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美祢林太郎短編集  作者: 美祢林太郎
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2 新作落語:妄想家族1

2 新作落語:妄想家族1


スタバにて

A「おっ、久しぶり」

B「先輩、久しぶりっすね」

A「どうしてこんなところにいるのよ。仕事じゃないの」

B「先輩こそ」

A「仕事の合間だよ」

B「ぼくも同じようにさぼりですよ」

A「はっきり言うなよ」

B「パチンコ屋にいないだけましでしょう」

A「まあ、そうだけど。それでいくつになるんだっけ」

B「39になりました」

A「もうそんなになるんだ」

B「昔から先輩と1歳しか違わないじゃあないですか」

A「あっ、そうだっけ。それで結婚したんだっけ。結婚式に呼ばれた覚えがないんだよね」

B「いきなりその話ですか。まだなんですよね。良い子がいたら紹介してくださいよ」

A「おう、まかせた。うちの会社に良い子がいるんだ。そのうち紹介するよ」

B「調子の良さは、昔のままじゃないですか。大学の頃も、女の子紹介してくれるっていって、ずっと待っているんですよ。なしのつぶてじゃないですか。ぼくがこんな年まで独身なのは先輩のせいですよ」

A「うそだろう。おれの紹介をずっと待っていたの?」

B「冗談ですよ。少しは期待していたんですけどね」

A「おまえ、よっぽど出会いがないんだな」

B「出会いなんて、普通ないでしょう。いい先輩を持つかどうかにかかっているでしょう」

A「そうなの? 世の中、そうなの。そう言えば、おれが結婚できたのも、先輩が合コン誘ってくれたからだな」

B「そうでしょ。先輩何とかしてくださいよ」

A「おっ、そうか。それは悪かった。いまは同じ年頃の女の子よりも、ずっと若い子の方がいいだろう」

B「同じ年頃の子を、女の子って呼んでいいんですか?」

A「変なところ、絡むね。そこのところ深く追及しないことにしよう。炎上しても困るし」

B「そうでしょう。恋の炎は燃え上がっても、言葉遣いで炎上したくないんですよね」

A「それで若い子がいいの?」

B「そんな贅沢は言いません。誰でも構いませんから。最近、女の人、この心遣いわかります? 女の人と話をしたことはありませんからね。会社は男ばかりだし。女の人の声を聞くのは、コンビニの店員の挨拶と電話の向こうのおふくろの声くらいですよ」

A「そりゃあ、寂しいな。そんな事態になっているのか。ここはおれが何とかしなけりゃあいけないな」

B「持つべきは先輩ですよ。しっかり頼みますよ。ぼくも結婚してからの予定は、詳細に決めてあるんですから」

A「おまえ相変わらず、そういうところ、気が早いな。どこで結婚式をするんだ」

B「結婚式場は考えていません」

A「それなら、新婚旅行の場所か? やっぱりハワイか。それともオーストラリアかな。まさか、東京ディズニーランドということはないよな」

B「ぼくの新婚旅行先を勝手に決めないでくださいよ。そんなのまだ考えていませんから」

A「じゃあ、いったい何を決めているんだよ」

B「ぼく、チビデブでしょう。だからきっと凄い美人と結婚すると思うんですよ。世の中、不釣り合いなカップルばかりじゃないですか」

A「おお、そうかもしれないな」

B「不釣り合いが定番になっているから、ぼくはすらっとして背の高い美人と結婚するのが定めだと思うんですよ」

A「定め、よくそんな言葉知ってたな」

B「定め、良い響きでしょう」

A「定めはさておき、おまえどういう思考をしているんだ。美人と結婚できるなんて、思うのは個人の勝手だけど、何か大きな飛躍があると思うんだけどな。そもそも不遜だぜ」

B「それで、二人の間に息子が一人できるんです」

A「おれの感想を無視か」

B「住んでいるのは、埼玉の田舎です。一戸建てを建てたんです」

A「えっ、一戸建てを建てたのかよ。そりゃあ、立派じゃないか」

B「もう、そうとう未来にいますから、付いてきてくださいね。未来には家を建てているんです。埼玉の田舎に。Are you understand?」

A「それDid youだろう」

B「そうですよ。揚げ足を取らないでくださいよ」

A「ややこしいな。それでも埼玉に一軒家を建てるんだな。おまえそんなに金を貯めているのか」

B「妻の家がちょっとした資産家で・・・」

A「えっ、資産家と結婚するの?」

B「そうなっちゃうから、仕方ないじゃないですか。定めですよ。定め」

A「そんなこと断定的に言っちゃっていいの? それともおまえ、未来が見えるの。水晶玉か何か持っているの?」

B「見えるわけないでしょ。予言者じゃあるまいし。見えたらサラリーマンなんかしていませんよ」

A「そうか。そこは冷静だな」

B「馬券や宝くじを買っていますよ」

A「やっぱりそこに落ち着くんかい」

B「先を急ぎますよ」

A「悪い、悪い」

B「妻の家を頼ってばかりだと、男として情けないでしょう。そこで、30年ローンを組んだんです」

A「もう、過去形か」

B「妻も家計のために近くのスーパーでアルバイトをしようと言ってくれたんですが、これほどの美人でしょ」

A「だから、どれほどの美人なんだよ」

B「今日、写真持っていないので、残念ながら見せられません」

A「見せられたら問題じゃ」

B「外に出したら、他の男は放っておきません。間違いがあってからでは遅いので、働きには出しませんでした。妻は毎日、家事をしてくれています。妻の作るプロバンス料理は最高です」

