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蒼の砦  作者: 神崎立風
2/8

第1章─バカな仲間と部活動─



─二週間が経過した─



 俺は部活動に参加していた。と言ってもまあ、部員はこの学校の全校生徒6人。部室もなく教室で活動。

しかも・・・



「今日も、この学校の秘密を探るために・・・ こっくりさんをやるわよ!」



部長である、こいつ笹木野朱里(ささきのじゅり)がこの様だ。

 こいつの無茶ぶりで、この部活も廃部寸前である。聞くところによると、俺が転校してきて、テンションが上がった結果が、この部活の成立らしい。活動内容も、学校の秘密を探る─だの、村の悪事を暴く─だの、高校生の頭ではない。こいつは。髪型も、短い感じの名前の無いやつだ。本当に呆れる─

 んで、机の脇にいるあいつがくそ部長の弟、笹木野勇也(ささきのゆうや)だ。

と、俺は朱里のとなりにいる姉とは真逆の容姿で、美しい───

美男子に視線を送る・・・

こいつは、俺の自己紹介の時に見かけた小学生だ。

しかし・・・朱里のほうがよほどな小学生だ─

ただし、こいつにも難点がある。俺は見かけたことが無いが、こいつの唯一の同級生に恋をしているらしい。何か理由があるのか、学校には来ていないし、誰もその事について教えてくれない。しかしまあ、その恋心は本物で、ずっともらった手紙を持ち歩いているらしい───

「ぶちょー? 誰がさぁー 十円玉用意すんのよ」

 そして、だるそうに質問しているこいつが上新城旅兜(かみしんじょうたびと)。そう。転校初日に、俺に大恥をかかせたやつだ。

ただ、見た目とは裏腹に、仲間思いなのも少々腹立たしい。しかしまあ、こいつもこいつで、部長と話が通じる訳がわからんやつだ。部長の話を聞くなら、念仏を聞いていた方が百ぱーマシだ。

 紹介が遅れました、僕のとなりに座っている、赤と白のリボンをつけているセミロングの、いかにもヒロインって感じの容姿をしている、超絶美人がぁ・・・・・・

俺のこのよく分からない、田舎生活の癒しである神代日和(かみしろひより)ちゃんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

しかも日和は、この村の神社、水縁神社で巫女をしているっていう、もう可愛さは村の人のお墨付きな訳ですよ。





なのに・・・ね

ほら・・・



「こっくりさんやるからぁぁぁぁ! みんな話聞いてよ! そうだ! 柊・・・」


「いまからドッヂボールして、負けた人が・・・

 十円玉を提供する! 決定ね───」



こいつがしゃべると、話が意味のわからない方向へ進む─

「いやお前、こっくりさんやるんだろ? そんなところで時間食ってられるか!」

俺の渾身のツッコミ───

であったが・・・

「面白そーだし・・・ とりま、やってみるか」

「私も、賛成かな?」

「僕も、やりますよ 彼女が帰ってきたら良いとこ見せないとなので」

俺以外バカであった。

「じゃあ決定ね!5分後に校庭に集合!」

と、アホはそそくさと出ていった。このアホが、なぜこんなにも、この村に関する秘密を知りたがるのか。勇也曰く、朱里は実の姉ではなく、再婚した親の連れ子らしい。朱里は、親につれられ都会から2年前にこの村にやって来た。そのために、村に異常な興味があるのだ。

都会から来たと言う面においては、多少親近感がわく。しかしだ、やはりバカはバカ、5分前のこっくりさんのことなんて忘れ、窓の外で集合をワクワク待っている。

この部活の存在意義が、いよいよ怪しい。「部長権限であそ部」に改名して欲しい。切実にだ。

 とまあ、最初は田舎に慣れなかった俺だが、楽しい仲間にも恵まれ、充実した生活を送っている。





─7月中旬─

 俺は、部長にふりわまされ、相変わらず学校生活を営んでいた。転校して1ヶ月たった今でさえも慣れないことが多い。緑がいっそう生い茂り、その中に蒼色が映える。

「おーい! 元宮君!」

外からは暖かい光が・・・



「元宮くーん!」



「あっ はいぃ!」

教室中に、俺の悲惨な声がこだまし、俺は机にあった視線を教卓の前でほっぺたをフグのように膨らませる先生の方へ向ける。

「続き、読んでくれる?」

「いや・・・ 何、を よめばいいでしょうかぁ」

「よし!まずは・・・ 社会の教科書を開きましょうか───」

数学の教科書を開いていた俺は、素早い手の早さで机の中を引っ掻き回す。しかし、このような展開にはオチが付き物なようで。絶対に社会の教科書なんてない。そう思いつつも、全力で机の中身の捜索に励んでいると、あきれた声が聞こえてきた。

