第17話 赤面
──「……ええと、湯舟、一緒に浸かっても?」
出雲の声に肩を跳ねさせる。
俺は温かいお湯の中、ガタガタと震えながら出雲に返事をする。
「ど、どうぞ……」
ぎこちない俺の返事で、出雲の緊張を煽ってしまう。
出雲の動きまでぎこちのない物になってしまう。
その場の空気がとても重たく感じる。
なんか声をかけたほうがいいのか?
「……あー、そういえば、貴方の名前を聞いていませんでしたね。教えてもらっても?」
「ああ、悪い、俺の名前は世冥だ。三簾世冥。」
「世冥君ですか。よろしくお願いします。」
少し硬い表情でそう言ってくる出雲。
俺は今すぐにここから逃げ出したいが、そういう訳にもいかない。
男として、堂々としていようではないか。
「そういえば、三年になるとSクラスまで増えるのか?」
「はい。Sは一番優秀なクラスです。」
「ふむ、いきなり自慢か。」
「そうです、どうですか? 凄いでしょう? ドヤッ」
「いや、ドヤられてもな。」
特にどれくらい凄いのかが分からないからあんまり意味はない。
まあ、とりあえず凄い奴ってことは解ったが、どんな芸を持っているのだろうか?
「じゃあ、どんな事が出来るのか教えてくれないか?」
俺がそう言うと、水面を揺らしながらこちらを振り向き、「待ってました!」と言わんばかりの表情をする出雲。
うん、多分長くなるよね、これ。
「いいでしょう!お教え上げます!まず、私の転移させられた世界では一人一つ《スキル》を必ず持つ世界でした。」
「ふむ。」
「そして、そんな世界で私は《魔道皇》のスキルを手に入れました。」
「中々に強そうじゃないか。」
俺は率直に思った事を言う。
要は魔法をメチャクチャ扱えるって事だろ?
強いじゃん。
「はい。強そうではありません。強いんです。」
「お、おう。」
いきなり強気に出てきたぞ此奴。
眼鏡を外しているため、そのクリクリとしたかわいらしい目が見えているが、その表情そのものはとてもキリッと発言がさも当然だと断言をするようだった。
実際、強いのだろう。
亀の甲より年の劫と言う言葉の通り、出雲が三年だからなのか、それともスキルの所為なのか垣間見える魔力量やオーラはとても澄んでいる。
俺のクラスの連中で言うと、昴や小枝よりも実力は遥かに上だろう。
とはいえ、俺自身と比べてしまうとまだまだと言わざる負えないが……。
「まあいい。で、何が出来るんだ?」
俺は思案していた文言を振り解き、出雲の言葉の続きを促す。
「はい、このスキルはとても強いのです。その概要は、『魔法を全て使える』という物です。」
「ほう。最初からか?」
「いえ、一度見た事がある魔法に限られます。ですが、それだけで十分強いでしょう。」
「……まあ確かに、強い事には強いな。」
「はい、そうでしょう。」
うんと……ごめん、俺、同じ事出来るわ。
前昴の魔法初見で使っちゃったし。
何だったら魔王の記憶上にある闇魔法やら固有魔法全部覚えて使える様にしてきたし。
まあ、とりあえず、ここら辺は置いておこう。
それより、俺は気になっている事がある。
「……悪いが、スキルって、その一つだけか? もう一つあるような気がするんだが……」
そう、気配からスキルを割り出したところ、二つのスキルの気配があるのだ。
つまり、もう一つあるという事だ。
確かに、隠したい物なら晒してもらう必要はないのだが。
「えっ!? 何故分かったのですか!?」
ビンゴだったようだ。
バシャリッと水を跳ねさせて驚く出雲。
「なんとなくだ。言いたくないなら言わなくていいぞ。」
俺は冷静にそう返す。
「……わかりました、別に、隠す様な物では無いので言いますけど、笑わないでくださいよ?」
「?」
どういう意味だろうか?
俺は出雲の次の言葉を待つ。
するとゆっくりとその艶やかな唇を開き、口を動かし始める。
「……もう一つのスキルは、《不老》と言うスキルです。」
ふむ、言いたがらなかった理由が分かった。
……え、これ、最後まで聞かなきゃダメ?
「このスキルは、『全盛期を永遠に保つ』と言う力を持ちます。それは、肉体的にも、魔法、精神的にもです。つまり……私の体は既に全盛期を迎えたという事でしょう。」
「うん、そうだな。」
ロリっ娘ボディだもんな。
それ、多分スキル関係ないぞ?
よし、出るか。
「よいしょっと。俺はもう出るぞ……あ。」
俺は立ち上がってから気付く。
俺なにも身に着けてないですやん。
途端、出雲が顔を一気に赤く染める。
そして気が付けば、その拳が俺の顔の中心に──。
次の瞬間、俺は風呂の底に沈んでいた。
「ま、まったく、御粗末な物を私に見せないでください!!!」
そんな事を言ってそそくさと浴場から出て行く出雲。
俺はもうしばらく湯に浸かっていようと思ったのだった。
こんな展開、予想してなかった……。




