休憩室のテーゼ
バイト先での事。自分が受け持っている箇所は他とは少し違い、1テンポずれる作業となる場所だった。それによって休憩時間もズレるため、他の従業員達とは一緒に休憩時間を過ごせなかった。まあ、どちらかと言えば一人で休憩したほうが気が楽だし有難かった。
そしてある日、みんなが休憩か上げってきたのでそれと入れ違いに自分は休憩室へと向かった。自分は喫煙する訳でもないので、ただ自販機で缶コーヒーを買って飲んで一呼吸置く。
それにしても缶コーヒーはちょうど良い。200mlあるかどうかで休憩中に飲みきれる量だ。昔、缶コーヒーは損だと思っていた。しかしケースバイケース。状況に応じて都合良く作られているのだ。メーカーは自分みたいな休憩中のひと時をターゲットにしたのだろう。そしてしっかり計算してあの量に作っているのだ。
一人でスマホをいじる。特に新しいメッセージもないがそうして時間を潰す。休憩室はボイラーの音が少し大きく響いている。しかしそんなのは意識しないと聞こえないほどに慣れていた。テーブルには古雑誌や新聞などが置かれている。誰かが持ってきてそれをみんなで回し読みしている。(だいたいはパチスロや競馬の情報誌だが)自分もここの雑誌はもう何回も読んでいる。誰か新しいの持ってこないかな。
コーヒーを飲んでいるとお胃が動いた。そいえば朝食を取っていなかった。今日最初に身体に入れたのがこのコーヒーだった。身体がずっと何かを待っていたかの様にひと口ひと口に反応する。
少ししたら胃の運動がどんどんと下へいき、腸の運動へなる。順番に部位が動く。運動するのは気持ちいいというが、こういうのは正直気持ち悪いかもしれない。
お腹が運動しているとふと、音がする。恥ずかしいけれど今はどうせ誰もいない。
が、
その瞬間、休憩室のドアが開いた。
「お疲れ様です」
そう言って入ってきたのはウチのバイト先の紅一点だった。遅刻して来たらしい。そいえば朝礼の時に居なかった事を思い出した。
紅一点はテーブルを挟んだ私の向かいに座った。
胃が動く。腸が動く。
鳴るな、鳴るな、お願いします。神様仏様紅一点様。鳴るな。
だが、しっかり
ギュルルンゴゴゴドンブラコッコ~ッ
我慢して溜めてた分、見事な音だった。
私は中腰になって座り直す振りをして、椅子を引きずる音をガーガー鳴らして誤魔化した。
そんな必死な私を、紅一点はテーブルに肘をつき頬杖をして微笑んで見ていた。
その姿は残酷な天使だった。