「神代さん 代わりにお願いします」

俺は、横に座っている日和に申し訳ない意の視線を送った。

 転校初日に気になっていた授業の方法だが、うまく考えられているもので、いや、これは偶然なのだろうが、この学校もといこの村には子供が俺を合わせて、6人しかいない。しかもその内4人は俺たち高校2年生、残り二人は小学生と、教室を二つに分けるだけで授業ができる。いま壁を隔てた向こうでは、勇也が国語を教えてもらっているらしくカリカリと筆記音も聞こえてくる。ひとつの教室に、様々な音が反響し合い、新たな音楽ができそうだ・・・



「坂本龍馬って剣使えるんですか?」



 取り消そう。こいつの声だけは邪魔だ。

「剣使えない武士って、なんなの? お前からバカを抜いたのと一緒だぜ?」

っとここで、すかさず旅兜が突っ込みを入れる。

「私はバカじゃないの! 何回言ったら分かるの? てか、私部長よ? 退部です もう退部!」

「いや、全然いいだろ」

確かに。あの部活を退部になれば趣味の時間が増えすぎて困るほどだ。



「部長 おれも退部にしてくれよ───」



 ギャグのつもりだった。しかし回りの視線は痛かった。俺はもう滑り芸しかやっていけないのか。おまけにこういうとき、俺はさらに追い討ちをかけられる。

「早く授業を進めるよ? 柊君」

 嫌。怖いですよ。日和さん?目にハイライトを入れてください。お願いです。

 この後ハイライトは戻りました。



    ■ ■ ■ ■



 「さあ! 今日は、柊君も居るわけだし、この社会の授業で、水縁村の歴史について触れていきます!」

 授業の後半に差し掛かり、先生がそう言った。俺も実際気になっていた。日本の田舎の伝統と言うものは、まあ面白いものであって、ミステリーなんかも含まれている─



 あれ?今一瞬・・・



 日和の顔が、曇ったよう・・・な?



 ・・・・・・・・・・・・



「じゃあまずわぁ!」

っと、先生の声が思考を途絶えさせる。気のせいと言うことにしておこう。



先生の話をまとめると、こうだ。



 この村は、すごく伝統があって神社が村を率いている。



 以上だ。



──────・・・・・・



 いやなんでなん?

と、俺はこてこての関西弁で突っ込みを入れた。それもそうだ。あたりまえ。俺はもっとカッコいい物を聞きたかった。あの教師の話を聞く前、俺はどんなミステリーなのか、どんな歴史があったのか。とワクワクもワクワクで待っていた。しかし現実はこれだ。

 俺は朱里は嫌いだが、少し気持ちは分かった。焦らされたあげくのあの話だ。切れそうである。神社についてのミステリー。君の名は。とか凄いのあるのに。本当に無駄な時間だった。



