6話『オオカミを倒せ!』
「竜人くん、お稽古の成果はその程度なのですか!?」
「ち、違う…!! 断じて違う! オレが本気出せばこいつらぐらい……っ!!」
ここはシュグの街北部にある森の中、アルガオオカミの住処だ。二人は先ほど受注したオオカミの討伐クエストのためここまで来たのだが……
「まだ3匹ですよ? それもかなり苦戦した上踏みつぶしちゃって……いくら30倍の力があると言えど、これじゃあアイテムがドロップしません。そんなのじゃだめですよ?」
そう。この世界は厳しいもので、俗に言うオーバーキルをするとアイテムがドロップしない場合がある。まぁドロップといっても、実際のところは自分たちで剥ぎ取っているだけなのだが。そのため適度にダメージを与えつつターゲットの肉体がバラバラにならない程度の力で攻撃する必要がある。
これが討伐系クエストの一番難しいところかもしれない。
「なんだかなぁ……武器屋でやってた時はここまでぶっ飛んだ力出なかったのになぁ……」
「うーん、なぜでしょうねぇ……本気でやってたのですか?」
「当たり前だろ!?」
必死にオオカミと攻防戦を繰り広げる中、リゼルはのんびりした調子で続ける。
「それか、もしかしたら店主さんが傷つくのが怖かったとか……? そらならもしかしたら無意識のうちに力の加減ができてるのかもしれないですね?」
あぁ、それなら心当たりがあるかもしれない。まだ元の世界にいたころ、オレは銃火器を使う対人系FPSゲームに熱中していた。最初のうちは敵をバッタバッタと撃ち倒していき、並みの強さがあった。ここまではよかったのだ。
だが、ある時を境にオレはゲーム内であったとしても人を撃つことができなくなった。とある動画配信サイトである一つの動画を見てしまったからだ。
それは、戦時中やそれに関する映画などのシーンをつなぎ合わせ、命にテーマにした儚い歌とともに一本の動画にしたもので、当時のオレにとっては人の死などゲームとテレビでしか見かけないものだった。
しかし、それ以降命の重みをより感じ、ゲームの中であろうとそういった行為ができなくなってしまった。ついこの間までは。
所詮ゲーム。ゲーム内で何人ひとが死んだところで実際の世界には何一つとして影響はない。それでも、少なくともゲーム内ではその人が生きていることに変わりはないから。一つの尊い命として見ても悪くないだろう? まぁ、最近はそんなことあんまり気にしなくなっちゃったけど……。
「なるほど……ちょくちょく知らない単語が出てきましたが、大体何となくぼんやりとわかりました。でも、竜人くん?」
なおもオオカミと応戦する竜人はチラリとリゼルの方を見て先を促した。
「そんな経験があって、人を殺めるのが怖いのは分かりましたけど、なんでオオカミにはそれほどまでに容赦ないのですか?」
「それはオレが一番知りたよ!! というか、武器屋でおっさんとやってた時は制御してたというか、あのおっさんに制御されてた気がするんだよなぁ……」
「あの方に制御……ですか? そんなことって可能なんでしょうかね……」
「それはオレにはわからんけども……なんかでも、おっさんと刃交えてわかったけどただものじゃないとは思うぞ、あの人―――」
それから数時間後、クエスト自体は無事終了した。竜人はいくらかレベルが上がり、各ステータスもおおよそ2倍に上がった。もちろん、元が大したことないので大した上がり方ではないが。
「えー、それでは。今回の合計報酬を発表したいと思います」
宿に帰った二人は、今回のクエストの報酬を早速確認した。ちなみに、リゼルはすでにギルド管理センターで結果を確認している。
「討伐したオオカミ数は30匹ちょうど、その分の銀貨が30枚。これはクエストの達成条件と同じですね。数はこの『超便利デバイス』が正確に計測しているので間違いありません」
そういって彼女は左手に着いているデバイスをぺちぺちと叩いた。
ほう、そんな便利な機能もあったのか。
「あ、そういえば知ってました? これ、正式名称が『超便利デバイス』って名前なんですよ? 決して愛称とか相違類の呼び方じゃないんですからね?」
なおもぺちぺちと左手の『超便利デバイス』をたたきながらリゼルは言った。……これの開発者のネーミングセンスを疑う名前だな、まったく。
「えーっと……クエスト完了分の報酬以外で何か報酬って出たの……?」
「一応出ました。まぁ、お金にはならなかったんですけどねぇ……オオカミの牙が数本。これは一つあたり銀貨一枚程度でネックレスとかその他アクセサリーに加工できます。この街の雑貨屋さんにも多少置いてあったので需要はあるのでしょう。加工してから問屋にでも持っていけば銀貨2枚ぐらいにはなるかと……?」
なるほど。作りこまれたゲームとかだとよくあるシステムだ。
「あとは、毛皮が全部で三匹分ぐらいですかね。ただ、一枚一枚は大したサイズじゃないので活用方法は後々考える必要がありそうです。ちなみにですが、丸々一匹の毛皮は大体6銀貨ぐらいで取引されています」
ほへぇ……リンゴ60個分ぐらいか……
そんな竜人の考えを妨げるようにしてリゼルは続ける。
「ただ、見ていてとっても不安でしかなかったです。ドロップアイテムを見ても、竜人くんはまだ戦いに慣れていないのがよくわかりますよ。まぁ、仕方ないことではあるんですけどね。向こうの世界ではこんなことはしなかったのでしょう?」
真剣な眼差しを向けるリゼルに竜人はただコクコクと首を縦に振った。
「これからは、30倍の力に頼りすぎないように一緒に頑張りましょうね? サタンなんてそんなのじゃ通用しないのですから」
にっこりとほほ笑んで訴えかけるリゼルに、竜人はただ頷くことしかできなかった――。