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蒼の砦  作者: 神崎立風
6/8

第5章ーお願い



─水縁役場─

「皆、揃ったかしら?」

俺が、この役場に来たのはどうやら1番最後だったらしい・・・

部長がそう言うので、俺は周囲を見回すと見慣れた顔ぶりが勢揃いだ。

「日和は、昨日のメールの通りです 仕方ないですね・・・」



 俺たちは翌日、役場の前に集まっていた。

なぜ、俺たちが日和のお祖母さんの家に説得に行くのではなく、こんな村の外れの役場に居るのかと言うと・・・





─昨晩─

(もう、いよいよ猶予がなくなって来たぞ・・・ あの様子じゃ、生け贄である月和がいつ殺されてもおかしくない 生きたまま投げ入れられるとは限らないからな─── )

(───でもやっぱり、一夜さんを説得するには、かなめさんに任せている、池の成分調査が必須だ・・・)

 俺は、約束通り他の解決策もとい、それまでにできることを考えていた。

俺は、スマホを手に取り、Gのマークを押す。そして、検索バーに“水縁祭”と打ち込む。何か情報が、ヒットすればいいなと思って。

 俺は、しばらくスマホの画面にくっつき、視力低下など気にもかけず、一心不乱に情報を探した。

(なんも出てこねーじゃねーかよ・・・)



 俺は、スマホをソファーに投げ、髪をかきあげる。俺は、旅兜からの連絡をただ待つことにした。

しかし、俺は月和の心配ともう1つ、かなめの心配がよぎる。

(まさか、かなめさん 調査に手こずってるんじゃなくて、彼女自身になにかかあったんじゃ───)

 俺は、次々に重なる不安で、悪い方へばかり考えてしまう。

叔父が不在。そのことが俺にとって、大きなハンデキャップであった。

 俺が、こんなにも生け贄について詳しく知ることができ、話が前進したのも叔父のお陰だ。なのに、その叔父が仕事の都合で、今家を空けている。叔父にこの俺の推理を話したら何て言うだろうか───



ピロリン♪ ブーブー



 俺がそんなことを考えていると、突然ソファーに横たわる俺のスマホが、部屋に鳴り響く───

(旅兜か?!)

こんな時間にメールが来るのは、旅兜しかない。俺は、スマホを手に取りパスワードを解除していく。

そして、上の通知バーをしたにスライドする。


件名:お願い


by旅兜


俺は、やっとこのときが来たかと、かなめの様子など忘れ、証拠が手に入ったと確信した。かなめが、危ない目に遭って調査ができていなかったかもしれないのに・・・



本文

大変だ!みんな聞いてくれ。かなめから連絡があったんだが、池には結核に有効な成分が含まれていなかったらしい。でも、かなめが使ったのは、あくまで簡易的なキットにすぎないらしくて、きちんとした専門家が調べれば結果が変わるかも知れねえんだ・・・

でも、みんなが言いたいことは分かってる。

時間がないんだ──

しかしそんな、専門家に依頼していたら明後日のお祭りに間に合わなくなる。

だからお願いがあるんだ!かなめに、アドバイスをもらった。役場なら、池の成分詳しく調査出来るかもしれないって。しかも、そもそも、役場に動いてもらえば・・・確かに、日和の叔母にはなんの説明もなく役場が動くわけだが、月和は助けることができるかもしれない。まあでも、役場に池を調査してもらって、祖母を説得する。これが一番理想的だ。これに越したことはねぇ。

だから、お願いなんだ。明日、役場に皆で行って、役場を動かしたいんだ・・・



 (なるほど・・・)

それぞれがそれぞれの家で、そのメールを確認していた。



本文

わかったわ、わざわざ報告ありがとう。ここで部長から連絡よ。明日の部活動は、集合場所役場の前。遠いとか言うの禁止ね?そして、集合時間だけど、八時ね。


本文

八時?!バカじゃねーの?俺とかめっちゃ家から離れてるのな?しかも、いま家に叔父いないから起こしてもらえねーしな?


本文

いや、それ柊の都合です。お姉ちゃんがいってるんで仕方ないです。


本文

さすが、勇也心が広いな(笑)あと、俺は頑張るしかないんですか?


本文

みてーだな・・・んで、部長活動内容は?


本文

とりあえず、クレームがすごいから、時間だけ変えるわ・・・十時 十時ね?よぉーく考えたら、役場開くの十時だし・・・

と、活動内容ね!

役場に、池の調査の依頼を行う!その日のうちにって言う、条件をつけないと、間に合わないけどね───

何か、不明な点はある?



 俺たちの作戦会議は、滞りなく進んだ。しかし、俺たちはこの数日で、偉く成長した気がする。最初は、何かある度に、人を信用しなかったり、誰にも相談せず一人で抱え込んだりしていた。でも、今はこんなにヤバイ状況でも仲間がいるって言う安心感も含めて、皆落ち着いて行動している。

 俺は、明日成功させてやると心に誓った。

しかし、その僅か数分後・・・



件名:謝罪


by日和


本文

明日は、ごめん。行けないの。お祖母ちゃんに祭りの準備の儀式とかがあるから、行くなって・・・ごめんなさい。


本文

分かった、


日和が一番辛いだろう。妹が危ないのに、お祖母さんには歯向かえず、でもそのお祖母さんのことは信じたい。そして、そのお祖母さんに頼まれ明日は行けない。辛いのはよく分かっている───