「いや、先生 これは何なの?」

旅兜も・・・

思ってたのか。



「えっ? 分かりずらかったっ? ごめ~ん!」



──────・・・・・・



「そんなのみんな知ってるよ─── 先生!」

日和の優しい突っ込みだ。俺は思わずほくそえんだ。 

「よかった・・・」

 よかった?日和はたまに分からないことを言う。多分、今、俺が楽しそうに笑っていたのを見て、馴染めているのを喜んでくれているのだなと解釈した。



    ■ ■ ■ ■



「今日は何すんの? ぶちょー」

旅兜が慣れた手つきで部長、笹木野朱里に部活動の内容を問う。

「始まりましたね」

すかさず、勇也も話す。

 俺は、全く乗り気ではない。いやだって、こいつの部活動の前科は《こっくりさんドッジボール》だけでない。他にも・・・

 《教室で手作りお化け屋敷(村のお化けと仲良くなるため)》

 《先生をゲストに、てつこのへやのパロディ(先生から村の情報を聞き出すため なお、先生は今日の授業の調子通り)》

負の遺産がどんどん産み出されるこの部活。でもまあ・・・

「部長! 今日は? 何を?」

ご覧の通り楽しんでいる。



「この学校の構造を理解するために・・・ 学校全部を使った・・・ サバイバルゲェームゥー!」

「ルールを説明するわよ!」



前言撤回である。

意味がわからない。

 それでも部長の説明は続いていく。

「使っていいのは、学校の敷地全部!」

「トイレに入れば狙われませんよ? がばいルールを作らないでください───」

確かに、トイレには入れば女子に軍配が上がる。もし俺たちが攻め上げれば、女子から浴びるのは、誹謗中傷の嵐でしかない。

「そこは、あなたたちの“空気を読む力”にすべてかけようと思っているわ!」

これが、朱里クオリティである。自分ではじめて、最後はほっ散らかして終わる。何度見た光景か。

「朱里ちゃん? 続けて!」

 それなのに、なぜこんなにも優しいのか。日和は。その言葉を聞いたか、聞いていないのか、朱里は説明を続ける。

「まず・・・ Aチームのメンバーは、柊! 日和! 先生!」

「はい? えっ? 私?」

驚くのも無理はないだろう。

「しれっと出てくる先生か 悪くはないな」

俺はとりあえず、適当に流しておいた。しかし流してくれないのも現状である。

「お前、今めっちゃキメーぞ ほんとっ───」

旅兜の言葉は心に染みるなぁぁ!回りの視線も!凄く良い!

と、気持ち悪い俺は相変わらず流される。



「部長チームは、私! 勇! 旅兜! です───」

「それで、Aチームにはこの白い服を着てもらって・・・」

と用意していたらしい、Tーシャツを取り出す。

「私たちはこの・・・ジャージ!」

理不尽だ。

しかし、誰もこの慣れ親しんだ、部長特製の理不尽には突っ込まない。

「───武器は、この水鉄砲にインク入れたらいいでしょっ」

適当だ。



今日も平和だ。





─10分後─

 俺たちは、服を着替え、校庭に立っていた。

 しかしまあ、なんと言う屈辱であろうか。腹が立つ。さっきはまあいいか。と思っていたTーシャツだったが、薄い。俺たちのチームは俺以外の二人は一応女性だ。もし濡れてしまったら、悲惨なことになるのは目に見えている。

 しかしどうだろうか。あっちのアホが率いているチームの方は。夏仕様のジャージを着ていて、通気性にも富んでいる。生地もしっかりしているのに、この7月の中でたいへん涼しそうである。しかし等の本人は・・・

「そっちのチームは準備できたぁーー? Tーシャツ涼しそうでいいじゃん!」

この調子である。もうどうでもいいような気がしてきた。

「もう、いけるぜぇ~! どっからでもかかってこい!」

俺もこの状況を楽しむことにした。

「私も、負けないよ!」

日和も、頼もしい。俺たちはやるなら勝ってやろうと言う、気合いで燃えていた。のだが・・・

「わたしも負けないわよぉ! どこからでもかかってきなさい! 私の本気、みんなにみせるわぁ~!」

忘れていた。俺たちの人数の有り合わせは・・・ 

先生だった。しかもまあ、ね?ポンコツな。でもこの人も一応、勝とう!と意気込んでいるわけだし───





「はい。先生アウトですよ」

弱かった。

開始20秒がたった今、校庭の角から、勇也の声が聞こえてきた。

 俺たちのまっさらなユニフォームを着用した先生は、無惨にもオレンジ色に染まっていた。コンビニから万引きをしてしまった、強盗のようだ。そして、悲惨なのは見た目だけではなかった。

「なぁ~んでぇぇぇぇ? 私、大人なのよ? いじめたら怒られるからね? めちゃくちゃ冷たいんだけどぉ?」

まあ、あれには初めから期待していなかった。が、俺は幸いにも運動神経には恵まれていた。神奈川では陸上部に入っていたし、足の速さにも自信がある。しかも、FPSのゲームが好きだった俺にとっては朝飯前だ。

「日和! 俺と一緒に行動しよう  どうせあっちはバラバラに行動している どこかであいつらに、はちあわせても・・・ 2対1なら、こっちに勝機はある まずは、相手の人数を減らしてイーブンに持ち込もう」

