
「ふむ、【魔力の残滓】を残してしまったか。」
【魔力の残滓】とは、【魔力痕跡】と呼ばれる物の一つだ。
しっかりした説明は省くが、【魔力痕跡】は何かしらの情報源、手掛かりになるものだ。
その中で、【魔力の残滓】はその魔力を持つ人物の性格や性的特徴を判断するための情報になるのだ。
そのため、このようなモラルも何もないような場所では注意を払い、漏れ出す魔力が周囲に残らない様に周囲に霧散させておくのだ。
だが、そういったことを一切教えていなかった気もする。
まあしょうがない事だろう。
基本中の基本だと思っていたのだ。
教える必要もないと。
今度教えておくか。
俺はそんな事を考えながらその【魔力の残滓】を辿っていく。
この先に月夜がいるはずだ、急ぐとしよう。
俺は一気に加速する。
気が付くと目の前には少女が佇んでいる。
その少女の後ろ姿には見覚えがあった。
そう、何故ならその少女こそ、俺が探していた人物だからだ。
「おう、悪いな、色々あって戻るのが少し遅くなった。」
「ん。やっと来た。」
俺が声をかけると肩越しに振り向きそんな事を呟く。
月夜の手にはここまでに倒したのであろう魔物の素材が握られていた。
素材とは言っても、最小限でしかないが。
「魔物は見つかった?」
「あー……まあな。」
「……それは本当に魔物を見つけた時の反応?」
グっ……鋭い奴だ……。
だが、実際に見つかってはいる。
【多重次元収納】と呼ばれる収納魔法に適当に倒した魔物を放り込んでいるだけだった。
俺は特に判別していなかったのでこの中に指定されているランクの魔物が入っているかは分からない。
とはいえ、今から探すのもアレだしな。
そう思った俺は中に入れていた魔物を全て取り出す。
「……多い。」
俺を見てそんな事を言ってくる月夜。
しょうがないじゃないか。
選別する余裕なんてなかったのだから。
月夜は俺の顔を見て思っている事を悟ったのか、しょうがないと言う風に魔物へ目を移す。
そしてすぐに俺の顔に目線を戻す。
その目は心底驚いているようだった。
「これ、全部Cランク。」
ほう、全て指定されたランクの魔物だったのか?
じゃあ、他に探す必要もないな。
やったね!
「じゃあ、持って行くか。」
「ん。了解。」
俺の言葉を聞いて即座に頷く月夜。
俺は魔物を再度収納魔法に仕舞い込む。
そして、足を踏み出した瞬間だった。
──ボゴゴゴゴゴゴゴオォォォォン!!
途轍もない振動に加え、耳を劈く程の轟音。
突然大爆発が起こったのだ。
「何!?」
隣で月夜が叫ぶ。
俺もその爆発があった方へ顔を向ける。
そして、それと同時に月夜を小脇に抱え、足に力を籠める。
月夜は良く解っていないが今ここから離れなければ30秒と立たずに月夜は息絶えていただろう。
何故か?
今の爆発によって起こったのが【魔力災害】の一つ、【爆発的魔力汚染】と呼ばれる人工的に引き起こされる悪意のある【魔力災害】だからだ。
この【魔力災害】は、種類は様々だが、意図的に汚染された魔力が人の体の中に入った瞬間に体内の魔力までもを汚染するのだ。
汚染された魔力は例外なく人の体を蝕み、死を齎す。
もちろん、俺が助けるのは月夜だけではない。
近くに取り残された生徒たちは【多重次元収納】を開き、その中に全生徒を落とす。
それと同時に於本先生の声が響く。
『生徒諸君に告ぐ!今すぐに防護宿泊施設へ避難しろ!!』
俺はそれを聞いて一気に駆け出す。
身体強化をかけ、全力で地面を蹴った。
同時、背後でまたも大きな爆発音が響いた。
俺はそれを気にすることなく一気に駆け抜けると、宿泊施設の目の前に着地する。
俺の姿を見て駆けつけてくる教師一同。
そんな教師の姿を見て俺は【多重次元収納】を開き生徒達を取り出す。
教師陣は少し驚いていたが、直ぐに落ち着きを取り戻し、治療などの指示を飛ばしていく
俺はそれを見て一息つく。
と、その瞬間だった。
虚空に一つ、声が響いた。
『やあ、諸君。今の爆発、とても美しかっただろう?』
姿などは一切なく、只々声が響くだけだった。
その声は深く黒く、人が出す声とは思えなかった。
『まあ、そんな事はどうでもいいと思っていそうだがねえ。それでは本題だ。』
そう言葉を区切ると、息を吸って言葉を吐き出した。
『君達には今から消えてもらう。』
そんな言葉が木霊した。
生徒教師問わず、この声を聴いた者は固まり、虚空を眺めている。
そんな姿を見て、声の主は高笑いを響かせながら消えていく。
……何事もなく終わる筈だったこの遠征授業は今を持って波乱へとその路線を切り替えたのだった。
彼らはどうなってしまうのか──。
追筆
2度目の爆発音は主人公の踏切によるものです。
はじけ飛んだ範囲は1度目の爆発よりも大きいでしょう。