 だからこそっ



本文

お前の分まで、頑張るから。日和、安心して月和の近くに居てあげてくれ・・・

 俺はそう返した。いや、俺 ではないかもしれない、



俺たちは、そう返した。頑張れと───



    ■ ■ ■ ■



「今日は絶対に日和の分まで、成功させよーぜ!」

俺は、そう呼び掛けた。

「ですね、ここでなんとしてでも動いてもらうんです 月和のため、そして村のためにも!」



「んで部長? アポとってくれた? 役場って、そう言うとこ、きびしーだろ? お前昨日張り切ってたもんな! 夜だから開いてないかもって、勇也が言ったら・・・   部長である私に任せなさい! アポのひとつやふたつ、楽勝よ! 夜とか関係ないわ! って、意気込んでたもんな!」

 旅兜が、笑いながら言う。

しかし、どうだろう。部長の顔が、真っ青に染め上げられていく。

「・・・・・・?」

 部長の様子がおかしかった。俺たちは察した。



「忘れてました・・・・・・」



「お前マジでぇぇぇぇぇぇぇどの口がぬかしとんんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ この口か? ああぁあぁぁあ? この口かって言ってんのぉぉぉぉおおおおお!!」

「お姉ちゃん・・・ 冗談じゃ済みませんよ・・・?」

「くそ部長」

旅兜までもが、猛烈に部長を批判する。

「ごめんなさいっていってるでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉおおぉぉっぉおっぉぉぉぉぉおおっ??(泣)」

 しかし、当たり前である。こいつがやらかす失態と言うのは、大体スケールが違う。遅刻しちゃったー!とか、そう言う限度を超えている・・・



「しかしだな・・・ ここで立ち止まってても、しょうがないな 部長ほら行くぞ?」

役場の駐車場で、泣かれても困る・・・

 俺たちは、切り替えて役場へと乗り込む───





「すみません・・・ 無理なものは無理なんですよ───」

 え?エントランスで引っ掛かります?上の人に話して、バカにするな!こっちは仕事でしているんだ!とかいって、追い返されることは、予想していた。起きてほしくは無いけれども。

 ここエントランスですよ?

え?

上の人にも会えませんか?ふつう・・・

「お願いします!大事な話があるんです 生け贄についての・・・ 」

部長が必死にお願いする。

「と言われましてもですね───  事前にお電話いただくのがマナーでして、そもそも一週間前くらいから連絡をいただかないと、こちらもスケジュールなどがありますので・・・」

 見事なまでに、俺たちのことを相手にしていない。



「あっそうだ! ここの役場の長って僕の叔父の父、森ノ宮昭一(もりのみやしょういち)なんです!」

俺がそう言うと、思い出したかのように笹木野兄弟が・・・

「もっと詳しく説明すれば・・・」

「行けるかもしれません・・・ 僕たちの誠意、見せるんです」

こいつらはなぜか、自分で話さず俺に回してくる・・・



「あのお・・・すみません あなたの、叔父のお父様が昭一さんだとしても、無理なものは無理でして・・・」

 受付のお姉さんは、相変わらずしぶとかった。

「聞いてください! 生け贄についてひとつだけ調べてほしいことがあるんです! その結果によっては、村を救えるかもしれないんです! だから・・・」



俺は、諦めず気持ちを伝えようと全力で説明していた。

 すると、

「なんだね、うるさい こんな朝から・・・ コーヒーも飲めんぞ?」

「す、、すみません! 実はこちらの方々が・・・」

「ん?」

 その男性は俺たちの方に視線を送る───



「昭一さん!」

「おまえか・・・ 柊 何事なんだ朝から・・・ 迷惑だぞ?お前」

 俺はその見覚えのある顔に、安堵の表情が漏れた。この人なら分かってくれる。だって、身内だから。

「昭一さ~ん この女の人かたいんですよぉ~」

 俺は、そう言う。

「え? 私? 」受付の女性が、自分を指差しながら混乱している───

「まあいい、何があったか知らんが、話ぐらい聞いてやろう そこへ座れ・・・」



「ありがとうございます!」

 俺たちは、全員で感謝の意を述べて、席についた。



「で、なんだね こんな朝早くからここに来た理由・・・ 」

「実は・・・」

 俺たちは、嘘偽りなく事情を説明する。池の成分によっては、村の運命が変わること。今年の生け贄は、月和であること。そして、日和のお祖母さん、つまり、神代家当主神代一夜を説得したいと・・・

 一言一言丁寧に。残された時間は僅かだ。でも急がば回れ。そう自分に言い聞かせて。





「はぁ・・・ お前、そんなことあるわけないだろ? こっちは、あいつらが明日の祭りで行う生け贄をどう穏便に済ませようとかと必死なんだ そんなしょうもない戯言に、付き合ってられるか・・・」

 昭一はそう言って、その場を立ち上がる。

しかし部長は諦めず、

「違うんです! 信じてください! かなめさんも、三百年前に流行ったのは、結核であると言う記録を見せてくれたんです! なのでお願いです! 私たちに、村に力を貸してください!」

 朱里は誠心誠意、頼み事をした。いつもの泣いて懇願する姿ではなく、きっちりと思いを語った。

しかし・・・



「お前たち! いい加減にしろ! 俺たちがどんな気持ちで、明日の準備をしているか考えろ! 本当なら、生け贄で人なんか死んでほしくない・・・」

「じゃあ何で?!」



「もういい・・・」

 そう言うと、昭一は中の方にはけてしまった。

俺たちは、何もできなかったのである。お祖母さんは愚か、役場さえ説得が出来なかった。ましてや俺は、昭一さんと親戚な訳だ。そのハンデをもらってでも説得できなかった。



「ごめん 皆・・・」

俺は、ここの村に来て、はじめての涙をこぼした。何もできなかったと言う悔しさと、誰も守れないのかと言う絶望に俺の脳は支配されていた。

「日和もごめん・・・ 俺たち、なんも出来なかった・・・・・・」

 今日これていない日和のためにも、俺たちは今日のこのお願いを全力でやろうと誓った。でも、全力で立ち向かっても、その壁は凄まじく大きく、分厚く、俺たちを隔てていたのだ。まるで、ドイツを東西に分裂させていたあの大きな、ベルリンの壁のように───