「りょーかい! 危なかったら、守ってね?」

「当たり前だろ?」

 なんだか、それっぽくなってきた!俺の青春はこの学校に託されいている。俺は水鉄砲を構え隠れていた教室を出た。プレハブの軋む廊下を歩いて、右へ90度曲がろうと足を踏み出した。



「柊! 誰かいる!」



 俺はその声とほぼ同時に、前方からとんでくるオレンジ色の弾に右ほほをかすめられた。危なかった。すると前方の暗闇から人影が現れる。

「柊君? 無事?」

日和が心配そうに俺の様子をうかがった。俺は一応当たってはいないので、ルール的にはセーフだろう。だが・・・

「そっちは、二人固まってくれているみたいだな 仕留める手間が省けたぜ? あの、ポンコツ教師は勇也がやってくれたみたいだし な どっちからしとめてやろうかなぁぁぁああ?」

 影から出てきた旅兜君はただの・・・

「悪役じゃねーか!」

悪役であった。

 それと同時に目の前にいた人影は、俺の横に移動し銃口をこちらに向けている。しかし、俺もそう簡単には殺られない。

「俺のシャツにインクがつかなければ、俺の負けにはならないぃ!」

 俺は上半身をくねらせ、下半身を高くあげる。そのわずか10フレーム程後、旅兜の弾丸はおれの足首にあったった。

俺はすかさず、日和に口の動きで“回り込んで仕留めてくれ”と伝える。

「ッチ 外したか だが俺は・・・」

 と、何かを取り出している。



「2個目の銃か・・・」


とりだしたのは2丁目の銃だった。



おいぃぃ!ふざけんなよ。あっちのチームの接待、異常すぎんだろ。何で銃2個持っちゃってんの?戦力2倍じゃん。



「お前だって、かわいい子引き連れてんじゃん? お前にはなにも守れないけどなぁぁぁ! ん? 日和どこ行った?」

こいつもバカだったのか。悪者を演じている自分に浸った結果。日和を見失っている。一瞬静まり返った空間にキョトンとした旅兜がひとり、そして俺がその前に立っていて・・・

「ばいばい─── 」





 次の瞬間、旅兜のジャージの上で俺たちの青色のインクが弾ける。一瞬過ぎて俺ですら何が起きたかわからない。ただただ、うん、あっけない終わりである。





「やったぁ! 当たったよ! 柊ぅ!」

どうやら、回り込んだ日和が、旅兜を撃ち抜いてくれたらしい。ただし、俺は正直鳥肌がすごい。日和にこんな才能があったなんて、

旅兜の正面に立っている俺が、背後立っている日和にきずかなかった。とてつもない・・・

 一方、見事に被弾した旅兜さんはと言うと───

「俺はチームの中で最弱、俺に勝てたところで意味は     無い」

旅兜は、捨てぜりふを吐いて、教室の先生のもとに帰っていく。

「いや・・・ どこまで悪なんだよ」

 最後までこのしょうもないゲームに、コテコテの悪を演じる旅兜を横目に、俺たちは校庭に向かう。

「校庭は広い 屋上から狙われてもおかしくないし、相手はあの兄弟だ 気を引き閉めよう・・・」

そう。この学校の校庭は木や壁、障害物の温床だ。しかも二階がないこの学校、屋上からの狙い撃ちは容易である。俺は夏の猛暑に汗が滴る。

「大丈夫だよ! 柊君がいるんだから」

 可愛らしい小動物のような、笑顔に俺は



集中力を欠きそうだった。



 俺は、そんな日和に笑いかけ、日和は校庭に、俺は屋上に銃口を向け、敵に警戒しながら校庭に走り出た。

外は日差しが、地面の茶と、木の緑を貫いていた。



    ■ ■ ■ ■



「やっと来ましたか 随分と、あの雑魚で苦戦したみたいですね」

雑魚とは言うまでもない。旅兜のことだ。

「あれは、盛り上げ役ですよ 要らない人です」

随分と毒舌な少年の声が、俺の背後から聞こえてくる。

「おいおい 勇也? 何処に居るんだ? お前めちゃくちゃディスってくるくせに、正体表さないとか、お子ちゃまなのかなぁ?」

 最もらしく煽る俺に、怒りを顕にするほどバカなやつではないのは、分かっている。これもゲームを盛り上げるための俺の配慮の1つである。向こうも、「面白い!」 とか、「やってやろうじゃないですか!」 とか。 そういう風に盛り上げてくれる奴だ。

