第4章ー真実
「おい・・・ 今の話は本当なのか?」
俺の叔父は、俺の肩を両手でつかみ、声を荒げて聞いてくる。
「本当だけ、ど・・・」
俺は、見たこともない叔父の姿に、驚きを隠せなかった。
「それが本当なら、大変なことだぞ・・・」
まあ確かに、大変なことには変わりないが───
「彼女の妹が、危ないぞ・・・」
俺の叔父が言ったことが、よく理解できない。確かに、月和は、一時容体がかなり悪かったが、今心配すべきなのは日和の方なのではないか?
こんな状況で、叔父の不安を煽る発言。俺は、正直本当に頭が回らない。
「柊・・・ お前生け贄について、聞いたんだよな? 彼女から・・・」
「うん───」
俺は、言われるがままに返事する。
というより、他に選択肢がない。
「お前の話では、彼女は一夜さんからあまり詳しく話を、聞かせてもらえていない ってことだよな?」
「一夜さんって・・・ 誰だっけ?」
俺は、その名を訪ねる。
「知らないのか? まあそれもそうか、失礼だからしっかり覚えておけ 神代一夜 お前の、友達、日和の祖母 神社、村の長だ───」
(この人が・・・)
俺は、叔父が見せてきた写真を見て思う。
「それでだな、詳しく聞かされてないってことだろ?」
「うん・・・ なんか、自分には冷たいって言ってたんだ 避けられてるって言うか、最低限のことしか、聞かされていないってことらしい・・・」
俺は、その事を叔父に伝える。
「やはりそうか・・・・・・」
叔父は、しばらく黙り混む。俺は、その叔父の顔を心配そうに見つめた。叔父は、決心がついたのか、
「俺の家系 森ノ宮家は、役場を営んできた といってもまあ、俺のお祖父さんの代からで、浅いがな しかし、俺はおやじに、一夜に苦労していると言われ、役場に職に就くことをやめ、今現状、田舎の風景を描きながら、生計を立てている こんな立場だが絵師という以上、村の風景を描く以上、この村についてもう一度詳しく調べる必要があると思ってだな、役場の生け贄についての資料を特別に読ませて貰ったんだ・・・」
「哲二おじさん 絵上手いもんね───」
俺は、何を言えばいいのか分からなかったが、ひとまず誉めることにした。
「ありがたい言葉だな しかし、そんなことをいっている場合では無いかもしれないぞ・・・」
「なんか、そんな気がしてるよ・・・」
「その資料って言うのはな、はっきり言って国家機密に値するかも知れない・・・ そんな物だな、俺はこの村について、一夜さん、そしてこの本を読んだ、俺の親父、その次ぐらいに詳しいかもしれないんだ・・・」
なぜそんな重大な情報を、叔父は見せてもらえたのか。はっきり言って、とてもすごいことには変わりないだろう。
「そして、これは───」
「ほとんど、百パーセントに近い、信憑性に富んだ、情報だと思ってほしい・・・」
叔父は、そう言いきる。
「今年は、生け贄の年だよな? この村では、お祭りの日に失踪した巫女は、暗黙の了解で誰もが、生け贄にされたと分かるから、話題にされないんだ むしろ、話題になんて出来ない とまあ、俺はもちろん生け贄なんて初体験だ 実際、このルールが本当なのかは、知らんが、どこの家庭でもそう教えられてえいる」
「役場とかは、そんなこと許すの?」
俺は、単純に気になっていたことを、尋ねる。
「親父がいっていたことだ、正しい情報か、分からんがな 過去にこんなことがあったんだ」
叔父は、自分の描いた鉛筆の白黒の風景画と、図を取りだし、机に並べる。
「300年前のことだ 当時の神社を治めていた、神代華壱という女性が、生け贄であっても人をあやめるのはいけない そう言って、村の意見を無視し、生け贄を行わなかったことがあるんだそうだ そしたらどうなったと思う? 柊」
突然の質問に、俺は少し焦りながら、
「水縁之大神様が、お怒りになったとか?」
と答える。
「そうだ 良く分かったな─── 正確に言えば、縁が切れて村が崩壊する つまり、疫病で村が崩壊しかけた・・・」
日和の予想は、大体あっていたのか。縁が切れるとは、人が死ぬこと。そして、その人と人との繋がりがなくなること。さらに言えば、月和の病気も疫病の一種だとすれば・・・
話が繋がるのか?