 俺は、自分が何て無力なんだと悔かった。人は、自分の無力に気づくときが一番辛いんじゃないか。そうまで思った。 



「ここで、くよくよしてたって・・・ しょうがない─── とりあえずかなめに・・・」

旅兜は慰めてくれているのだろうが、彼も相当ショックなようで、そもそも自分自身が元気でなかった。

「最後まで粘るわよ・・・ 何があっても しぶとく糸口を探すの・・・」

部長までもが、ひどく落ち込んでいた。

勇也も同じだ。



 しかし、俺たちはその重い足をあげ、診療所に向かうことにした。

最後まで、諦めるな・・・



    ■ ■ ■ ■



「なあ、かなめになんて説明するんだ・・・?」

 旅兜が突然口を開く。

「事実をそのまま話すしかないんじゃないかしら?」

「そうですね・・・ 彼女に協力してもらうって言うのは、どうでしょうか 彼女なら、僕たちと違って大人ですし、もしかしたら日和のお祖母ちゃんを説得できるかもしれません!」

「なるほどな・・・・・・」

 確かに、証拠が足りない事実には変わりないが、かなめがいるだけで説得力には天と地の差が出る。

「お願いしてみよう! 確率は上げるに越したことはない───」

「そうね・・・ でも、かなめさんにばかり頼ってられないわ! 私たちでも今のうちに一夜さんの説得の仕方考えておきましょう!」

 確かにそうだな・・・

どうするべきか、そんな話を始めた俺たちだったが、話もまとまらないまま、診療所の近くまで来てしまった。



 俺たちは、看板を見上げる───

“水縁診療所 右に曲がって50メートル”

「結局、もう頼る節は、かなめだけだな・・・」

話がまとまらず、ここまで来てしまった俺たちは、かなめに真実を伝える心づもりをする。

 たぶん、これが最後の希望だろう・・・

俺たちは、互いの顔を見合わせ、頷き、前に一歩踏み出す・・・



「あんなもの、ありましたっけ・・・ ほら、あこです あの奥の緑色のテント・・・」

 勇也は、診療所の奥にある緑色のテントを指差し俺たちに聞いてくる。確かに、あんなものはなかった気がするが・・・

「おかしいな・・・ 俺も知らないぞ・・・」

 旅兜までも知らないと言う。かなめと暮らしている旅兜が知らないと言う意味、それは・・・



かなめが何か俺たちに隠し事をしているのか・・・



 いいや、そんなはずない・・・

俺は嫌な予感を感じつつも、それを取り払う。

「してはいけないことだけど、ちょっと様子を見に行かない?」

 部長が言う。

「賛成だ なんならあそこにかなめが居るかもしれねぇ」

「お姉ちゃん? くれぐれも大声を出さないでくださいね?」

 俺たちの部長は、弟に釘を刺される。

「分かってるわよ!」

「その声がでかいの!」

俺が突っ込むと、部長は慌てて口を両手で押さえる───

 とりあえず、俺たちはそのテントの方に向かうことにした。





「これかなめさんの声だよな・・・」

「そうだろーな・・・」

俺たちは、言葉が出なかった───

 というのも、中でなされている会話が俺たちにはきつい話だった。

旅兜は、悔しさのあまり手を強く握りしめる。

中からは、かなめと複数の男性の声が聞こえる。



柳本(やなぎもと)さん・・・」

柳本とはかなめの名字である。

「何?」

「明日の生け贄、無事行われるでしょうか・・・」

「大丈夫よ・・・ あのガキは適当言ってあしらっておいたから───」

話し方がまず違う・・・

そして、ガキって俺らのことだよな・・・

しかもかなめは、生け贄に反対じゃないのか・・・?

「適当とは・・・」

「あいつら、ババアを説得するとか抜かすから、ばれない程度にあしらってやった 旅兜、あいつは頭が切れるから、この計画に邪魔だと思って、私が監視していたわけだが・・・ 一番めんどくさいのは、あの神奈川のガキだ 私は、少し遊びすぎたようだ・・・」

「監視と言いますと・・・?」

「弱味につけこんだだけさ あいつ、村長と仲が悪いだろ? そこを慰める振りをしただけだ───」

「しかし、大丈夫なんでしょうか・・・ あの子供の推理、まさにその通りなんじゃないですか・・・?」



やはりか・・・ 俺の予想は間違っていなかった───

しかし、実に不本意な証明のされ方だ・・・



「あいつらを侮っていた私の責任だ、 あの神奈川のガキの叔父、何やらこの生け贄についての資料を読んだことがあるらしい・・・ そのせいで、あのガキに、情報が知られた・・・ 私が苦労して、手に入れた意味がないじゃないか・・・」



あいつ・・・!あの本、持っていたのか?でもどうやって・・・



「でもまあ、あいつらには証拠がない、誰もあんなこと信じないよ・・・」

「まあ、それもそうですね・・・」

「それより、あした なんとしてでもあのガキに邪魔をさせるな 邪魔なら、最悪・・・」



「消せ───」



・・・・・・!

「分かりました」

「必ず、この計画を成功させて、この村、いや人々を支配する 伝統を使って、村人たちを支配する・・・ 屈辱を張らす───」

「月和は、奪わせた 私が目を離した振りをしたら、まんまと持っていきやがったっ」



俺たちは、あまりにも急な出来事に、頭が追い付いていなかった。



しかし次第に、理解が追い付く。



くそ、完全にバカにされている・・・あいつ、はじめから月和を助けるつもりなんて無いじゃないか!

