7話『サタンと竜人』
アルガオオカミの討伐クエストが終わってから数日。竜人とリゼルはクエストを少しずつこなしながら『30倍の力に頼らない戦い方』の訓練に明け暮れていた。
「どうですか、竜人くん。そろそろ慣れてきました?」
力でねじ伏せずとも敵を簡単に倒す方法。それはやはり急所を突くことなのだが、これがどうも難しい。
「俊敏に動く相手の後ろを一瞬で取るってのは……やっぱり難しいものなんだな」
「そうですね。まぁそう簡単に出来ることではありません。そう焦ることはないですよ?」
今日も今日とてオオカミの討伐クエストをこなしながら竜人はぼやく。
「まぁ、練習ってことだし仕方ないけど……やっぱり多少慣れてきても難しいものだな」
相手の攻撃を全部躱してから完全に背後に回って首元に練習用に購入したダガーを一刺し。するとたちまちオオカミは絶命してしまう。理屈としては簡単なことだが……なれるまでは厄介だ。そもそも相手の攻撃を全部躱すのにはかなりの集中力と動体視力、そして体力と瞬発力が必要になってくる。
「初めのうちは大変なのはわかりますよ。私もそうでしたし。でも、慣れれば結構簡単ですから」
そういってリゼルは手ごろな小枝をおもむろに拾うと、目の前にいたオオカミに近づき……気が付けばそのオオカミの背後に。と思った次の瞬間にはまたもとの位置に。しかし、よく見るとその手に枝はなく、オオカミの首筋……急所に的確に刺さっていた。
「…ま、マジか……」
「ちゃんと見ましたか? これが力に頼らない戦い方…ですよ?」
少し不安そうにしながらもドヤ顔で決めてきたリゼル。その顔には少しの自信が見えた。「そ、そんなに見つめられても困りますよ? これだけは私、昔から得意なんです」
少し困ったように照れ笑いながらオオカミの毛皮を丁寧に剥ぎ取る。
「これぐらいなら練習すれば誰だって……多分きっとできますよ! ほら、竜人くんも頑張って!」
胸の前で両手を軽く握って応援する彼女。そんな風に見つめられたらやるしか頑張るしかないか……?
一人悶々とする竜人であった……
「でも、最近またオオカミが増えてきたな……クエストの討伐目的数も増えてきてるし……何かあったのかね。季節とかは関係あったり…?」
ある程度オオカミをさばいたところで竜人が言った。以前のクエストの討伐数だった、30匹をすでに優に超えているが、いまだ今回の目標数の半分にも達していない。
「んー…多少季節の関係もあるかもしれませんけど、いよいよサタンが動き出したりしたのかもしれませんね」
「なるほど……ん? そういえばまだ聞いてなかったな。サタンのこと、ちゃんと聞いてなかったな」
「あれ? そうでしたっけ?」
リゼルは小首を傾げて不思議そうな顔をしながらポツリポツリと話し始めた。
その昔。この国の首都、アルカポネの空には漆黒の穴がぽっかりと開いた。そして瞬く間にそこからサタン率いる悪魔の軍団がありとあらゆる都市を支配した。その間に幾度となく英雄を名乗る騎士がサタンに立ち向かった。
しかし、サタンを倒すことはおろかサタンの元へたどり着けるものは一人としていなかった。
そうして長い時間が過ぎたある時、一人の勇者が立ち上がった。彼の名は『ハイル・アルカポネ』。しかし、立ち上がったとは言え彼もまたただの人間。そこで彼はこの地に眠りしドラゴンと契約を交わし、先500年のこの国の安寧と交換に彼の子孫の魂を永久にドラゴンの魂を結びつけることを誓った。
ドラゴンの力は絶大なもので、いくらサタンとは言えすべての力をつかさどるドラゴンにかなうものなどそうそういない。かくして、アルカポネの平和は戻ってき、それから400年と359日、約束通り平和な日々が続いた。
「なるほどね……ってことは後数日でドラゴンとの約束の時間が終わる……と?」
「えぇ。そのあたりに詳しい者の話だとそういうことになりますね」
「そんなのいったいどうすればいいんだよ。いくら何でも数日でサタンと戦えってそんな無茶な」
「まぁまぁ、そう焦らずに。ドラゴンとの約束の日まではあと数日ですが、サタンがいる世界からこちらの世界に来るまでは少なくとも7日かかると言われています。ってことはですね、最速でサタンと接敵するまではおおよそ12日! ん? 13日かな……まぁ、そのぐらいの時間が残ってるってことですよ!」
オオカミ相手に必死に後ろを取ろうとしていた竜人はそこで不意に力任せにオオカミの頭を叩き潰した。
「そんなの…無理に決まってるだろ……オレ別にそんな強くないし。30倍って言ってもたかだか30倍。サタンを前にしたら大したことないんだろう? じゃあたった一週間でとか無理だろ……ごめんな、せっかくいろいろしてくれたのに力になれなくて」
無感情にそういい放つと、竜人はリゼルにも目もくれず一人街へと帰っていった。
それと同時に、リゼルの左腕に巻き付けてある端末からクエスト完了の合図が彼女の悲しみを気にも留めずにに鳴り響いた―――