 日和にもそれが伝わったようで、

「勇也君? 出てこないでコソコソ話すんじゃなくて、出てきたら良いんじゃないかなぁ?」

と、挑発を行う。



「バカにすんじゃねーよ! 俺が小学生だからって舐められちゃ、困るんですけどぉ? それともなんだ? 小学生の俺がお前たちに勝てないと思って、馬鹿にしてんのか? 良いですよ 出ていってやりますよ! お姉ちゃんに時間を稼いでもらって、僕が決めるつもりだったのに 今から、ぶちのめしてやりますよ! 死期が早まって、残念でしたね!」



──────・・・



「あ、あのぉ 日和さん? 勇也さま、ガチギれされておりますよね? どうしましょうか」

「えっとぉ・・・ 頑張ろ!」

「そうだね! 頑張って、朱里を倒そーぜ!」



「無視すんな! お前ら、ほんとにぃぃ! 絶対に潰す───」



やっぱり小学生は、小学生であった。俺の予想では、勇也は賢いスマート小学生。冷静に、そして沈着に、情報を判断できると思っていた。

「おねえちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああんぅ!」

 ただの、シスコンである。所詮、バカの弟。この程度であった。隠れていたのだろうが、もう丸見えである。校庭の花壇の上、そこに座り込んで、キャラ崩壊をしているショタは、お姉ちゃんの助けを必要としている。いまこそ、姉の出番だ。と言わんばかりに───



「よくも、うちの弟を殺ってくれたわね? 怒ったかんな? ゆるさないかんな? うん。 」 



 一度でも、こいつらを、強敵だと考えた俺が悔しい。しかも・・・

「おとうと まだ殺られてねーよ?」

そう、べつに弟は殺られてない。どちらかと言うと、彼は自滅なされました。

「まあいいわ? 私と弟が手を組んだら、あなたたちは、ワンパンもワンパンだからね?」

こいつたちは手を組むと、バカに拍車がかかって、俺たちが手をつけられなくなり、俺はワンパンされるらしい。

「そうですよ? 僕たちの絆は、だれにもぉ! 引き裂けない!」



 バカのとなりには───



「あれ? お姉ちゃんを懇願していたんじゃなかったの? 勇也くん?」

「いやですね? えとぉ あれは、前戯ですよ そうです!」

「いや違いますよねぇ?」

「信じてくださいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!」



──────・・・



「皆、楽しそうにやってるわね! 柊くんも!」

開始20秒の敗者である、先生が窓の外を眺め、口を開く。

「俺ら、のけ者ですけどね?───」

悪者の演者である、旅兜が答える。

「あぁーあっ 暇だな・・・」



    ■ ■ ■ ■



─ちょっと後─

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ! ふざけるらよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお?」

俺は、くずショタシスコンが作った落とし穴にはまっていた。

「お前ら、バラエティを知らなさすぎるんだよ? 落とし穴ってのはな? かかる奴への配慮と、安全面に考慮した穴からなりたってるんだよ わかるかぁ? あぁぁあ? それなのになあぁぁぁぁ、この穴はなぁ?───」

「なんでしょうか?」



「ただの鍾乳洞なんだよぉぉぉぉおおおお! 分かるかぁぁぁ?」



・・・・・・



「なんか言えよお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「作戦じゃないですか───」

勇也は、この殺人ホールを、作戦と言い張る。ここは、部長にビシッと言っていただきたい。ここは部長らしく・・・

「あのぉ・・・ 悪いことは言わないわ このお金で、早めに見てもらってきなさい?」

 伊藤誠の諸行であった。

 俺は、先生に連れられ、診療所に向かった。不本意ではあるが───



    ■ ■ ■ ■



「見たところ・・・ 軽い打撲のようですね 安静にしておけば、すぐに治るでしょう 一応、塗り薬は出しておきますから・・・」

 打撲であった。俺としては、もう少しひどい怪我なら、あの部活に参加しなくてよくなるし、何よりあいつらに反省させることができる。さすがのあいつらでも、俺が骨折でもしていたら活動内容がましになるだろう───

 しかし、この診療所、とても綺麗である。普通こんな田舎の村にあるような診療所は、受付が黄色くて、診察室が緑色であるのが落ちだ。しかし、どうだろう。この診療所、俺の前住んでいた町の病院より遥かに、清潔できれいである。



