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蒼の砦  作者: 神崎立風
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第3章ー生け贄



「そう言えば、謝らなければいけないことがあるな 部長」

 文春に売り込むことを検討していた旅兜が、おもむろに口を開く。

「そうよね? 文春に売り込まれたら、私の生活にも関わるもん」

「いや それは悪いが、忘れてくれ しかも文春に売り込みたいのは、勇也だ 君の弟」

「そうです 今話したいのは、今日の放課後のことです」

  


 そう言えばこいつらは、放課後にやることがあると言って、部長を置いて何処かに行ってしまったのだ。あのときの部長物凄く悲しそうだったから、確かに、こいつらはちゃんと説明する必要があるな。

「ああ、そう言えばそんなのあったわね 気にしてないわ───」



いや。気にしてください。あなたが、悲しんでたんですよ?それを申し訳ないと思って、こいつたちは謝りたいといっているのだ。

「実はさ、俺たち日和が村の伝統に巻き込まれたんじゃないかって、そう思って、村の図書館で伝統について調べていたんだ」

「でも、その心配は無用だったようですね 日和、全然ここに居るじゃないですか」

 伝統について?伝統ってなんだ?授業で習ったのは、しょうもない、周知の事実であったため、俺は伝統について何も知らない。しかも、それに巻き込まれるってなんだ?

「なあ、伝統ってなんなんだ?」

俺は、二人に尋ねる。それについては、朱里も同じなようで。うん、うん、と可愛く顔をふってみる。



「いや、気にしないでくれ ほら日和も寝てるんだぞ? 静かにしてやれよ」



 そんなに、言えないことなのか?放課後もこんな感じで、知らない俺たちが避けられているような気もするが。しかし言いたくないことを、無理に言及することもできない。俺と朱里は納得はできないものの、横ですやすや眠る日和を見つめて、言及を控える。

 しばらく、話がなされぬまま、時間がたつ。しばらくすると、旅兜が口を開く。

「そう言えば、月和のことは聞いた・・・」

旅兜は、かなめさんに、まかなって貰っているわけだ。その情報が耳に入ってくるのも理解できる。しかし、それを知らなかった者もいる───



「彼女に何かあったのですか? なぜ、その事を早く言わないんですか! 信じられないです!」



 確かに、申し訳ないことをした。あいつ、一人しかいない同級生である月和に、相当な思い入れがあるだろう。俺は、月和のことをあまり知らない。しかし、あいつは月和のことをよく知っている。しかも、俺は、あいつの言動から、勇也が月和に好意を寄せていることは知っていた。勇也は俺たちのことを、名前で呼ぶのに、月和のことは、彼女と呼ぶ。名前で呼ぶのが恥ずかしいのか。しかし、それほどまで、彼女を思っているのだろう。俺は、事実を伝えなければならないと、口を開く。



『意識不明 重体・・・』



 俺は、どんなことを言われるのか、と方目をつぶって、下を向き動かない勇也を見つめる。



「わかりました そう言うことだったんですね、日和さんが休んだのは・・・ 僕、彼女を信じてますから 彼女は強い女の子です 僕との勝負以外、負けませんよ───」



 勇也はそう俺たちに言う。しかし、その顔からは計り知れない悲しみの色が伺える。勇也は、一粒の涙を伝わせながら言う。

「皆さんも、手伝ってください・・・ 僕たちにできることをしましょう 今は、眠っている日和さんも、僕よりも悲しいに決まっています みんなで、月和を救いましょう!」

 少年は、強かった。そして、少年は彼女、ではなく月和と、その名前を呼んだ。

「そうよね! くよくよしてたって、しょうがない 行動すれば、未来は切り開けるわ!」

部長が、みんなに言う。それに答えるかのように、旅兜がいつものように───

「部長 今日の部活の内容は?」



「月和のお見舞いよ! かなめさんのところに、みんなで行くわよ!」

 俺たちの、部活動はよくわからないことをするといった、部活動だ。いつも、乗り気なのは半数だけである。しかし、今日。この活動は、部員全員が賛成!と言える、天才的な活動内容だ。