日和は言っていた。自分が生け贄になりたくない意思を見せたから、月和が と。
「何で崩壊しなかったの・・・?」
「簡単な話だ 華壱が、殺された 村の住民に、池に投げ入れられてな つまりは、皮肉にも、彼女が生け贄にされたんだよ しかし、それでも疫病はおさまらない どうしたものかと、村の人々は病気で先が長くない人を、池に投げ入れ始める」
「たくさんの人が、連鎖で死んでいく・・・ しかも、同じ村人を殺す─── 縁が切れるってこと・・・?」
「ああ、そうだ だがな・・・」
叔父は、俺の言ったことを認めつつも、しかしと続ける。
「なぜか、それで疫病は収まった・・・ 」
叔父は、復旧した村の絵を指差す。
「村人の数も、元通りだ それが、まあ、130年ほど前のことかな?」
神様の怒りから、村は間逃れることができた・・・
不思議なことだ。
「そういえば、答えを言い忘れていた 役場は、過去にあったこの疫病の件を、知っている 止めたくても、止められないそうだ もし、生け贄を止めさせたら次こそは村が滅ぶかもしれない、とな だから、役場は、この件には首を突っ込まないとのことだ」
「そんな・・・」
俺は、役場でさえも動けないのかと、気分が落ち込む。しかも、かなめの言っていた、日和を守ること。それはつまり、月和を殺すことではない。村を、崩壊させることだ。日和を守れば、生け贄が行われないことになり、村に疫病が蔓延する。つまりは、そう言うことだ。
「日和を、助けることはできないの・・・?」
元気のない俺は、最後の望みにかけて、叔父に質問する。
「いや、実はだな 日和は死なない・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・え?」
叔父は今確かに、死なない。と、そう言った。
「どういうこと?」
予想もしていなかった答えに、今度は俺が叔父の肩をつかんで、声を荒げる。
もしかして、希望はあるのかと思って。
「じゃあ、日和は助かるのか?」
俺は、もう一度聞く。
「違う・・・ 俺は、最初に大変なことになった と言ったな?」
「うん・・・」
俺は、少し期待し過ぎていたようだ。所詮は現実世界。そう簡単には、うまく行かないのだ。
「今年の生け贄は、彼女の妹の方だ───」
俺の叔父は、今はっきり、月和が今年の生け贄だと言った。
「───どういうこと?」
すんなり受け入れることができない、叔父の答えに俺は、こう問い返すしかなかった。
「さっき、村の人が、病気の人を投げ込んだら、疫病が収まったって言ったよな?」
「うん───」
「簡単に言えば、病気の人を投げ込んだ方が良い そう、村では言われるようになった しかも、病気の人を投げ込むメリットもある 治療費が浮くし、健康な先の長い人を生け贄にするにはもったいない それが、理由だそうだ」
俺は、内心本当に怒りが込み上げてきた。確かに、利に叶っているかもしれない。しかし、人が、人を殺す理由は以下なることがあっても、存在してはいけないはずだ。だって、人が人を殺めることは、いけないことだからだ。健常者とそうでない人。そこの間にあって良い物は、何もない。なぜなら、同じ生き物だからだ。叔父の、発言に戸惑っていると、叔父が結論付けてきた。
「つまり、今年の生け贄は、心臓の病気を持っていた月和である可能性が、非常に高い───」
叔父は、そう言いきった。
しかし、そうなると疑問もある。
「でもさ、そんなの三百年前の出来事でしょ? しかも、生け贄は、若い巫女がなるって言うルールもある 疫病の件の後に、生け贄は二人 その中に、実際病気の人がいるはずないでしょ?」
この疑問が、解決したところで、直接誰かを救えるわけではない。でも、こんな状況で知らないことがあるのは、命取りだ。知識が多ければ、もしかしたら皆を助けられるかもしれない。
日和を。月和を。
いや、村の人々を、この生け贄の呪縛から解放できるかもしれない。
「残念だが、百年前の16才の巫女は、記録は確かではないのだが、何らかの病気を患っていた見たいで、妹が生け贄の対象だったのを、彼女に変更されている つまり、実例もあるんだ・・・ 」
しかし、帰ってきたのは確率論を無視した、回答であった。この発言が、俺の中でますます月和の生け贄説を、確立したものに造り上げていく。
しかも、この情報をかなめは知らないであろう・・・
月和が危ない!
