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30倍の勇者様!  作者: 黒羽烏
一章:サタン襲来
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4話『武器屋と異世界の料理』

 「なるほど、竜人くんは刃渡りの短い片刃の剣を使うのですね」

「あぁ…多分これで大丈夫」

 反り返ってこそいるものの、刃渡りの短い日本刀。これほとんど忍者刀だよな。こういうのってやっぱりこっちの世界にもあるものなんだなぁ……なんて竜人が関心しているとこの武器屋の店主が店の奥からひょっこりと顔を出した。

 「兄ちゃん、これかい」

 竜人は一応忍者のようなすばしっこい立ち回りの職に就く予定なので、クナイのような細く短い両刃の、こちらで言うダガーのような武器を探してきてもらっていたのだ。

 だが、店主が持つものはどこからどう見ても

「そのまんまクナイかよ……」

 幼いころから忍者が好きで、いろんな本を読み漁っていた頃。よくクナイを模した段ボールの切れ端で遊んだ記憶が頭の中をふと過る。

 「おっさん。それ、10本ぐらいあるか…?」

「おっさんって……一応ここには8本あるが」

「全部買う! 何銀貨で買える?」

 必死の形相で訴える竜人に対し、反応に困った店主がぼそりと言った。

「これ、処分に困ってたんだよなぁ……」

「なにっ!!?」

 どうやらこの武器、以前この店に来た客が特注で作ってくれと頼んでいったのだが、その後多額の金貨とともに、「いずれ必要とする者が現れた時に譲ってやれ」と書かれた手紙が届いたのだそうだ。

 「じゃあ……?」

「あぁ、これは全部おまえさんにやるよ。大事にするんだぞ? これはそこいらの刃物とは全く違うんだから」

「ん? おう。他と違うってどういう?」

「あぁ、これな、柄の部分から魔素を流せるようになってんだよ」

「え、それができると……」

 何となく想像は付く。二次元でよくあるやつだ。生唾を飲み込んでいった竜人に店主は重くうなずいた。

 「あぁ、ちょっと意識してこいつを相手にぶつけるだけで、相手に対していろんな影響を与えることができる」


 よくアニメなどである『燃える刀』とか、『凍てつく刀』の類で、生きている全ての生物の体内に流れる魔素をコントロールしてこの武器に触れている部分に流すことによって、ありとあらゆる効果が出る。

 これは、まだ魔術を使う感覚を経験したことのない竜人にはそう簡単にできることではない。


 「まぁ、兄ちゃんが魔素の適性があるかどうかはオレにはわからんが、そいつは兄ちゃんのもんだ。好きに使うがいいさ。あ、手入れの方法だけ教えてやろう」

 少し理解が追い付いていないリゼをおいて話はトントン拍子に進んでいった。

「えっと、それじゃあ……私はほかのお店を回ってきますね?」

 それだけ言い残してリゼルは武器屋を出た。





 1時間後、リゼルは予定通り武器屋に戻ってきた。のだが、

「あら、お嬢ちゃんが戻ってきたよ。少年」

「えーっと……」

 『ボンキュッボン』って効果音が違和感なく当てはまるスタイル抜群な女性が店のカウンターに立っていた。

 「あぁ、私はここの店主の嫁さ。あの子なら裏庭でうちの旦那に稽古つけてもらってるよ。新人の旅人が来ると毎回稽古つける彼には結構手を焼いててね」

と苦笑いしながら裏庭への行き方を教えてくれた。

「あ、それなら竜人くんに悪いので3時間後に宿に帰ってきてと伝えておいてください。私はまた別のお店を見てくるので」

「あら、そうかい。気を付けてね」

 それだけ言い残して店を出た。


 ちょうどお昼時とあって人通りが絶えない大通りにリゼルは出てきた。

 「さて、どうしますかな……」

 街を行きかう人々の中には親子や竜人とリゼルのような組み合わせの冒険者なども見られた。貴族風の男も歩いている。

 そんな街にリゼルは再び入っていった……





 それから再び時間は過ぎ、すっかり夕飯時。約束の時間まであとわずかだ。

 竜人はちゃんと、部屋ではなく食堂に来てくれるかどうか心配しつつリゼルは彼の姿を探した。

 「リゼ、遅くなってすまん!」

「あ、竜人くんおかえりなさい。しっかり教えてもらえました?」

「うん。まぁ、多少は動けるようになった……かな…?」

「そっか。それはよかったです」

 苦笑いして答える竜人にリゼルは微笑んで応えた。

「あ、とりあえずごはん食べましょ! 私お腹減っちゃっいました」

「あぁ、そうだな。そういえば朝から何にも食ってないな……」


 この宿は少し特殊で、飲み物はありとあらゆる種類が取り揃えられているのだがメニューはその日のコックの気まぐれですべて決まる。だが味は一流でそのことについては誰も文句を言わないのだとか。


~本日のメニュー~

オーク肉のパイ

ゴブリンの指巻き~煎じた爪を添えて~

オーガの腸詰

……など。


 言葉で表現するだけでもおぞましい名前の料理だが……

「これ、本当に大丈夫なのか? 俺めちゃくちゃ不安なんだが……」

「大丈夫……だと思……ますよ?」

「こっちの世界じゃこういうメニューはよくあるのか……?」

 竜人は少し震えた声音で聞いた。

 だが、リゼルは青ざめた顔を横に振るだけだった。

 それでも周りの人間は美味そうに食べてるからなぁ……お腹も減ったし。

 「あ、そういえば武器屋のおっさんが『運動後のオークの肉は格別だ』って言ってたっけ…? うーん……」

 葛藤の末、竜人は食べてみることにした。ほんの少しだけこちらの世界の食べ物が気になっていたのも大きいのかも知れない。

 この世界には箸などの概念が存在しないので、恐る恐る人差し指と親指でオークの肉を摘み上げる。気のせいだろうか…わずかながらに香ばしい匂いがしている。

 そして思い切って一口…………二口、三口。

「…これ、美味い」


 今までいろいろなものを食べてきたが、ここまでも自然に『おいしい』と言えたのは初めての経験だったかもしれない。

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