 それに、勇也も、

「月和、僕たちがいたら安心していられますね!」

と、いつもとは違う、一回りも二回りも強い、そんな小学生になった。

 しかも、彼にとって月和は彼女ではない。月和であった。



「部長 ちょうどかなめさんから、話したいことがあるって呼ばれてたぜ? 俺ら」

 旅兜が言う。

「ならちょうど良いわ! かなめさんの秘密、探るわよぉぉぉぉ!」

今日の部活動はひと味違う。皆が、1つになっている。これも、この村、水縁の力・・・ なのかもな。

俺がそんなことを考えていると、あいつらは、すたすたと部屋を出ていった。さすがの行動力である。



「日和 いくぞ 部活動だ」


「・・・え?」


「ほら、部活動 かなめさんとこ行くぞ お見舞いだ!」


俺は、眠っていた日和に部活動だと伝える。

すると日和は、ただ黙ってニコッと笑い、手をさしのべてくる。

「行こっ! 部活動、頑張ろうね!」



俺たちは、大切な何かを学んだ・・・ そんな気がした。



    ■ ■ ■ ■



─水縁診療所前─



 俺たちが、病院に着くともう外は完全に闇に包まれていた。俺は、左腕の腕時計に目をやる。

(もう、こんな時間か・・・)

 俺の時計の文字盤には、21時と刻まれていた。こんな夜分の部活動は、もちろんであるが初めてだ。

「夜も遅いけど、私たちに後退は許されないわ! みんな、気合い入れて行くわよぉ!」

部長が、再び俺たちに渇を入れる。が、声がものすごく大きい。夜の病院で出す声ではないよ、部長。

俺が、そんな朱里を横目で見ていると───

「部長、静かにしろ 玄関のとこ───」

 旅兜が顔を玄関の方にクイっとやる。そこには・・・



「───待っていました」

わざわざ、夜の俺達の身の危険を考えたのか、玄関先で待ってくれていたかなめがいた。俺たちは、そこに駆け足で向かう。もちろん、部活動は早い方がいいに決まっている。それだけのことだ。

 俺たちが、揃ったのを確認するかのように、かなめは、顔を左右に降る。



「よし、揃いましたね 先に言っておきます───」



 俺たちの顔を見るや否や、すぐさまかなめは話し出す。急な展開だが、俺たちはセオリー通り唾をごくりと飲み込む。そして、俺はかなめの顔に目をやるが、その顔は深刻そうな顔・・・

ではなかった。ただ、俺にはつかめない、何を考えているのか、と言った顔であった。

「今からする話は他の人には言わないでください───」

「それと、良い知らせもあります・・・」

そう言うだけ言って、かなめはこの村唯一であろう、自動ドアを開け、中へ入っていく。

 俺たちは、扉の向こうで手招きするかなめさんに従い、月和のいる部屋へと向かう。





「ご覧の通り、まだ目は覚ましていませんが、様態はかなり安定しています」

俺たちが、案内された病室に着くや否や、かなめが口を開く。そして、その病室には紛れもなく昨日運ばれてきた少女が横たわっている。呼吸が安定しないのか、少女からは、ピーピー という人工呼吸器の音が聞こえる。