「哲二おじさん! 生け贄の人は、いつ生け贄にされる準備がされるの?」
俺は、慌てて叔父に尋ねる。理由は単純で、時間が無いからだ。
「悪いが、そこまではっきりとは・・・」
その答えを聞いて、俺は部屋を飛び出す。
「おい! 何処へ行く!」
帰ってきたのは、叔父の怒った声だった。俺は、服を捕まれ部屋に戻される。
「月和が危ないんだ! 病院には、かなめさんしかいない 何かあれば・・・」
俺は、叔父の手の中で暴れた。
しかし叔父は、怒るどころかむしろ笑い始めた。
「そんなことか! 心配ない 俺も生け贄には、何か裏があると思ってる 例えばだが、生け贄と疫病の話を用いて、村人の恐怖心を煽った政治を行っている なんって言っている人もいる 最近では、生け贄に疑問を抱いている人も多いんだ だからな、いざとなれば、村の人たちも見方だ! 月和も、かなめに任せておけ 彼女は、都会から来た、エリートだ 何も問題ない!」
叔父はそう言って、俺を慰める。
「明日しっかりと学校で、友達にこの話を伝えてほしい 真実を そして、若いお前らの力を使って、存分にこのなぞを解明しろ! お前らの部活動の、活動内容は明日からこれだ 生け贄の謎を解明しろ! しっかり、脳を休めて明日に備えろよ」
叔父はそう言うと、寝室へ行ってしまった。
確かにそうだ。今ここを飛び出しても、何も変わらない、俺は寝床について頭を整理することにした。
メールを、しようともした。一刻も早く伝えるため。だが、やめにした。整理できていない状態で、人に伝えるのは危険。神奈川の、情報の授業で習ったことだ。
俺は、日和と月和の顔を思い浮かべ、
「おやすみっ」
と、口にして、電気を消した。
■ ■ ■ ■
俺は、外から聞こえる、雨の音で目を覚ます。そして、左を向くと時計の針は四十五分を指す。
(あと十五分か)
俺は、目覚ましのなる十五分前に目を覚ましたようだ。
俺は、もう一度寝ようとも考えたが、外から聞こえる心地いい雨音を楽しむことにした。
昨日のことは、寝たことによって俺の頭が、完璧に処理してくれた。確かに、複雑なことになったが、俺たちなら乗り越えられる。
俺は、窓を開ける。その瞬間に、風が吹き込み俺はしぶきを浴びる。まさに、天然のシャワーであった。
(つめて・・・)
俺は、タオルで顔をふく。
(みんなにしっかり説明しなきゃな・・・)
俺は、整理したことを話すと言う、大切な作業が残っていた。俺は、気持ちを整える。幸いにも、いい朝となったわけだし───
「あれ?」
一階に降りた俺は、机の上におかれたメモを見つける。
(哲二おじさんからだ───)
俺は、メモを取り上げて読む。
「俺は、今日から三日間村を離れなければならない 仕事の都合だ お祭りの時間に帰れるかは、分からない だからお前に頼みがある 村を、救ってやってくれ」
(どうやら、本当に俺たちに託されたみたいだな・・・)
俺がそう思っていると、メモには裏があった。そこには、お守りが貼り付けられていた。
(なんだ?)
メモには、水縁守だ。お前たちを助けてくれるだろう。と書かれていた。
元はと言えば、神様の怒りを沈めるために、生け贄が行われている。その元凶である、神を信じていいのか・・・
俺は、そのお守りを取り上げ、見つめる。
縁
お守りには、その一文字が書かれていた。
俺は、そのお守りを信じて、胸のポケットにしまった。
(神様 俺たちを守ってくれ、生け贄の真実 暴いてやるから!)