俺たちは、全員が同じことを思う。



(月和、心臓発作になんてなっていないんじゃないか? しかも、あいつがこの村に来たと同時に、月和は心臓の病に・・・ はじめから利用していたのか!)

俺たちは、悔しさから怒りへと気持ちが入れ替わる。なんとしてでも、あいつを止める。

そして、俺たちは互いにしっかりとアイコンタクトをする。

(一夜さんを説得して、終わりにしよう お祖母さんは、利用されている)



 がさっ

勇也が突然、足を踏み外し大きな音が鳴り響く───



「誰だ!」



 それと同時に、聞いたこともないかなめの大声が、鳴り響く・・・

そして、緑のテントの入り口を捲りあげ、かなめが現れる。

「ああ!柊くんたちですか・・・ 何かあったんですか? 私も今・・・」



「どういうことですか・・・? かなめさん───」

部長が、かなめに問う。

「どういうことって? 何が言いたいんですか・・・」

かなめの顔が、険しくなる。

「おめぇ、俺らのこと騙してたろ・・・」

旅兜が、怒りの表情でかなめを睨み付ける。

 すると、人が変わったかのように、かなめが不気味な声で笑い出す。

その口角が上がった顔に、俺たちは不気味さを覚えた。



「そうか・・・ 聞いていたんだな? どこからか、、どこから聞いていたんだぁぁぁぁああ?」

俺達の前にいる悪魔には、もう俺たちの知っているかなめの姿はなかった。

「説明しろ・・・ お前、どういうつもりだ・・・」

俺は、低い声で震えながら聞く。

「どうもこうも・・・ 今ごろ気づいても遅い お前たちみたいなバカ、気づいてもなんにもできねぇよぉ!」

「ふざけないでください・・・」

勇也が、涙をこらえて訴える。



 しかし、その姿が気に入らなかったのか・・・

「うるせえんだよぉぉぉぉお!」

突然かなめが、勇也を思いっきり蹴飛ばす。

 そのまま勇也は、後ろの壁に叩きつけられる。

「───っ!」



「お前! ふざけるな!」

 弟を蹴飛ばされ、部長は制御が効かなくなる。朱里は突然かなめに殴りかかろうとする。



「部長! やめろ! 今そんなことしても何も変わらない!」

俺は歯止めの効かなくなった部長を、なんとか止めようとする。

 すると、部長に俺の言葉が届いたのか、かなめの顔の直前で手が止まる。

「殴れよ 殴れねえのか?」

そこに、かなめが嘲笑してくる。

 しかし、それに惑わされず、部長はなんとか自我を取り戻す。



「まあいいわ・・・ あなたは、この村の力を知らない・・・ この村の神様は、縁を司る神 あなたたちになんて屈しない───」

「そうだな・・・ 俺たちが力を会わせたら最後、お前に未来はない 覚悟しとけ かなめ」

 俺たちは、かなめに言う。

「そうだな、俺たちは一夜さんに真実を伝える あの人だって、事実を知れば 動いてくれる・・・」

俺たちはそう言って、かなめに抵抗する。



 しかし案外かなめは、

「そう、気を付けて行ってくるんですよ」

と、笑顔で送り出してくる。俺たちはなめられているのかもしれない。

 しかも、笑顔で手を降ってくる───



「なめられてるぞ、俺ら・・・」

「あいつが元凶・・・」

旅兜が呟く。

「そうだったのね・・・ でも・・・ やることは変わらないわ! あんなやつから、村を救いましょう!」

そう、朱里が言う。

俺たちは、もう心に決めた。



なんとしても、あいつの手から、村を救う。

そして、あいつの悪事を暴いてやる・・・

「勇也?大丈夫?」

「お姉ちゃん・・・ ええ、なんとか───」

 朱里は何も言わず、勇也の前でかがみこむ。

「お姉ちゃん・・・」

「いいから───」

「ありがと、お姉ちゃん・・・」

朱里は、勇也をおぶって、俺たちの方を見る。


 そして、俺たちは、その事をしっかりと噛み締め、走り出す───



「あ、そうだ! 一夜さん家に行くなら、気を付けた方がいいよ? 偶然、事故に遭うかも知れないからね───」

 後ろからかなめの声が聞こえた・・・



    ■ ■ ■ ■



「くっそ! 露骨にあいつら、俺たちを狙ってきやがる!」

 俺たちは、複数の車につけられていた・・・

「まずいですね・・・ このままでは、日和の家にたどり着きませんよ!」

「それより、かなめが悪かったな・・・ 俺、一緒に生活していたのに、全く気づかなかった・・・ 俺にも責任はある───」

 そう旅兜が言う。

確かに、かなめ。あいつはおかしなことをしている。しかも、許されるべきことではない。でも・・・



「それを旅兜が言うのは間違ってる、お前はなんにも悪くない それより今この状況を打破する方法、それを探すんだ! お前は、頭が切れるんだろ?」

 俺は、落ち込む旅兜を慰める。

「ああ、そうだな・・・ 俺は、お前たちと出会えてよかった 神様に感謝しなきゃな・・・」

先頭を走る旅兜は、後ろを振り返り俺たちに笑いかける。

「話はまとまったかしら?」

部長が尋ねてくる。しかしその声は、息切れひとつしていない。

(どうなってやがる・・・ こいつの身体───)

「ああ、心配かけて悪かったな 今は、気分が猛烈に良いぜ! それより、あのちょこざい車をはね除ける、おもしれぇプランが見つかったんだろ? 部長! 早く教えてくれ!」

