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美祢林太郎短編集  作者: 美祢林太郎
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12 漫才:オータニサン

12 漫才:オータニサン


A「最近のオータニサンの活躍凄いね」

B「大リーグでもうホームランを300本打ったんやろ」

A「37本や。300本も打ってるか」

B「ピッチャーでも50勝したんやろ」

A「5勝や、5勝。どこに50勝もするピッチャーがおるんじゃ」

B「おれがいるがな。おれ年間75勝したんやで」

A「それは小学校の頃の話やろ。それも小学校の休憩時間にしてた、ピンポン玉をプラスチックのバットで打っていたあの遊びやろ」

B「遊び言うな。あのピンポン野球が野球の起源じゃ」

A「なにが野球の起源じゃ」

B「ところでピンポン野球で、おまえは何勝したんや」

A「そんなの覚えとるか。そんなんと比較されたらオータニサン泣いてしまうわ」

B「オータニサン、ごめん」

A「ここで謝ってもしょうもないがな」

B「今度会った時に、直接謝るからな。それまで待っといてな」

A「会えるわけないやろ。相手はスーパースターやで」

B「そうかな」

A「オータニサンの凄いところはホームランを打つだけやないで。ピッチャーもして打ってるんやからな」

B「そりゃあ、高校野球にいっぱいおるがな」

A「それを大リーグでもやってるところが凄いんじゃないか」

B「そうか二刀流が凄いんやな」

A「知ってるんやないか、二刀流を。ピッチャーとバッターを同時にしているから歴史上の人物になってるんやないか」

B「それなら、一人でバッターと監督をしてても凄いんやな。これも二刀流やで」

A「そう言えば、野村さんや古田さんもいたな」

B「それじゃ、バッターと監督は凄くないんかい」

A「それは野村さんや古田さんに失礼やな」

B「失礼かもしれんけど、今時、誰も野村さんや古田さんのバッターと監督の兼任を知らんで」

A「兼任やからやな。監督とバッターを二刀流言うたらあかん。兼任や」

B「そうや、そうや。ノムラさんも古田さんも、オータニサンに比べたら屁みたいなもんやな」

B「野村さんに言いつけたろ」

A「野村さん、とっくに死んどるわい」

B「ピッチャーで監督はどうや」

A「阪神の村山実さんがいたわ」

B「じゃあ、選手でタレントの長嶋一茂さんはどうや。これは兼任とちゃうで」

A「一茂はとおの昔に選手をやめとるわ。タレント専業じゃ」

B「それなら野球を離れて二刀流を探そうか」

A「おお、ええな」

B「レオナルド・ダ・ビンチを知ってるか」

A「偉そうに。モナリザを描いた画家やろう」

B「ヘリコプターの発明家でもあったんやぞ。これでレオナルドも立派な二刀流や」

A「まあ、天才だよな」

B「プラトン知ってっか」

A「古代ギリシャの哲学者やろ。「無知の知を知れ」ってかっこいい言葉を残したよな」

B「無知は知のことわからんて」

A「そっちの方が真実やな」

B「あいつ」

A「あいつって、馴れ馴れしくよぶことはないやろう」

B「プラトンさんは」

A「そうじゃ、偉人には敬意を示せ」

B「プラトンさんは、レスリングでオリンピックに出場したかもしれないの知ってっか」

A「かもか?」

B「しょうがないやろ。昔のことやから。でも、強いレスラーであったことは間違いないんやて」

A「アントニオ猪木よりも強いんか」

B「戦ったの見てないからわからんわ。でも、プラトンとアントニオ猪木が戦ったら異種格闘技で面白かったかもしれんな。猪木がプラトンの頬を張って、「元気ですか」っていうんだよ」