■ ■ ■ ■
─教室─
「おはよ」
俺は、教室に入って挨拶をする。しかし、教室には誰もいなかった。
(あそっか 今日早く起きたからか)
俺は、理由を早急に解決した。しかし、誰もいない朝の学校ってなんだか心地いいな。俺は、その雰囲気に浸る。
いつもはなんとも思っていなかった教室が、随分と広く感じる。まあ確かに、神奈川の学校と比べてしまうと、元々広くは感じるが・・・
しかし、雨と言うのは音を聴くのは大変心地良い。しかし、外出をするとなると話が変わる。俺は、椅子に座り、濡れたズボンの裾を捲り上げる。
(びしょびしょじゃん・・・)
空模様と言うのは、心にも直結すると言うが、本当なのか?だって、今は濡れて気分が悪いのは確かだが、雨音とは心の薬にもなるのだ。天気って言うのはふしg・・・
「おはよぉございまぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああす!」
「お前黙れよぉ! 俺のモーニングルーティーンを、阻害するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!」
俺の優雅な朝は、バカの大きな声でおもいっきりなかったことにされた。
「あれ、柊珍しいわね? こんなに早くに学校に来るなんて なんかあったの? もしかして、恋? あらららららららぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああああ? はずかしいわねぇぇぇ ひゅー ひゅー!」
「なあ 葬るぞ 前頭葉」
俺は、あまりにもうざいバカに、意味の分からない注意換気をする。
「すみません」
「お姉ちゃん、歩くのが早いですよぉ」
弟の、勇也も教室に入ってくる。
「あれ 柊さん おはようございます!」
本当に、この兄弟は何でこんなに違う?
バカな姉と、優しい弟。まあ確かに?姉と言う属性、弟という属性、ぴったりな性格だが・・・
しばらく俺たちは談笑する。
「なあ、旅兜と日和、遅くない?」
始業時間の五分前になって二人は来ていない、二人の行方が気になる。
「なあ、先生来た、ぞ?」
そう、先生が来た。
遅い。
「確かに遅いですね・・・?」
勇也も、同感なようだ。もう一人のバカは、なんにも気にしていないが・・・
「♪♪~」
そう。ご覧の通り、鼻歌をおっぱじめる。
「あれ 二人が来ていませんね?」
先生も、そういう。
「皆さん、理由を知っていr・・・」
先生が、話していると・・・
「マジですみません 遅刻しましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ」
「しましたぁぁぁ!」
旅兜を先頭に、二人が入ってくる。しかも、二人ともよほどなキャラ崩壊で・・・
俺は、焦りながら入ってきたびしょびしょの日和を見て・・・
また、雨が好きになりました。すみません。はい。
「何で、遅れちゃったの? 二人ともぉ?」
先生は、いつも通りよくわからない話し方で二人に尋ねる。
「夜更かしですね、」
「夜更かしです・・・」
でしょうね。まあ、昨日にあんなことがあったんだ。仕方ないだろう。
「ゲームしてて・・・」
(じゃあ、お前は一旦裏庭来い、)
ゲームかよ!
ただしまあ、心の落ち付け方は人それぞれだろう。あいつもあいつなりに、自分の心を整理していたんだな・・・
「今日の部活さ、俺叔父から、話を聞いたんだ生け贄 それを話したい そして、どうするか相談したいんだ」
俺は、ついにその言葉を口にする。みんなそれぞれ心を落ち着かせてきた。だからこそ、みんなとは、しっかりと真実を分かち合いたい。
「分かったわ! いよいよ、真実が分かるのね!」
部長は、そう言ってはしゃぐ。
しかし、チャイムがなる。
チャイムによって、この話は打ち消され、強制的に時間が経過した・・・
■ ■ ■ ■
─放課後─
「たしかに、俺も生け贄の伝統については、おかしいなとは思っていた 生け贄を捧げないと、怒る神、よく考えたらそんなの神じゃねえだろ───」
旅兜が言う。
放課後、部活が始まって、俺は昨日叔父から聞いたことを話した。
「でもどっちにしろ、月和が危ないんでしょ?」
日和が心配そうに、尋ねてくる。そうだ。今年の生け贄は、月和である可能性が非常に高い。
「そこでなんだ 俺の叔父がさ・・・ お前たちの柔軟な頭で、村を救ってほしいって・・・」
「村を?」
勇也が、聞き返す。
「ああ、最近では村の生け贄について、否定的な声も多い この生け贄という、伝統に巻き込まれている村を救ってほしいと・・・」