A「プロバンス料理って、どんな料理だい」

B「ぼくももちろん皿洗いなどは手伝っていますよ」

A「また無視かい」

B「もう、男がふんぞり返って威張っている時代ではありません。それにうちの家内はあのようにとびきりの美人でしょ。私が何もしなかったら、ぼくはすぐに捨てられてしまいます」

A「妄想の中でも、冷静なところがあるから不思議だな」

B「この日曜日には息子を上野の動物園に連れて行くことになっているんです」

A「未来のさらに未来か」

B「あと3日後ですよ」

A「そうか、3日後だな。それで家族3人で行くのか」

B「いえ、家内には休日はゆっくりと休んでもらうために、息子と二人です」

A「どうせ、外を歩いていて他の男たちにとびっきり美人の奥さんをじろじろ見られるのが心配なんだろう」

B「よくわかりますね」

A「そのくらいわかるわい」

B「上野公園の国立西洋美術館の前で、偶然に彼女が大学時代に付き合っていた男性と再会して、アドレスの交換をして、再び愛が再燃したら困りますからね」

A「まあ、用心するに越したことはないな」

B「でしょう。うちの息子は小学校1年生で、毎日動物図鑑ばかり見ているんです。動物が好きなんですよ。頭の良さは家内譲りなんです。私に似なくてよかったですよ」

A「おまえの奥さん、頭がいいの?」

B「才色兼備という言葉は、家内のために作られた言葉なんです」

A「昔からあるわい」

B「あっ、言ってませんでしたっけ。うちの妻は東大出なんです」

A「よくそんなのと結婚できたな」

B「東大出で美人、これじゃあ、普通の男は敬遠して近寄ってきません」

A「意外とそうかもしれないな」

B「彼女の心に隙間風が吹いてきた時、偶然ぼくと出会ったんです」

A「何か奇跡に近いね」

B「奇跡じゃなく妄想ですからね」

A「複雑になってきたけど、とりあえず妄想ね」

B「息子が動物好きなので動物園です。上野の動物園、広いでしょ。小学生が一日で回りきれるわけがありません。それで私は下調べをしたんです」

A「おっ、なかなかやるね」

B「ここで親父の威厳を見せなくっちゃ、いけないじゃないですか。帰ったら、パパはなんでも知っているって、ママに告げ口するんですから」

A「それ、告げ口って言わないから。報告くらいの方がいいんじゃないか。それでどんな下調べしたんだよ」

B「ぼくも息子が寝た後に、息子の動物図鑑を読んだんです」

A「えっ、そんなこと。大人がなさけないね」

B「もちろんそれだけじゃないですよ。動物園に電話をかけて、当日の見どころを聞いたんです。ですが、時間によってモデルコースがあるって言って、詳しく教えてくれないんですよ」 

A「まあ、向こうも忙しいことだし」

B「他の人が知らないスペシャルをぼくにだけ教えてください、ってお願いしたんですが、断られました。せめて、息子にパンダを触らせてください、ってお願いしたんですけど、それも駄目でした」

A「パンダは触れないだろう。厚かましいね」

B「とにかく、予習をして、どこでソフトクリームを食べて、どこでママの作ってくれた巻き寿司と稲荷寿司を食べるかも、分単位でスケジュールを組んだんです」

A「綿密だね」

B「妄想の中だけは綿密なんです」

A「どうでもいいけど、おにぎりじゃないの?」

B「いたるが、息子の名前はいたるって言うんですけどね」

A「名前もつけてるんかい」

B「いたるが巻き寿司と稲荷寿司が好きでしてね。ここは父親譲りかな」

A「おまえが好きなだけじゃないか」

B「こうして綿密な計画を練って行ったのにですね・・・」

A「3日後に行くんじゃなかったのかい」

B「もう3日立ったんです」

A「時間の観念がよくわからないな」

B「相対性理論ですよ」

A「何が相対性理論だ。何もわからないくせに」

B「いくら賢いって言っても、しょせん子供ですよ」

A「また無視かい」

B「いたるはパンダやゾウに目もくれず、ずっとウサギ小屋の前にいたんです。せっかくゾウの絵を描くように、クレヨンとスケッチブックを持って行ったんですよ。それがウサギなんです。ウサギならそこらのペットショップにいますよ。ぼくは情けなくなってしまいました」

A「子供ってそういうもんだよ。仕方ないよ。それでどうしたんだよ」

B「巻き寿司と稲荷寿司を食べたら、いたるは満足して、芝生の上で眠ってしまったんです。ぼく、少し揺らしたんですが、起きないから、仕方ないからぼくも傍で横になっていたら、不覚にも寝てしまったんです」

A「子供もおまえも疲れたんじゃないのか。おれも疲れてきたけど」

B「目を覚ましたら、そばにいたるがいないんです」

A「そりゃあ、一大事じゃないか」

B「ぼくも必死でいたるを探したんですが、どこにも見つからなかったんです」

A「交番に届けたのか」

B「届けました。警官の人も一緒に探してくれたんです。動物園で呼び出しの放送もしてもらいました」

A「それで見つかったのか」

B「見つかるわけないじゃありませんか。妄想の中の世界なんですから」

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