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始まりにして終わり

初めまして


暑さも和らいできましたね


 女神 アリウス

 右手に持った剣は国を数多の災厄から守り、左手に持った書物は人類に知恵と繁栄を与えたと言われている。人は女神の眷属となり、魔族に対抗する手段である魔力を手に入れた。

 しかし、人間の器では微々たる魔力しか宿れなかった。

 そこで女神は人にあるモノを作った。

 

『強い自我から発生する感情』


 感情作用と呼ばれる現象で魔力が人間の感情と共鳴することによって、強く濃い魔力となる。


 だが、女神の誤算は此処から始まった。

 女神は舐めていたのだ、人間のそこすらない悪意を・・・。


 

「おい!!なにガンつけてんだ餓鬼」

「ひぃ」


 典型的な場面があった。

 悪い大人に子供が絡まれているやつ。

 殆どの通行人が見て見ぬふりをする。それもそのはずで彼らは傭兵で肉体もさることながら強い負の感情を持った猛者なので、此処『王都 ブランガナ』では太刀打ちできる人がいない。


 唯一、張り合えるのは強い正の感情を持った神官なのだが見渡しても居ない。


「勘弁してください!!」


 子供が嗚咽交じりに懇願する。だけど逆効果で嗜虐心をくすぐる行為になってしまい・・・太い腕が振りかざされた。


「おやめなさい」


 瞬間、凛とした声が一帯に響く。


 声の主は、女性だった。

 艶のある長い金髪に透き通った碧眼、白い陶器みたいな肌をだぼったい神官の服が包んでいる。現実とは思えないほどの美人。

 皆が彼女に目を奪われてたが、彼女の両脇には黒髪黒目の少年が二人居た。両方とも熱心に手を合わせて拝んでいる。


 いつの間に、さっきまで神官らしき姿はなかった筈。


 傭兵が疑問に思う時間もなく、女性の傍らにいた、片方の男の子が傭兵と女性を遮るように前に立つと


「世界が平和でありますように」


 と握りこぶしで傭兵を殴り飛ばした。


「へぎゃあああああああ!!!」


 吹っ飛ばされて、顔が地面を抉りながらも勢いが止まらない。


「魔力による肉体強化か!」

 仲間の傭兵が少年へと襲い掛かる。

 体には、彼らの負の意思で強化された魔力をまとわせている。



「なんで分かってくれないのですか・・・」

 少年は目をつぶって手を合わせると、恐ろしく速いストレートを相手の腹部へとねじ込んだ。


 これは純然な魔力の違い。

 彼らの負と少年の正、作用する感情の違いである。

 それにしても、この差は普通じゃない。



「バ、バカな・・・・俺たちは-30だぞ」

 この数値は負の感情の大きさを数字という概念で表したもの。

 正の感情になるとマイナスではなくプラスになる。


 最高値は99だが、その数値をたたき出した者は誰もいない。



「僕たちは分かり合えるのに!!」


 傭兵の顔や腹部、あらゆるところに拳を突き立てる少年。


 最早、彼らは抵抗できない。



「僕は改心するまで皆さんを殴ります」


「や、やめ・・・んぎゃあああああ!!」


 鉄球のように重い拳が彼らに降りかかる。

 謝ろうとしても、声帯が悲鳴を優先させて言葉にならない。


 民衆もあまりのえげつなさに息をのむ。


(これって・・・一方的な暴力じゃ・・・)



 すると、最初に止めに入った女性が慌てて少年の腕をつかむ。


「コード!!何をやっているんですか!!!」


「アリア様、邪魔しないでください。僕は神の思し召しで・・・」


「こんなのは違います!!早く彼らを解放しなさい!!」


 少年が力を緩めると、脱兎のように走り去る傭兵たち。コードと呼ばれた少年は手を合わせて祈る。


「女神よ、彼らに聖なる裁きを・・・・」

「貴方が裁かれるべきです!!」



 助けられた子供は唖然として見ていた。



 コード・クラックス(12歳)

 代々、神官を生業とする名門一族に生まれたホープ。かなり高い知能で学校では神童と呼ばれていた。


 そして、もう片方の何もしないで拝んでいた少年はマガミ(12歳)、変な方言を使い発祥地が定かでない知識を時たま披露する。


 彼らと一緒にいた金髪美人はアリア・フレーンクス、王都ブランガナの神官を束ねる実力者。


 

 コードとマガミは二人とも神官見習いで正式な神官ではない。


「あの餓鬼、礼すら言わなかったな・・・」


 アリアと別れた道すがら、コードはマガミに言った。

 先ほどの丁寧な言葉づかいではない。


「なに自分、お礼言ってもらいたかったん?」


「マガミ!その方言やめろ」


「仕方ないやん。ワイ、転生者やで」


「転生者ってなんだよ・・・おかしなことばかり言いやがって」


 コードはイライラしながら、マガミはヘラヘラしながら歩いていた。



「あのジャリも余裕がなかっただけやって」


「ジャリ・・・・ああ、餓鬼の事か」


「器量が狭い人間やな」


「うるせえ!!俺は餓鬼のため口と女の挨拶無視の回数はキッチリ数えてる」


「怖いなぁ・・・」



 これが二人の素顔。でも神官を目指しているのだから、世間というのは末恐ろしい。

 二人は幼馴染で一番の親友である。


 コードは神官になるのを宿命づけられているが、自分よりも無能かもしれない女(女神)に仕えるのは反吐が出ると言っており、マガミに至っては一般家庭。


 神官見習いは眼中になかった筈だった。

 二人が教会に寄せられた寄付金を見るまでは。


「なあ、マガミ。宗教関係の寄付金って税金がかからないらしいぜ」

「それってマ?」

 