「でも、柊の話では、生け贄を捧げなかったら、疫病が出るんじゃないの? それこそ、村を助けるどころではなくなるわよ?」
確かにそうだ。でも絶対、糸口はある。
「そう言えば、叔父が、生け贄は村人を操るための偽りの伝統なんじゃないかって、言ってた 恐怖政治の一種かもって・・・」
俺は、思い出したかのように、昨日の叔父の話を話す。すると、急に日和が怒った口調で、
「お祖母ちゃんは、確かに生け贄を行おうとしている 歴代の神代家も でもね? おばあちゃんは、それこそ村を守ろうと、致し方なく、この伝統を行っているの・・・ しかも、その言い分じゃ、三百年前の疫病の件を、説明できないでしょ?」
そう俺に言う。確かにそうだ。俺は、大きな間違いをしていた。めのまえにあることを解決するために、友達の家族を疑うと言う、最低なことをしてしまった・・・
「すまない・・・ 俺が間違っていた」
「でも!」
そう、俺は続ける。
「この疫病の件、おかしなことがないか?」
俺は、ひとつの疑問が頭に思い浮かぶ。
「いや、おかしなことだらけだろ」
旅兜が言う。
俺は、頭に神経を張り巡らせ、身体中の力を使って考える。
・・・・・・!
「なあ 日和・・・」
「な、に?」
「生け贄が投げ入れられる池 何か、特別な力とかないか?」
日和は、しばらく考える。
しばらくすると、はっと日和が気づいたかのように、
「浄化の力があるって・・・ 抽象的な、言い方だけど・・・」
やはりか!となると、疫病の件は、説明がつくぞ!
「答えがわかった・・・」
「ほんと!?」
部長が、キラキラした目で俺の発言を待つ。
「つまりだ、もし浄化の力が、殺菌作用だったとしたら・・・?」
しかし回りは、ピンと来ていない。
俺は、順を追って説明する。
「まずは、3百年前と言えばいつだ?」
「江戸ですね」
「そうだ そして、当時、都市部では“結核”が大流行していた 歴史の授業とかで習っただろ? 不治の病だって しかし、この村では当時、感染者はまだ居なかった なぜなら、この小さな村では、外とあまり交流がないからだ ところが、お祭りの日の夜 村の外からお祭りに訪れる人が集中する そこで、残念ながら、結核菌が持ち込まれたとしよう」
俺が話していると、旅兜がパッと気づく。
「じゃあつまり、結核に対して、なんの免疫もない村人に、生け贄が行われなかった祭りの日を境に、くしくも持ち込まれた結核が、蔓延してしまったと?」
「そういうことだ───」
旅兜は、さすがに頭が切れるようで、一瞬で理解したようであった。昔から、旅兜は頭が回るらしい。
でも納得がいかない事があり、しかしと、
「じゃあなぜ、この事態は終息した? 重要なのはそこだ 説明がつかねーだろ?」
そうそこが重要なんだと、
「さっき言っただろ? 殺菌作用───」
と俺がその言葉を口にする。
「まさか! 村の人たちがダメもとで生け贄のつもりで、投げ込んだ結核の死者たち あまりにもの恐怖に、村人たちが、感染を疑える人を次々に、投げ込んでいった それによって、死者からの感染が止まったと言うことですか?」
勇也が俺の言いたかったことをすべて言ってくれた。
俺はそれに、その通りとゆびをパチンとならす。
「たしかに、それなら話は繋がるわね・・・」
部長も納得をしたのか、うんうんと頷く。
「そのせいで、現代ではなかなかない生け贄が、容認されているわけですか・・・」
村人たちの、疫病に対する恐怖心。それが、生け贄へと誘った。そういうわけだ。
しかし・・・
「でもそんなこと、誰か信じてくれる人っているかな・・・ 少なくとも、おばあちゃんだけでも説得しないと─── 何も始まらないよ?」
確かにそうだ。証拠がなければ、こんな子供の言うこと誰も聞いてくれない。ましてや、生け贄をやめることは、命に関わる。
しかも、日和が言うようにお祖母さんが村人思いなら・・・
必ず、生け贄をするだろう。村を守るため。
「少なくとも、説得するには 池には結核に対する何らかの殺菌効果があること 疫病の招待は、結核であること この二つを、証明する必要があるな・・・」
その二つ。到底、証明できる内容ではない・・・
「かなめだ!」
旅兜が口を開く。
「昨日、俺たちと約束したじゃないか! 今後の方針について相談したいって しかも、あの人なら、どちらも証明できるぞ・・・!」
確かに、かなめは医療従事者。まずは少なくとも、結核には詳しいだろう。しかも、池の成分調査。なんだかできそうな予感もするぞ!