「そう言えば、柊・・・君でしたっけ?」

「あ、はい───」

 その医者は、俺の名前を知っていた。

「あの・・・    どうして、僕の名前を?」

「そりゃあ、こんな小さな村の転校生なんて、みんな知っていますよ しかもね、───」

その医者は何かを言いかけたように見えた。何か言いにくいことなのか。



「・・・」



しばし、沈黙が場を支配する。しかしその医師は、覚悟が決まったのか、口を開く。

「私は、柳本かなめ(やなぎもとかなめ) 6年前に国から指令があって、この村に診療所の医師としてやって来たの・・・」

「だからこんなに、きれいな病院なんですね?」

「そう 以前、この村には病院がなかったの 」

「じゃあ、  病気の時は、村の人たちどうしてたんですか?」

「そう そこが問題なの 当たり前だけど、隣町まで診療を受けにいっていたらしいんだけどね? 隣町までざっと15キロ 急病なんかじゃ絶対に間に合わない そこで国がこの村に、この水縁診療所を建てる計画をしていた そこに私が医師として、申し出たって訳なの」

 この先生がこの村にやって来てから、村の人たちはよっぽど助かったのだろうな。そう思って、俺は少し感動した。



「で、続きなのだけれど───」

そうだった。今は、俺の名前を知っている理由を聞いている途中だった。

「旅兜といつも仲良くしてくれて、ありがとうね あの子、気が強いから人に心を開きにくいんだけど・・・       君との話をいつも、楽しそうに語ってくれるから、安心しているのよ」

 旅兜も知っているのか?ますます疑問は、深まるが───

「ちょっと困った顔をしているわね・・・ 実はね、私の家で旅兜をまかなっているの ちょっと彼、家族との折り合いが悪くてね? お祖父さんと喧嘩をしてしまったみたいなの そこを私が、引き取ったって訳」

「───旅兜のお祖父さんって」

「そう 彼のお祖父さんは、この村の村長、上新城卓爾(かみしんじょうたくじ)

 引っ越し初日に、村長の家に挨拶に行ったとき、旅兜がいなかったから気付かなかったが、旅兜は村長の家系の子供だったのか。確かに、入学当初、名字が一緒だなとは思った。挨拶の時にいなかったのは、かなめさんの所に、居たからであった。しかし、折り合いが悪いとは───



「旅兜・・・ お祖父さんと何があったとか・・・ 聞いていいんでしょうか?」

「彼のお祖父さん 神社と仲が良いの それを良いことに、自分では村の政治を行わず、全部人任せ、神社任せにしているのよ それに旅兜が、腹を立てたって訳よ」

 友達なのに、そんなことも知らなかったのか、と知らなかった自分に腹が立った。この村は、結構訳ありな人物が多くすんでいる、そんな印象だった。親が再婚した笹木野家、家が神社である神代家、お祖父さんが村長でかなめさんにまかなってもらっている旅兜、そして俺。こんな特殊な環境だから、村の人たちは水縁の由来である、“縁”が深いのか・・・みんな協力しあって生きている。俺も、皆と協力して、助け合わなきゃ・・・

 確か、神社のしめ縄。あれの意味も結んだ縁が逃げないようにするためのもの、と聞いた。俺も、この大切な友達と、結んだ縁を、大切にしていこう、そう心に決めた。

「一応 足気を付けてくださいよ? あと・・・      旅兜君によろしく! これからも仲良くしてやってね」

縁か・・・





─待合室─

 俺は、待合室でスマホをさわって、薬と会計を待っていた。

(外が、騒がしいな・・・ 誰かが運ばれてきたのか?)

 俺は、待合室の窓から外を覗く。そこには、大きな車が止まっており、中からは小学生ぐらいの女の子が、運ばれてくる。どうやら、大きな車は、救急車のようだ。

「つきわちゃん! つきわちゃん! しっかりして! もうちょっとで先生のとこつくからね!」

 少女を乗せた担架が、俺の前を横切る。



“神代?”



 その担架には、神代月和(かみしろつきわ)、と書かれた紙が貼り付けられていた。神代と言えば、この村の神社家系である。そこの家族となると・・・



日和・・・



俺は嫌な予感を押し殺し、会計を済ませて診療所をあとにした。





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