「山は乗りきったのですか?」

 俺の後ろにいた勇也が、後ろから顔を出して訪ねる。そしてその答えは、俺たちも気になりはする。

「そうね もう少し詳しくお話しましょう ちょっとお茶でも出しましょうか」



 病院はもう閉まっており、かなめさんも時間があるようでお茶を用意してくれるらしい。夜の病院か───

普段のバカなら喜んで、



『夜の病院を探検よぉぉぉぉおおお!』



 とか言ってそうなもんなのに、今日は、月和の横たわるベッドの端に腰掛け、月和の手を握る。

「暖かいわ・・・」

外では、鈴虫が泣いている。夏なのに。しかし、この涼しい村ではあり得るのかもしれない。

 部長が、月和の手を握って、微笑んでいると───

「月和・・・ 良かったね お姉ちゃんたちが居るからね あなたの知らない、新しい友達だってほら───」

そう言って、日和はこちらに微笑みかける。

「そうだな 自己紹介とでもいくか!」

 俺は、始めましてと始める。

「俺は、元宮柊 神奈川県から来たんだ これ知ってるか? これ、スマートフォンって言うんだぜ?」

俺は、俺の持ちネタを披露する。

 実は、転校した日以来、スマートフォン=俺みたいになってる。俺の持ちネタ化したこのギャグを披露したのはいいのだが・・・



「えっと ああ スゲーじゃん───」

ご覧の通り、このギャグにはギャグとしてのメイン性能に加えて、スベるというサブ性能もある。

 冷や汗がすごい俺は、

「と言うわけだ、月和、よろしくな!」

と、日和の手の上から手を握る。しかし、俺の特技は、ヤラかしにヤラかしを、重ねることだ。

「柊 それ セクハラよ?」



「あぁもう、うるせぇなぁぁああ! 良いだろ? 俺は男子だけど、女の子の手をさわる権利はあるだろぉ?」



 ああ、やってしまったっぽい。まただ。まただ。

「その発言が、アウトだな」

「アウトですね───」



「あぁぁもぉぉぉぉ! すいませんでしたぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁぁあ! 許してくださいぃぃぃぃぃぃいいいぃいぃぃぃい!」

俺史上、最強の謝罪で場を納めた。まあ、正確には引かれただけだが。





「あの手の膨らみってなんだろ?」

 日和が口を開く。その指差す月和の腕には、ポコッとした突起物があった。

俺と、部長は互いに顔を見合せ、首を傾ける。勇也も分からないのか首をかしげている。

「ペースメーカー的なのじゃねーの?」



ああぁ!なるほど。俺たちはその確信のついた回答に、全員納得する。

そこへ、俺たちのためにお茶を持って、かなめが戻ってくる。

「遅くなって申し訳ないです・・・」

しかし、本当にかなめさんは、丁寧な人だな。俺は感心していた。まあしかし、こう言う素晴らしい人がいると言うことは───

「皆、分かったわ! このお茶、毒が入ってるの・・・ 証拠は、二つ まずひとつは、かなめさん あなたは病院に勤めている 薬剤に詳しいのは、目に見えている そして、田舎の病院に処方せんなんて物は存在しない、あなたは薬を熟知している! さらに、今お茶を持ってくるのが遅れたってことは、毒を入れていたのね・・・」



 バカな人もいるものだ。しかしそのバカな人も───

「お姉ちゃん 恥ずかしいのでやめてください───」

 弟に、風のような早さで押さえつけられる。

「すみません 出来心でした・・・」

 いや、出来心で月和を救ってもらった恩を、仇で返さないでもらってもいいですか。しかも一番悲しいのは、もしこれが仮に、元気付けようとしてやったことなら、誰も元気になってないし、かなめさんに笑われている。

 今の俺たちは、ただのバカだ。旅兜という、かなめさんの知り合いがいなければ、間違いなく今のは終わってる。

「私のことは忘れて、話 始めてください・・・」

まあ反省しているし、今回は許そう。

特別に。



    ■ ■ ■ ■



「さっきの答えですが、意識はまだ戻らないですが回復傾向にあります───  山場は、乗りきったかと・・・」

俺たちは、安堵のため息を、溢す。

 かなめは、それからと続ける。

「今から言いたいことがあります でもさっき言ったみたいに、誰にもこの話はしないでほしいの この話をしていい気持ちになるのは、一部のオカルト好きだけですから」

オカルトと言う言葉に反応した朱里を、勇也がねじ伏せる。

「良い? これはこの村の伝統のお話です・・・」

 伝統、その言葉を俺と部長はもう聞きたくなかった。俺たちには、知る権利がないかのような、この村の人々の接し方。俺たちは、それに薄々気づいていた。

 しかし、それを知っていたのか、かなめは、付け足して言う。

「この村の人は、隠そうとする 伝統を その意図を分かってほしいの 聞いたら分かりますから─── でも旅兜、信頼できる友達にこの事をきちんと相談するべきですね・・・ 友達を傷つけまいと、頑なに話さないことは、かえって友達を傷つけます───」



「・・・・・・」

「すまなかった 今、かなめがいった通りだ・・・」

「僕もすみませんでした・・・ こんな、腐っていることを話すなんて僕たちにはできなかったのです───」

 なんだか、話が重くなってきた。俺たちが、聞きたくなくなってきた気もするが・・・

日和の顔がものすごく暗い。そう言えば、日和は伝統という言葉に、異常に反応を示して、暗くなる・・・ 日和に関係があることなのか?