 それ以来、真面目に神官見習いを続けた。

 例年だと、十数人の神官見習が居て、最終試験で数人を選抜して神官候補となり、数年の現場経験を経て正式な神官となるが今年は例外で、何故かコードとマガミしか見習いが残ってなかった。


 謎の高熱

 謎の腹痛

 漠然とした将来の不安感

 etr



 これらを理由に見習いが次々と辞めていった。なので特例として、今回に限って選抜試験をナシにして二人を神官候補に据える方針となった。


 数日後に魔力作用の感情を測定する儀式を行う。

 だが、二人は浮足立っていた。


「俺たちって、ぶっちゃけ強いんじゃね?」

「それな」


 要は感情の測定を早いところやりたいのである。

 そして、優越感に浸りたい。


「数値を見たら、あのアリアも跪いて俺に媚びると思うぜ」


「ワイはあんな年増なぞ興味ないで、男と生まれたからにはハーレムやろ!」


「じゃあ、確かめに行くか?」


「せやな」


 感情測定具は教会の奥で厳重にしまわれている。鍵の場所も把握していているので、盗んで忍び込む。


 暗い部屋の中には、布をかぶせられた物体だけがあった。大きさは二人の背丈と同じくらいでとびきりでかいわけでもない。

「こんなモンか」


 コードが布を剥ぐと、中から全面が光沢のある黒の立方体・・・・の石みたいな物体が表れる。


「確かコレに手をかざすんじゃなかったかな」

「適当やな」


「ま、正式な手順は本番でやればいい。一先ずは数値を知りたいだけだからな」

「誤差はナシってわけやな」


 そして、マガミが我先にと手を翳し魔力を込める。


 一瞬、石が光ったような気がしたコードは話しかける。


「今の見たか」


 マガミは反応しない。

「どうした?」

 

 当の本人は焦点の定まらない目で口を何度かパクパクさせて、数十秒後に覚醒した。


「やばかったで・・・・」


「何かあったのか?気絶してたみたいだったぞ」


「いや、起きてはいたんや。ただ、何も聞こえんくなって・・・頭の中で誰かの質問だけが響いて答えるだけで、もう説明できんわ。おかしな体験だったで」


「なに訊かれたんだ?」


「阿保みたいに単純に尊敬してる人がいるか、とかで適当に答えたで」


 なんだそれとコードが呟くと、石に何かが表示されているのが見えた。


 マガミが立っている方向の面に2桁の数字がでていた。


 見ると『99』とあった。


 

「え?え?」

 マガミが慌てふためく。


「すげえじゃん!!99だってよ。人間では出たことないらしいから初めてだぜ」

 コードが大声で言うが、マガミは反応しないで数字を凝視している。


「ち、違う・・・」

 数字を指さす。


「いや、もう見たから・・・ん?んん?」


 ここでコードの目が暗闇に完全に順応してきた。

 改めて、自分が一つ見落としてる部分があると気が付いた。

 数字に小さい横線が引かれていた。


「え、-99・・・・」


 それは神官になれないどころか、投獄されて一生監視対象になるレベル。

 最悪な数字であった。


「おいおいマジかよ。お前ダメじゃん・・・」

 コードが吐き出すように言った。



「やばいで・・・ワイ、ヤバいで」


「だ、大丈夫だって!きっと正式な手順を踏んでないから起こっただけだ。本当の数字は違うはず」


 そう誤魔化したコードだったが、頭に響いた質問といった証言で正式とは言わないまでも測定の手順は間違えていないと確信していた。


 だとしたら・・・数字に間違いはない。


「あ、ああああ・・・・」

 頭を掻きむしって暴れるマガミ。


 一抹の不安からコードも同じように手を翳して、魔力を込めた。


 刹那、思考が吹っ飛び周りの音が聞こえなくなる。

 自分だけが別の世界に行ったような錯覚に陥る。


『・・・・か?』


「え?」


『・・・はいるか?』


「すいません。もう一度・・・」


『尊敬する者はいるか?』


 これ、マガミが言ってた質問だ。

 そう思い。

 頭をフル回転させる。


「尊敬する人は両親と友人です・・・」





『一番、喜びを感じる瞬間は?』


「奉仕活動をしていて、人の笑顔が見られた時です」





『・・・・責任感はあるほうかね?』


「ハイ!自分で認めるのも恥ずかしいのですが、責任感はかなり強いほうです」




『質問は以上だ』



 その言葉を最後に聴覚がだんだんと鮮明になってくる。

 戻ってきた、そう感じた。


 マガミも少し落ち着いたのか黙って、俺の数字を見る。









  『-9999』




「カンストやないか!!!」








 


 

  

 

 





どうでしたか?


頑張って書いていきますので、読んでいただけたら幸いです。

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