「月和のことも心配だし みんなでいきましょ!」
俺たちは、その希望にかけて、かなめの元に向かうことにした───
■ ■ ■ ■
─診療所─
希望に満ちて、ここにやって来た俺たちは、証拠探しどころでは無くなっていた。
「月和が居なくなったぁぁぁ?!」
俺たちは、昨日の約束通り、今後の相談と、追加ではあるが、生け贄の真実について話しに来た。さらに、かなめなら、俺の論の証拠を示せると思って。
しかし、甘かった。俺は、昨晩家を飛び出してでも月和を確認しにいこうとした。つまりは、それほどまでに緊急事態だったんだ。確かに、昨日家にいたことで、俺の頭は整理されたかもしれない。しかし、どうだ・・・
「私が、少し病室を出た隙に、月和さんが─── 姿を消していたんです・・・」
もう一度その言葉を聞いて、俺たちはその事の重大さに気づく。
どうやら、遅かったみたいだ。俺は、ようやく、生け贄の真実を見つけたとみんなに話す。そして、それをかなめさんなら解決できると思って。しかし、そんなことをしているうちに肝心な月和がいない───
「すみません 何があったのでしょうか・・・」
日和が、薄々気づいていながらも、それを質問する。
「たぶん、うちのお祖母ちゃんですよね・・・」
もう今日は金曜日の夕方。生け贄が行われるお祭りは、日曜日。もう猶予がなかったわけで・・・
「生け贄って言うのは、神聖な儀式なんです 生け贄として投げ込まれる巫女は、神様のお供えものをお腹に含み、そして白い正装にさせられるんです 問題なのは、前者です 約三日前から、お米とお水しか口にしないそうです・・・ それが、お供えなのだか・・・」
日和は続ける。
「だから、お祖母ちゃんは早めに月和を、自分の手元に置いていたいのだと思います・・・」
なるほど・・・
もう、こうなってしまった以上、お祖母ちゃんを説得するか、他の強い権力を使って、やめさせるしかない。
だからこそ・・・
「かなめさん! 聞いてください・・・ 昨日、俺の叔父さんに生け贄についての本の内容を教えてもらったんです・・・」
「まさか・・・!」
かなめは、驚く。なぜなら、あの本は、叔父と叔父の父、そして一夜さんしか、内容を知らない極秘書だからだ。
「そこで、俺たち考えたんです 生け贄の真実を・・・」
俺は、俺の推理を話す。すると・・・
「本当に、すごいですね 君たちは・・・ その通りかもしれません───」
かなめが答える。
そして、かなめはある本を取り出す。
「・・・!」
かなめは、目を丸くしている。
「もしかして、何か・・・?」
旅兜が尋ねる。
「三百年前、この村で結核が流行ったと、かかれているんです───」
「じゃあ・・・?」
「その説の可能性・・・ とても高いかもしれません・・・」
かなめは、嬉しそうに俺たちを見る。
「それとかなめさん 池の成分調べてほしいんです 何らかの、殺菌作用があるんじゃないかなって───」
俺は、もう1つの証拠となるその事について、かなめに依頼する。
「成る程・・・ この事は私に任せてください 分かり次第旅兜に連絡をします だからお願いです・・・ お婆様を、説得してほしいんです 日和さん、あなた達なら大丈夫です 月和さんを、助け出しましょう いいえ、村の人をですね!」
かなめは、そう言って何やら試験薬のようなものを取り出す。
「善はいそげです・・・ お互い、検討を祈りましょう・・・」
そう言って、かなめは出ていってしまった───
「お願い お祖母ちゃんは村を助けたいだけなの 絶対、根拠を述べればわかってくれる 手伝って みんな!」
日和が、はじめて見せる顔だった・・・
その顔に、俺たちは、
「もちろんだ」
「僕たちに・・・」
「任せろ!」
「行くわよ! 目ざすは、水縁神社!」