 そんな考察をしていると、かなめが語り出す。



「これは、この村に千年以上続く、生け贄(・ ・ ・)の、お話です───」



「まず、生け贄についてですが・・・ しらない人っていませんよね?」

 俺達は知っていると、首を縦にふる。

「よかったです でなんですけどね───  簡潔に言います この村では、百年に一度、若い巫女が、生け贄としてお祭りの日の夜に、神社の奥にある池に投げ入れられます・・・」

 俺と朱里は、言葉を失った。生け贄。とだけ聞くと、村に古くから伝わっているんだなと済ませられる。しかし、俺たちには聞き捨てならないことばがあった。



 巫女



それは、すなわち日和たちの家系を意味する。そして俺は、ひとつ疑問に思った。

「その伝統って、さすがにもう、無くなりましたよね・・・?」

俺は、恐る恐る聞く。

 しかし、場を支配するのは沈黙だけで・・・

「伝統でも、人を殺しちゃ罪になっちゃうでしょ・・・?」

耐えかねた朱里も質問する───



「残念ながら、ちょうど百年前にも生け贄が実行されたと言う記録があります・・・ 当時16才の少女が、投げ入れられました・・・ 君たちと同じ、幼い少女です─── 苦しかったでしょうが、村のためだと言って・・・」

俺と朱里は、冷や汗をかいていた。話を知っている、旅兜、勇也ですら、顔を下に向けて何も言えない。



 ちょうど?そう、かなめが言ったからだ・・・つまり・・・

「残念ながら、次の生け贄は・・・」

お茶を一口、飲んで、そしてもう一口。

「今年です───」





え・・・?今年?その言葉の意味すること、それは───


日和


月和


二人のうち、どちらかが、生け贄・・・?

 しかし、何度考えても結論は変わらなかった。しかし、それを俺も朱里も確認できない。答え合わせが出来ないのだ・・・

朱里は、信じられない様子で笑いながら、

「かなめさん 6年前にここに来たのよね? 何でそんなこと言えるの? 間違ってる情報ですよね・・・ そうだといってください───」

そう、言う。もちろん俺たちは、そんなこと信じたくはない。嘘なら嘘である方がよっぽどいい───

だが、帰ってくる答えは何となく分かっていた。



「私がこの村に来た理由は、村を救いたいから と、この前柊くんにはお話ししました つまり、私はこの村の伝統に疑問を抱いています 生け贄? そんなもので、人が死ぬのは見たくありません だから、私はこの村の伝統について、この6年間ずっと調べていたんです───」

調べた上での、次の生け贄は今年という回答。どうしようもないのか・・・?

 


「私は、生け贄なんか言う 腐った理由で人を失いたくありません・・・ なので、みんなで日和さんを守ってあげてくれませんか? 私は、月和さんをこの病室でしっかりと守り抜きますから───」

 突然過ぎる展開に、俺と朱里は状況が掴めない。だって、ここに来た最初の理由は、月和のお見舞い。病気によっての、少女の心配だ。しかし、今話は大きく別の方向にネジ曲がる。突然出てきた、生け贄についての事実。しかもそれが行われるのが、今年?頭の処理が追い付かない───

 しかも、守ってほしい?誰から・・・

「俺たちが今日二人で行動していた理由、もう一度だけ説明させてくれ・・・」

「今なら、きちんと話せます・・・」

そういって、旅兜たちが話し出す。



「といっても簡単なことなんだが、日和が生け贄関係に巻き込まれてるんじゃないかなって思ってな・・・」

「それで、事情を聞いた僕も協力したんです───」

「俺は、先にかなめから守ってほしいって言われてたからな・・・」

なるほどな、こいつたちも日和を守ろうとしていたわけか。

「しかし、私も誰が生け贄を投げ入れるのか、まだ分かっていないんです・・・ そこで、日和さん辛いでしょうが、お話しくださいませんか?」

守りたいが、何から守ればいいか、分からない。複雑な話だ。

 そして、日和が伝統と聞くと暗い顔をする理由も、分かった。しかし、その理由が分かった現状、日和に詳しく話を聞くのは、酷だ・・・ 俺たちは、モヤモヤした気持ちが渦巻く───



