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30倍の勇者様!  作者: 黒羽烏
一章:サタン襲来
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9話『時は巻き戻る』

 「えっと……リゼ? これはいったい……?」

 竜人も突然の出来事に戸惑いが隠せない。さっきまで真夜中の宿の食堂にいたんだぞ? そもそも外真っ暗だったぞ? それなのになんで今……真昼間みたいに明るいの? むしろまぶしすぎるぐらいなんですけど??

 「ほんとにごめんね、竜人……はじめから、ちゃんと話すから聞いててね……?」

 どこか違和感のある物言いのリゼルに戸惑いつつ、竜人は無言でうなずいた。


 「まず、最初が夜の宿の一件。竜人が最初に能力を発揮したときね」

 そこまでリゼルが言ったところで竜人が口を挟んだ。

「能力ってなんだ…? とりあえずそこから……」

「あっ!! ごめん、そういえばこっちの竜人にはまだ説明してないんだったっけ……?」

 驚きの表情をしながらリゼルは話した。


 能力とは、すべての生き物に備わっている少し特殊な能力のこと。正式名称は特異能力という。

 この能力、使い方によっては生活が楽になるだけなどのちょっとした能力だけではなく、能力を駆使して生計を立てたりはたまた戦ったり。そうなってくるともちろんのこと『悪』に使用する者も出てくるもので、その一例がサタンだ。彼はごくまれに現れる二つの能力を持つもので、それは『コピー』と『破壊』だ。

 ちなみに基本的に一つの命に対して持てる能力の数は一つだけだ。


 「なるほど……で、その能力はオレやリゼにもあったり……?」

「うん。私は時間を過去にちょっと戻せる能力なの。竜人は二つあって、サタンと同じ『コピー』って能力と『30倍の力』だよ」

「へぇ、なるほどね……時間を戻せるか……」

 呟く竜人には思い当たる節がある。

「もしかして、さっき宿の前で突っ立ってたのって、リゼの能力で……?」

「お、さすがだね。そうだよ、私の能力で未来から戻ってきた。その時に竜人と一緒に戻ってきたの。そしたらまさかの竜人の力のおかげで60日ぐらい戻されちゃったの。ただ、最後の竜人は精神状態が酷かったから記憶はかなりあいまいかもね……」

 そういう彼女は苦しそうな、悔しそうな表情を浮かべている。

 なるほど、だからオレは急に昼間の街に立っていたのか。それならわからなくもない。

「でも、今っていつなんだ? リゼは60日後の世界から来たなら今日がいつなのかわからないんじゃないのか……?」

「いや、それは大丈夫だよ。小さいことから時々使ってたから何となく今がいつなのかは理解できるの。今日は私たちが時間を飛ぶ60日前、竜人がこの街で武器をもらった次の日だよ」



 その後も、リゼルの話を竜人は熱心に聞き入った。

 どうやらあの晩の……竜人が叫ぶと同時にガラスというガラスが割れた事件は彼の能力によるもので、気づかぬ間にオオカミの威嚇を『コピー』していた彼が無意識にそれを発動したためだそうだ。

 しかしそのおかげでリゼルはローブの男に殺されることはなかったものの、その事件のせいで二人は街を追い出され、森に入ってひたすら戦う訓練をしていたがその森の中でサタンの軍勢の一角と遭遇。それまでの間に数人の仲間はいたのだが、それでも数の差にはかなわない。

 結果として二人と仲間たちは必死に逃げた。しかしその後も軍勢に追われ続け今日この日の60日後、ついに彼らはサタンじきじきに追い詰められ、最後の一矢を報いることなくその決して長くはない人生に幕を閉じようとしていたところで……

 最後の力で竜人の手を握ったリゼルは全力全開で時間を遡ったところ、竜人の力もあって60日も前に飛ばされてしまったようだ。


 「ちなみに、虫のいい話に身体の状態は戻った時間軸の状態に戻るのよ。ステータスも同じ。ただ、記憶だけは私と触れ合っていた者だけは残ってるみたい」

 なるほどね……なるほどなるほど……

「オレたちはサタン相手に惨敗したわけか……」

「ごめんね…私のせいなの……」

 特に理由なく呟いた竜人に対しリゼルは泣きそうな顔をして言った。

「いや、そんな顔はしないでくれよ。別にリゼが悪いってことはないだろうし。大体今オレたちは生きてる。ならやることは決まってるだろ? さて、じゃあ街に戻って装備を整えるか」

「あ、それに関してなんだけど。私たちはあくまでも60日後の世界から来たことになってるから、こっちの時間軸に元から生きていた私たちのいるの。だから、その私たちと鉢合わせになったら……」

「あぁ、そういうこともあるのか。わかった、気を付けよう。それよりもさ、元気出してくれよ。オレにだってリゼには謝りたいことがいっぱいある。でもなんか……切り出しにくかったからさ? お互い様ってことで許してくれたらうれしいかな……」

 少し照れながら竜人は言った。言い切った。これでとりあえず思い残していたことはなくなった。

「そ、そう……私が謝られること…何かあったかな……竜人は相変わらず優しいね……」

 蚊の羽音よりも小さく呟いたリゼルのつぶやきは誰にも聞こえることなく空の彼方に吸い込まれていった……

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