いつもの通りに、渇を入れた───
■ ■ ■ ■
─水縁神社─
俺たちは、日和に案内され、お祖母さんに気づかれない部屋で、時間を過ごしていた。
理由は単純で、かなめからの連絡がない───
「遅くねーか? もう、夜だぜ? 」
夜であった。
「何かあったのかしら・・・」
部長も心配そうにしている。
かなめからの連絡は、俺たちの話を信じてもらう、大事な証拠となる。その証拠がないとさすがに、説得することは厳しいだろう・・・
俺たちは、しばらくどうするべきか考えた。
「俺が、状況を聞いておくから今日は解散にしないか?」
旅兜が言う。
「俺たちがここにいる時間 果たしてこれに意味があると思うか? 帰って、俺たちなりに、証拠を探してかなめからの連絡を待つ これが、最善の方法じゃないか?」
「確かにそうですね・・・ もちろん、月和のことは気になります しかし、準備を怠ってしまうと、もともこもありません・・・」
俺たちは、悔しいが続きは明日にしようと言うことになった。そして、かなめの進捗を旅兜が確認することになった。
しかし、この選択は部員全員の判断だ。間違っていない。俺はそう確信している。
そして俺たちは、神社の出口に向かうことにした。
数分後、俺たちは日和の家の横の道にやって来た。つまり、俺たちは随分と奥の建物で、身を潜めていたのだ。
「ここはお祖母ちゃんが居る みんな、ばれないように気を付けて・・・」
日和が注意を呼び掛ける。ばれることは、絶対にあってはならない。俺たちは、忍び足で歩き出す。
「分かったわ!」
一人だけ、例外もいたが・・・
すると、中からお祖母さんらしき声が、聞こえてきた。盗み聞きはよくないのだろうが、俺たちは証拠がないかと耳を済ましてその声を聞く。
「俺たちヤバイ人みたいじゃん」
その言葉通り、確かにおかしいやつだった。しかし、これは村の人々のためと俺たちは自分自身を肯定する。
「何としてでも、今年の生け贄は成功させなければならないわけだ しかし、もうこれで安泰だ・・・」
「しかし、一夜さん この娘にどうやって米を食わすのだ?」
・・・・・・!!
月和がいるのか・・・?
「無理やり、飲ませればいいだろう 考えて話せ・・・」
「すいませんな、」
その会話を境に、俺を制御する何かが切れた───
「ふざけんなよぉぉ!!」
あまりの怒りに、俺は叫び、中には入れそうな扉に走り出そうと力を入れる。しかし、朱里がそれを止める。
「ここを離れよう!今の声、ばれたかもしれない!」
ここでみつかってしまっては、交渉どころではなくなる。しかし、俺の怒りはおさまらず、部長に押さえつけられながら、暴れた。
しかし、その抵抗もむなしく、部長に無理矢理つれられる。
そして気づけば、鳥居までつれられてきた。
「柊! おまえふざけるな! お前がそうやって叫べば、誰が死ぬかわかってるのか? あの婆さんは、焦って月和を投げ入れるかもしんねーんだぞ?!」
「・・・・・・」
確かにそうだ。俺の軽はずみな行動で、何が起こるのか。絶望だけだ・・・
「柊、私前もいったよね? お祖母ちゃん 村を守りたいだけなの 確かに口調は強いし、やり方も強引かもしれない だからこそ、お祖母ちゃんも、助けたいの! 柊の考えが示されれば、村は助かるかもしれないの!」
「そうですね 確かにまだ証拠はありません 殺菌作用のある池なんて、間違った説かもしれませんね だからこそです! かなめさんを信じて今日は我慢です! 一夜お祖母ちゃんを、助けるんです───」
俺は自分を悔い改めた。感情的になっていた。
そして俺は、ただ皆の顔を見て、二度うなずいた。
そして、俺たちはかなめの報告まで、各自やれることをやる と言う約束を結び、それぞれの帰路についた。