 旅兜が、ニタッと笑い、そう言う。



「ええ、話は簡単よ ここ見覚えはない?」

「ここって確か、柊がはじめて部活動に参加したときの・・・」

勇也が、俺の方を向いてくる。

 そして俺は、はっと思い付く。

「ここの右に、落とし穴あったよな・・・」

俺は思い出す。

「ああ、確かにお前の初部活動、散々だったな───」

旅兜が、あきれた口調で俺に言う。

「あれが最初は、マジでやる気がなくなる・・・」



「そんなことはいいの! あいつら、車で追いかけてきてるでしょ? だからあの落とし穴のある方に、私たちが行けば誰かしらはまるでしょ───」

「名案だな───」

俺たちは、指をならす。

「全員、右にまがれぇぇぇぇえええ!」

部長が、指揮を執り、俺たちは林の中へと消えていく。





「部長・・・ 」

旅兜が、ため息混じりの声で言う。

「あいつら、バカなのか?」

 そう、まんまと引っ掛かったのである。しかも一人や二人でない。

「僕も、まさか逃げ切れると思いませんでした・・・ 」

勇也も、あきれた声で言う。

「私もビックリしたわ─── でも、この林大量の落とし穴があるから・・・ 案外、引っ掛かるのかも・・・」

朱里、までもが驚いていた。



「でも、あのなかに、かなめ居なかったぞ・・・」

旅兜が不振そうに言う。

 確かに、女王バチを倒さないと、雑魚はいくらでもいる・・・

「急いだ方が良さそうね・・・ 今のうちよ」

部長はそう言って、走るペースをあげる。

(しんどい・・・)

 俺が思っていると、

「頑張ってください もうちょっとです!」

勇也が、俺の背中を押す。

俺は、もう少し頑張ることにした。





─大通り─

 俺たちは、神代家に向かうため、大きな道を歩いていた。

すると突然、俺たちの横に車が着ける。

俺は、一瞬かなめかと思い、身構えた。しかし、その身構えはすぐにやめた。

「やっと見つけたぞぉ」

 車のサイドのガラスを開け、中には白髪のおじいさんが伺える。

「お前! 何しに来た!」

突然、旅兜が大声をあげる。

 理由はすぐに分かった。その車の中の人は、村長。つまり、旅兜が家を出た理由を作った張本人である。

「前も、言っただろ! お前のやり方にはもう、うんざりだ! 村長という肩書きだけ持って、政治はすべて神社に任せる お前一人のせいで、一夜さんに迷惑をかけているんだぜ?」

 俺たちは、突如始まった家族喧嘩に、何も言えなかった。

「旅兜、聞いてくれ わしは、考えを改めた 本当にすまないと思っている」

「・・・・・・」

旅兜の表情が、少し変わった。

「実は、お前たちを探していたのも、言いたいことがあったからなんじゃ・・・」

その老人は、必死に思いを伝えている。



「お前、本当に変わったのか・・・」

旅兜はまだ半信半疑である。

「本当なんじゃ・・・ だから、話を聞いてほしいんじゃ─── 大切な話・・・」



 旅兜は、笑った。

「今の俺じゃなきゃ、許してないぜ? ちゃんと、やってくれるんだな?」

「ああ、もちろんじゃ あのときは、すまなかった・・・」

その老人は、頭を下げている。

「わかった、俺もひどいこと言って、悪かったな じーちゃん!」

 その二人は、もう前の二人とは違った。



 俺たちは、改めて、村長の車に乗せてもらった。





「改めまして、わしはこの村の村長上新城卓爾(かみしんじょうたくじ)

その、老人は、俺たちに挨拶をする。

「それでじゃな、君たちを探していた理由 実は、いくつかあってじゃな・・・」

 俺たちは、その話を聞くことにした。



「日和が倒れたんじゃ・・・」



え・・・?

驚く俺たちであったが、村長はすぐに訂正する。

「心配しんとってくれ ただの貧血じゃ 日向でずっと、飾りつけの作業してくれておったから、あと最近色んなことがあったじゃろうから・・・ それが積み重なっただけじゃ、もう意識もあるし元気に回復しておる」

俺たちは、安堵の表情を漏らす。

「ここからが問題なんじゃ、問題といってもわるい報告じゃないんだ」

そう言って、村長は話し出す。



「もう君たちには、バレてしまってるじゃろうから言うがな 生け贄について、わしはすべて一夜に任せておった というより村の方針をじゃな しかしな、柊君 君が引っ越してきて、君の隣にいる友達と協力していろんなことをしていると聞いてじゃな、わしも改めんとなと思ったんじゃ だから、わしは村の政治を行うことにした───」

 村長の微笑む顔が、フロントミラーに反射して見える。

「なるほど、本当に決めてくれたんだな・・・」

 旅兜が、微笑む。

「ああ、わしも年じゃ うまくいかぬこともある しかし、そんなときこそ一夜と協力じゃな・・・」



「じゃあ、なんか公約とかあるんですか?」

部長が、尋ねる。

「そこなんじゃ、さっき一夜と話してな ひとつ目標を決めた───」

その老人は一息飲み込む。

「今年いっぱいでな、生け贄を止めれるように努力することにしたんじゃ・・・」



 その老人は、申し訳なさそうに続ける。

「もうバレておるんじゃろ? 明日の、生け贄のことについて・・・ だが、本当に勘違いしないでほしいんじゃ わしだって、一夜だって、したくてしている訳じゃないんじゃ─── 村を守るために、多をとって、小を捧げるしか方法はないんじゃ・・・ だからこそ、今年でこれを終わらせる 疫病さえ起きないのならば、生け贄なんて要らないんじゃ! じゃから、絶対に見つける 疫病は無い、と言う理由と、証拠を! そう誓ったんじゃ 村を崩壊から守り抜くために・・・」

 叫ぶように、訴えるように、申し訳なさそうに、そう言う。



 その老人は知らない。生け贄なんて要らない。

でも、この人は、それでも行動してくれている。

そして、俺たちは詳細を知っている。生け贄のことも。かなめの悪事も。

村長は、俺たちにとっていま一番頼れる人だ!