「ごめんなさい─── お祖母ちゃんから、その話はするなって・・・ 村の方針だからって、私にも教えてくれないことも多いの・・・」



「・・・・・・─────────」

 その沈黙に、勇也は思い出したかのように、言う。

「月和が言ってた気がするんです、お姉ちゃんを守ってあげてって・・・ 何ででしょうか─── 日和、お願いです 僕たちに、説明してくれませんか?」



 しかし、日和は首を横に降るばかりである。でも、誰も責めれない。当たり前である。俺と朱里は、生け贄なんて、今知ったばかりだし、勇也と旅兜も知っていたにしても、分からないこともたくさんある。でも日和は、一人で抱え込んでいる。そこに、この月和の一件もあった。精神的にも来ているだろう。だからこそ、俺たちは・・・



助け合いたいんだ。



「ねえ、日和 お祭りって、今週末よね・・・ 」

今週末?!もう猶予がないじゃないか・・・ こんなことになるなんて。しかし、慌てても仕方ないのか?いや、どうすればいいんだ───

 俺は、頭をかきむしる。

しかし、こんな状況でも───



「日和、一人で抱え込まなくても良いのよ? お願い、私たちは友達・・・ いいえ、仲間でしょ? 毎日を、楽しくいきる 一緒に過ごす そんな、5人組じゃない・・・ お願い、私たちにも協力させてほしいの───」

一言一言噛み締めるように、訴える部長がいた。俺たちは、それにいつも心を動かされてきた。それは今回も同じで───

「そうですよ、日和 まだ3日もあるじゃないですか ゆっくり、整理しましょう」

「そうだぜ 一人じゃない かなめもついている」

「水縁の巫女の力、見せてくれよ!」

全員が、暗い顔を励ます。無駄かもしれない。余計に、苦しめるかもしれない。でも、希望にかけて。





そして───

「うん、そうだよね・・・ 皆、仲間・・・ ありがとう」

日和は、俺たちの期待に答えてくれると信じて。

「私と、月和を守ってねっ」

その巫女は、精一杯の笑顔で笑う。そして、再び、月和の手を握る。

(一緒に、話そ 月和───)

 その後、日和はかなめの目を見て、一言、

「私でよければ、お話しさせていただきます」

 その一言に、場にいる全員が安堵の笑みをこぼす。

そして、日和は自分の口から語り出す。



    ■ ■ ■ ■



「私の家系は、皆さん知っているでしょうが、水縁神社を営んでいます 昔から、男は、修理や事務 女は、巫女として働いています しかも、この村では、村の政治を行っているのは村長ではなく、神社と役場です しかも、役場よりも、神社の方が立場が上です 簡単に言うと、うちのおばあちゃんが、絶対と言えば、絶対なんです───」

「俺の、じいちゃんも、村の政治には関わっていないって言ってたな───」

 旅兜が、付け加える。

「それで、私のお父さん、役場に勤めてるんです そしたら、お祖母ちゃん、お前は村の恥だってお父さんに・・・」



「役場の、代表って柊くんの叔父のお父さんですよね?」

かなめが、尋ねる。

「はい 叔父からそう聞いています・・・」

俺は、叔父から役場の話を聞いていた。

 役場としては、現代の日本の一般的な政治を行いたいらしいのだが、どうもそれを神社と村長が気に入っていないらしく、役場の意見が通りにくいそうだ。

「村の恥って・・・ どういうことよ───」

「簡単に言えば、新しいことをする役場は村の邪魔 なのでそこに勤めてるのが、恥だってことなの・・・」

「古くさいですね」

 勇也が、呆れたように言う。



「それと、大事な話の前に・・・ 今から話すことは、間違ってるかもしれないから───」

 そう言って、話はいよいよ伝統のことについてという話題に、切り替わる。



「もう先に言ってしまいますね 今年の生け贄は、たぶん私です」



え・・・・・・?



「なん、で?」

俺たちは、思わず口に出る。そして、かなめは、察していたのか、そうだろうなと頷く。

「百年前の生け贄って、16才の巫女さんだったでしょ? 私と同い年なの、しかもその巫女さんもお姉ちゃんだったらしいの・・・」

「でもそれだけじゃあ、証拠としては不十分すぎるだろ?」

旅兜が、呆れたように言う。

「違うの お祖母ちゃん、私を避けるの・・・ 明らかに、私にはあまり教えてくれない・・・」

「・・・・・・」

「そう言うことですか───」



「できれば、生け贄になんてなりたくはないです・・・ でも、伝統があるからには、何か理由があるんです・・・」

こんな話をしているのに、日和は落ち着いていた。月和の手を握っているからであろうか。

 俺は、日和のもう反対の手を見る。そこには、朱里の手があった。俺は、改めて友達の偉大さに気付いた。

 日和の話は、続く。

「生け贄を行う理由 それは、簡単に言えば、村を守るためです こんな伝承があるんです」

俺たちは、しっかりと日和の顔を見る。それは、例外なく、かなめも。

「この村の神様 水縁之大神(みなめのおおかみ)は、“水”と“繋”を司る神様です この神様のお陰で、この村は、豊かな川や自然、また住人同士の絆に恵まれているんです───」