A「プラトンが負けそうになったら、ソクラテスやアリストテレスが覆面被って助けにくるかもしれんな」

B「そんなことあらへんで。そんなバカなことはないで」

A「無茶苦茶な話になってきたけど、プラトンがオリンピックに出場したかもしれんちゅう話しやったな。プラトンさん、もしかするとオリンピアンだったの?」

B「まあ、当時はオリンピックと言っても町内の運動会みたいなもんだったんだろうけどな」

A「町内の運動会はないだろう。せめて国体くらいのスケールはあるんと違うか」

B「おまえ、オリンピックを国体ちゅうんか。それはオリンピックに失礼やろ」

A「おまえが町内会の運動会って言うからや」

B「それにしてもオリンピックを国体はないよな」

A「もともと二刀流の話やろ。プラトンさんも文武両道の二刀流だった、という話でええやないか」

B「わかればそれでええよ」

A「昔の偉い人はともかく、これから二刀流になってスーパースターになるためにはどうしたらええんや」

B「フサインボルトが針の糸通し世界一ってのはどうだい」

A「なんでボルトが糸通ししなくっちゃならないんや」

B「じゃあ、フィギュアスケートの羽生結弦選手が重量挙げの世界チャンピオンってのはどうだい」

A「そりゃあ、いくらなんでも無理だろう」

B「将棋の藤井聡太が王位と棋聖を取るのはどうだ」

A「それは二刀流じゃなく二冠だろう。もう二冠になっているよ」

B「じゃあ、藤井さん」

A「ふじいさんか、馴れ馴れしいな」

B「オータニサンのように世界に羽ばたくためだ」

A「それでふじいさんがどうしたんだ」

B「藤井さんが将棋とともにチェスをするのはどうだ」

A「それは羽生さんがしているの」

B「羽生さんはチェスの世界チャンピオンになったんか?」

A「なってないだろうけどさ」

B「チェスが好きじゃなかったら、囲碁でどうだ」

A「それも難しいと思うよ」

B「おれなんか、将棋と囲碁の二刀流なんだけどな」

A「おまえ、どっちも弱いだろう。ただやっているだけやないか。強くないと二刀流って呼ばないんだよ」

B「そんなに厳しい世界なのか」

A「だからオータニサンは凄いんだろう」

B「じゃあ、桃太郎が鬼だったらどうだ」

A「わけのわからんことを言い出すな。それ一人二役」

B「ザ・ピーナッツ」

A「それ双子。それにしても古いね」

B「政治家」

A「二枚舌」

B「オータニサン」

A「二刀流」

B「宮本武蔵」

A「二刀流」

B「そうだよ。二刀流と言えば宮本武蔵じゃないか。宮本武蔵は二刀流の本家本元じゃないか」

A「まあ、そうだよな」

B「それならオータニサンもバットを2本持ってバッターボックスに立たないと、本物の二刀流にはなれないんじゃないの?」

A「バット2本持って打席に立つ奴がどこにいるんだよ」

B「じゃあ、武蔵のように「小次郎、待たせたな」って遅れて打席に立ってもいいの? 焦らせ戦法で」

A「話が変な方に行ったな。そんなのルール違反なの」

B「真剣勝負にルールもへったくれもないんじゃないの。命かけてやってんだから。野球は真剣勝負じゃないの」

A「真剣勝負だけど、真剣を持っているわけじゃないから」

B「おれの真剣さの足元にも及ばないじゃない」

A「おまえ、いつ宮本武蔵になったんだよ」

B「宮本武蔵もオータニサンに対抗するためには、一本は刀でもいいけどもう一本は鎖鎌じゃないといけないんじゃないの」

A「別に宮本武蔵はオータニサンに対抗するつもりはないから。鎖鎌を持たなくていいの」

B「オータニサンにも引退したら絵を描いてほしいな」

A「突然なんだよ。オータニサンに引退後の話は早すぎるだろう」

B「おまえ、そんな失礼な事言ってるの。まずは野球に頑張ってもらわなくっちゃ」

A「おれのせいにするなよ」

B「二刀流の元祖、宮本武蔵は絵も描いたからね」

A「ああ、あのモズの絵ね」

B「あれ、重要文化財だよ。宮本武蔵は絵描きとしても超一流なんだから。宮本武蔵は二刀流に絵を足して、三刀流だね」

A「そんなところに一つ足さないの」

B「オータニサンが絵描きになるのはまだ先の話かな」

A「おまえが勝手に言い出したんだろう」

B「まずは、ホームラン王と最多勝を取ってほしいな」

A「ホームラン王は可能性あるけど、最多勝は無理でしょう。まだ5勝だよ」

B「何言ってんのよ。最多勝は来年でしょ。来年30勝するんだよ」

A「なんか上手にまとめたな」

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