「村長!」

俺は、決めた。

「生け贄、今年から廃止にしたいんです・・・」





 しかし、俺がそう口にしたとき、村長は固まってしまった。

「いや、しかし・・・ 今年止めるのは、リスクが高いぞ? 疫病が起きないなんて、保証は・・・」

老人は、考え込む。

 しかし、俺は関係ないと続ける。

「じゃあ、今年100%疫病が流行らない としても、生け贄を行いますか?」

「・・・・・・」



 俺の言っていることが理解できないようだ。当たり前っちゃ、当たり前である。

「実はですね・・・」

もうなれたもんである。他人に、辛い事実を説明すること。

 日に日に、俺は伝えるための国語力が磨かれているような気がした。





「───!」

 俺が話終えると、その老人は信じられないといった様子で、俺たちに問いかけてくる。

「それは、本当なのか・・・」

しかし、それは紛れもない真実。俺たちは、はいと答える。

「まさかそんなことがあったとはな───」

村長は、考え込む。

「だから、お願いなんです! あなたが、村を救いたい 生け贄を止めたい そう思っているなら、協力してほしいんです───」

俺は、シートベルトを目一杯伸ばし、お願いする。

「お願いします! 僕たち、一夜さんに、この事実を伝えて、何とかしてほしいんです・・・」

 勇也も、頭を下げている。

「頼む 俺からもお願いだ、じーちゃん・・・ 俺たちだけだと、不安なんだ・・・」

旅兜が、助手席から頼む。



「よし・・・」

村長は、ハンドルを握り直す。

「しっかり捕まっとれ!」

すると急に車が動き出す。

 俺たちは、必死に壁に捕まる。



「後ろの車、お前たちの言う、村の敵じゃろ? さっさとまいて、神代家に行くぞ!」

村長は、そう言うだけいって、林道に車を乗り入れた。

「はい!」

俺たちも、それに返した。

 俺たちは、なんだか心強い仲間を手に入れた気がした───



    ■ ■ ■ ■



─神代家─

「なんとか、たどり着いたな・・・」

老人は、俺たちの方に振り返り、そう言う。

「あいつらは、何とか撒いたぞ!」

さらに、そう嬉しそうに言う。



「スミマセン モウムリデス・・・」

部長が、車の壁にもたれ掛かって、嘆く。

「いやあ すまんな、昔車が好きだったもんで、久しぶりに血が騒いでしもうた!」



 と、言うのも・・・

「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお! あいつらに、着いてこれなくさせてやるぞぉ!」

 そういって、アクセルを踏み込み、地盤の悪い山道をここまで来た。

そもそも、神社がある家というのは、山の近くか五号目ぐらいに居住区があるのが必然だ。そこまで、俺たちは荒ぶった車でふりまわされてきたのだ。高速で、跳ばすには、理解ができる。しかし、ここは山道もとい山である。

 そう山。

「じいちゃん・・・ 昔乗りなれた俺ですら、ヤバイぞ? 船酔いなんて、比じゃねぇ───」

車のドアを勢いよく閉め、膝に手を置き、旅兜は吐き捨てる。

「そんなじゃったか・・・?」

 しかし、等の本人は楽しくドライブをしていたに過ぎないのだろう───



「とにかく! 大事なのはここからだぜ?」

俺は、仕切り直しと言わんばからに、全員に声をかける。

「そうじゃな! わしは、きみたちを信じているが、次の相手は一夜じゃ・・・ 一筋縄ではいかんぞ?」

 確かにそうだ、村長は俺たちのことをすぐに、信じてくれたが、これは村長が特別優しいからであろう。今回、話すのは一夜。

それは、友達でもなければ、親戚でもない。ましてや、役場の長、さらに言えば、村長よりも立場が上である。



 しかし、勇気を出さなければならないのに、俺はさっきの役場のことを、思い出す。

「俺、こんな励ましてる風を装ってるけど、実はめちゃくちゃ深刻な気持ちなんだ・・・」

俺は、その事を口に出してしまう。みんなの気持ちにも影響するかもしれないのに・・・



「柊 俺たちも心配で一杯だ でもな? お前が言う通り、俺たちで村を救うんだ 」

「そうね・・・ 今は信じましょう・・・ 神様を、そして、私たち自信を!」

「旅兜やお姉ちゃんの、言う通りです! 今までの、威勢のいい柊は居なくなってしまったんですか? 違いますよね? 柊が、池について推理してくれたからこそ、今はそれを信じましょう!」



 助け、助け合う。それが仲間と言うもの。

時には、仲間割れや、すれ違いもある。

でもそれが、明日へと繋がる。無駄なんてない。



 俺たちを見て、村長は微笑む。

「ここからは、わしはただの付き添いじゃ・・・ 頼むぞ! 柊くん 朱里ちゃん 勇也くん それに、旅兜 しっかりやってくれよ! 村の思いを伝えるんじゃ!」

 俺たちは、知らない間に家の前まで来ていた。ついこの前は。あんなにも長く感じた階段が、あっという間に終わった。

(俺たち、成長したのかな───)