「なるほどな・・・」

「───でも、何でこんなに恵まれているかって言う理由が、生け贄を捧げているからなんです 生け贄を捧げなかったら、ただ神様の加護を受けられないだけでなく、神様がお怒りになるんです しかも、もし水縁之大神様がお怒りになられたら・・・」



「どうなっちゃうの?」

 部長が、不安そうに訪ねる。

「縁が切れて、村が崩壊する 縁が切れるって言うのは、具体的には分からないんです・・・ ただ、お祖母ちゃんが、生け贄にならん愚か者のせいで、村が崩壊しかけたことがあるって しかも、生け贄にならない意思を見せた時点で、神様はお怒りになるらしいの・・・ それだけ、生け贄の伝統は、村に根強く残ってる───」

ずいぶんと、抽象的な怒りなので、何が起こるかは全く分からないと・・・

「それでね、私心配なことがあるの・・・」

日和が、そう言う。

「実はですね、私生け贄になりたくないです って言いましたよね? そんな風に、私、なりたくないって意思を見せてしまったんです・・・ そしたら、こんな風に月和が・・・ もしかして、月和の件、村の崩壊の序章なんじゃないかって」

再び、日和は、月和の手を、強く握る。



「じゃあ、縁が切れるって言うのは、命がなくなるってことか・・・?」

俺は、尋ねる。

「分からないけど、そうじゃないかなって・・・ 月和が、助かりそうなのは、まだ生け贄の日まで時間があるから、って言っても今日は木曜日の夜分で迫ってはいるけど、私が生け贄になれば月和は助かるのかなって・・・ 神様の、情けで様態が安定してるのかなって・・・」

「なるほど───」

「まとめるとね、生け贄を行わないと、村に厄が伝染して村は崩壊するって言うことです・・・」

日和は、最後に言い忘れたことがないかを確認したあとに、ありがとうございました、と話を終わる。

こんな、状況でも今まで言えずにいた気持ちを打ち明けることができて、少し緊張が緩んだようにも見える。



「わざわざ、ほんとにありがとうございます・・・ 事情は、よくわかりました 複雑なことになりましたね・・・」

 最後まで、日和が話終えるのを待って、かなめが言う。確かに、この話が事実ならば、日和と月和のどちらかが、死ぬのか・・・

 そう考えると、本当にゆっくりしている場合ではない気がするが───

「皆さんと一緒に、どうするべきか考えたいんです・・・ 明日学校が終わったらここへ、皆さんで集まっていただけませんか?」

俺たちは、仲間だ。絆で結ばれている。神様にも切れない・・・

「分かったわ─── みんな、絶対に道は有るわ! 絶対に二人を助けるわよ!」

その、部長の掛け声に、俺たちは全員で、

おおーーー!

と、その渇に答える。

「頑張ろうね! 私も、月和も、頑張るから!」

そう、日和も笑顔で答える。



「こんな遅くまでいさせて、申し訳なかったです・・・ 皆さんのおうちまで、車で送ります」

かなめは、俺たちにそう言い車の鍵を取りに行く。

 俺たちは、ありがたく乗せてもらうことにした。

俺たちは、その車の中では一件を忘れて久しぶりに談笑をした───

だって、俺たちの戦いはこれからなのだから───



    ■ ■ ■ ■



 家に帰ると、叔父が心配そうに出迎えてくれた。

机の上には、夜のご飯がラップに包まれおかれてある。時計を見ると・・・

(もう日付が違う───)

叔父は、もちろん怒っている。

「何をしていたんだ!」

俺は、少し考えたあと、今日のことを話すことにした。

「ごめん 実はさ・・・」



俺は、今日起きたことを、隅から隅まで叔父に打ち明けた。

 すると、叔父の顔色が、怒りと心配から、衝撃に変わった───




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