そんなことを考えていると、

ピンポーーン

 玄関のベルが鳴り響いた。

それは、ベルというより、鐘といった方がふさわしいかもしれない───





「お前たちか・・・ 話には、聞いていた 私も話したいと思っていたところだ・・・」



 これが、神代一夜!あまりの風格に、俺は後ずさりしそうになる。白い長い髪。そして、美しい着物。誰がどう見ても、村の頂点に君臨するにふさわしい人であった。

「卓爾から、うかがうと連絡があってな、入れ───」

声も、すべてを包み込みそうなそんな鈍重な響きをしている。

俺たちは、

「失礼します 」

そうだけ言って、中に入る。





─客間─

「まずは、ようこそ神代家へ・・・」

そうこのお祖母さんがいった瞬間、横から執事のような人が二人出てくる。

「まあそう緊張するんでない───」

そう言うと、隣の付き人たちは俺たちに紅茶を振る舞う。

 真っ白なティーカップに、茶色の紅茶。色の対比が美しい。

すると、何やら紅茶について説明しているようだが、何一つ分からない。



「そういえば、なぜこの客間だけ洋風なんですか?」

ぶちょうが尋ねる。全く本題とはそれた話だが・・・

「ここって、神社ですよね? 洋風なのって意味あるんですか?」

この部屋は、見る限り中世のホテルのような部屋である。絵画なんかも飾られていて、不思議な雰囲気を醸し出す。

 ここに歩いてくる途中、長い廊下もあったが、そこはすべて和風で、重々しいいかにもな感じの様子であったのに・・・

「良い質問じゃな・・・」

お祖母さんは、答える。

「お前たち、私たちの話を盗み聞きしていたくらいじゃ 生け贄については知っておるな?」

急なその話に俺たちは、顔を青くする。

 ばれていたのである。俺たちが、盗み聞きをしていたのが。

しかし、

「何か、償えとは言わん じゃが、これからはするなよ? 」

「すいません・・・ 」

一応、最悪の事態は免れた。日和の言う通り、案外優しい人なのかもしれない。



「聞き方を変えよう、三百年前、疫病が流行り村が崩壊しかけたのを知っているか?」

そうだった。この人は、俺の叔父、そしてその叔父の父が読んだ生け贄の資料を読んだ、もう一人の人。まあ正確に言えば、かなめもどういうわけかコピーを持っていたが・・・さらに言えば、神代家という代々続く神社家系の党首である。さすがに、詳しかった。

 俺たちは、素直に

「一応、知っています・・・」

そう答える。

「それは良かった まあ知っているとは思っていたが、 柊、お前の叔父の父は役場の長じゃな? そういうことじゃろ?」

「はい そうです 叔父から話を聞きました」

「ならば、その後 数十年間村の人口が極端に少なかったのも知っているな?」

「はい・・・」

「その当時、村の外から人を招き入れ 村を回復させたんじゃ 当時は、明治初期じゃな・・・」

「と言うと、文明開化ですね・・・」

勇也が突然間に挟む。

「その通りじゃ、さすがじゃな 欧米色に染まっていった時代、その技師たちが、新しくここを建て増ししたんじゃ」

「だから、ここだけ洋風なんですね───」

部長が納得して、頷く。



「いかん いかん 余計なことに時間を使ってしもうた・・・ じゃが、案外余計では無かったかもしれんな・・・」

一夜はそう言う。

「どうやら、お前たちも言いたいことがあるんじゃろう・・・ しかし、私も言いたいことがあるんじゃ まあ、どちらも同じことについて、じゃろうがな───」

俺たちは、黙り混む。

 なぜなら、たぶんこの人が思っていることよりも、深刻な状況だからだ。

しかし、俺たちは何も言えない。

空気が思い。 さっきまでとはうって変わってだ。

台風の目を抜けたようだ。



「今年の生け贄は、月和じゃ・・・」



 本人が、そう口にする。俺たちは、月和だろうと予想はしていたが、一夜がそう言った。

しかし、俺たちはもっと大変な局面にいる。生け贄云々かんぬんでない。かなめが、俺たちを利用している。

 それを伝えるためにここへ来たのだが、それを言い出すことができず、俺たちはしばらくお祖母さんの話を聞くことにする。



「あまり驚いていないようだな、ここまでバレているとは思わんだ・・・」

俺たちは、苦笑いする。振り替えれば、ただの盗聴である───

「お前たちに、生け贄を病人にする理由を言う必要はないな?」

「はい・・・」

それは、叔父から聞いたこと。病人を入れることで疫病がおさまったことによって、それ以来、病気がちな人がいる場合、その人を生け贄にしようと言う暗黙の了解ができた。

 だから、心臓病と診断された月和が今年の生け贄であるのだろう・・・

しかし、今となっては、月和が心臓病かも怪しい。

「私も、本当ならばしなくはない 生け贄など、古めかしいとは思っている・・・ しかし、この村の人々の命がかかっているんじゃ───」

 その威圧感に溢れた声の中に、どこか悲しみの色がうかがえる。

「許されるとも思っていない だから、お前たちになんと言われようとも、生け贄を行う─── だからこそ、先に言わせてもらう・・・ すまない、誰も死なせないことができなくて・・・」



 その、党首は俺たちに頭を下げる。

俺の想像していた、村の一番はそこには居なかった。

ただただ、自分が悔しいのか年下も年下の俺たちに、謝罪している。いや、俺たちではない、村の人々すべてに謝っているように見えた。しかし、そこに涙はない。もちろん、心がないわけではない。村のトップとして、涙の姿は見せられなかったのだろう・・・

異例なことであるのだろう、隣にいた村長が、

「一夜さん 止めてくだされ! この子達にも、気持ちは伝わっていますぞっ!」

そう言って、俺たちに目線をやる。

 俺は、今だ!と、口を開く。

一夜さんも、俺たちと同じ、不安なんだ!彼女は、悪役を演じ、村を守ろうとした。

 でも・・・・・・



「一夜さん!」

俺は、立ち上がる。

「誰も死にません! 月和も 村の人々も!」

死なせない、誰も。

「村長から聞きました! 生け贄を廃止できるように、行動するって─── それを、今年からにするんです そうすれば、誰も死にません!」

「そんなことしても、明日の生け贄までに生け贄を止めることのできるほどの、生け贄が必要ないと言う証拠が集まらない そう思っているんでしょ!?」

 そう部長が続ける。

「心配しないでください! 証拠ならあるんです!」

勇也も、

「あとは、一夜さん あなたが、行動してくだされば、必ず村は救われます!」

旅兜も。

 俺たちは、ここしかない、最後のチャンスに全力で気持ちを伝えようとする。



「神様を信じてみてくれませんか? この村の神様は、生け贄など必要としていません むしろ! こんな風に、繋がりを広げてくれる神様なんですから・・・」

 俺たちは、互いを見つめ合い、最後は一夜さんを見る。



 突然のことだったので、そのお祖母さんは驚いている。

しかし、深呼吸をして、深く椅子に腰かける。

「わかった 話をしてくれ─── 私が大きな間違いをしていたかもしれない───」

その老人は、ついに俺たちに話すチャンスをくれた。

 俺たちは、その小さな女性に落ち着いて話をする。

窓からは、日差しが差し込んでくる。



ここが、俺たちの最後の砦だ。



「まず、俺たちにはひとつの考えがあります 生け贄が、この村の人々の思い違いの連鎖の末、深く結び付いてしまった というものです」

 旅兜が話を始める。

「ほう?」

頬ずえをついた老婆が、少し前のめりになる。

「三百年前、疫病事件がありましたよね? でも、あれ以外に疫病が蔓延したことってありましたか?」

勇也が尋ねる。

「いや・・・ 無いな しかし、あの年だけ唯一生け贄が行われなかっただけでじゃな・・・」

「その偶然に、踊らされているんです!」

部長がそう言って、俺のほうに向く。

「はい そうなんです 信憑性には欠けるかもしれません でも、お話しさせていただきます!」



「三百年前に流行った疫病、結論から申し上げると結核です 結核と言えば、当時 江戸なんかで大流行していました それが偶然、この村に持ち込まれたんです いや、これは必然だったかもしれません その日は、お祭りの日、村には結核なんてないので誰一人として免疫はありません しかし、祭りを見に来た人によって、菌が持ち込まれたんです それがまず、祭りの日以降に疫病が蔓延した理由です」

「診療所にある資料を見てもらえば、結核が流行ったと言う証拠があります!」

部長が補足を入れる。

「では、なぜそれが終息した?」

一夜が気むずかしそうに、尋ねてくる。



「それも、こう説明できるんじゃないでしょうか・・・ まずこれは仮定です 池には、殺菌作用があります 何か、結核に有効な成分 それを片隅において聞いてください」

老婆は、頷く。

「結核が蔓延し、人々は恐怖のどん底に叩き落とされたでしょう だから、人々は死者を生け贄として、次々池に投げ入れた 生け贄を捧げると、神の天誅は収まると信じて ですよね?」

「よく知っておるな、その通りじゃ」

「当時、過半数の感染源が、死亡した人々です つまり何が言いたいのか分かりますよね?」

俺は、その俺たちの話を真剣に聞く老婆に問いかける。

「若いやつには叶わんな・・・ はっきり言って、ここまでとは」

素直に誉められた俺たちは、少し笑みを浮かべる。

 しかし、大事なのはここから。

「でもですよ? だから、生け贄を止めればそれで終わり、何てそう簡単にはいかなそうなんです───」

部長が言う。

「この伝統を、利用しようとしているやつがいるんです!」

旅兜がそういった瞬間、そこに居た女の表情が一気に曇る。

「どういうことじゃ・・・?」



「理由は分かりません でも、僕たちが診療所に行ったとき・・・ かなめさんが、こんな会話をしていたんです」

 俺たちは、テントの中でなされていた会話を、録音していたテープを流す。

そこにあったのは、一夜さんの知るかなめではない。ただの、悪魔だ。

雑音と共に、悲しい事実が知れわたる。

一度説明した村長でさえ、その録音を聞いて、信じられないといった顔をしている。

すると、老婆は頭を抱え込む。誰も予想がつかなかった、悪。それがそこには記録されていたからだ。

 かなめは、俺たちを利用して何かをしている。俺たちをだまし続けている。



「だからこそ!」

 俺たちは、もう一度声をあらげて言う。

「協力してほしいんです・・・ 僕たちも、何ができるか不安なんです・・・ 池の水質調査も、かなめさんに頼んでいたのに、彼女が黒幕だなんて思いませんでした・・・ 結局、池に殺菌作用があるかも分かりません・・・」

あのとき、かなめには殺菌作用はないと言われた。しかしあれは嘘かもしれない。

「村を救いたいんです!」

俺たちは、言い切った。

すべてを出しきった。

言えることは、全部。



しかし、

「お前たちの誠意は、十分伝わった しかし、お前たちは忘れていないか?」

急に、その老婆は声をあらげる。

「多をとって少を捨てる これでは、わしとおなじじゃぞ!? 村のことばかり考えておる 貴様らには、友達がいるじゃろ!? 大切な そこで聞いていたんだろ、日和 入ってきなさい───」



そう彼女が言うと、赤と白の服、言わば巫女の服を着た日和が、申し訳なさそうに出てくる。

「そんなことがあったんだね・・・・・・」

 そういう巫女の顔は、悲しみそのものであった───




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