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30倍の勇者様!  作者: 黒羽烏
一章:サタン襲来
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3話『最初の街』

 一番最初の野営地を出発してからどのくらい歩いただろうか……


 「なぁ、リゼ……あれからどのぐらい進んだんだ…?」

「まだ10分の1も進んでませんよ? しっかりしてくださいよ……」

 普段から人並には歩いていた竜人だったが、一切人の手が加わっていない獣道と、平坦に整えられた街中の道路とはわけが違った。それは30倍の力をもってしてでも無理みたいだ。

 「なんでこんなに……歩きずらいんだよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 彼の嘆きは、何度でも森にこだまする………





 「さぁ、竜人くん! あそこに灰色の建物の群れが見えるでしょう!!」

 最初の野営地を出発してから丸2日。予定よりかなり時間は経ってしまったものの特に大きな事件もなく無事に街に着くことができた。

 「ここはシュガルツ家が治めるシュガルツ領の中心街、シュグの街。ここはきれいな刺繍の洋服がたくさん作られてるみたいですね」

 言われてみれば、街のはずれにある綿花畑で女性がせわしなく動いでいる。

 「ん? でもさ、オレたちって今一文無しじゃないの…? こんな街に来ちゃって、大丈夫?」

「何言ってるのですか、私たちにはこれがあるじゃないですか!」

 そういってリゼルは左手のデバイスを操作し始めた。

「インベントリの画面の右上に数字が書いてありますでしょ?」

あぁ、言われてみれば数字が書いてる。昨日から気にはなっていたがもしかしてこれが?

 「そう。それが自分が所持しているお金。ちなみにそれは銀貨換算での金額なのです」

「じゃあオレは今70銀貨持ってるってことか」

「ほほう、70銀貨ですか。お金持ちですねぇ。竜人くんはさすが、神様に見込まれただけありますねぇ」

 まるで猫のように目を細めて竜人の目を見るリゼル。

 「落ち着け落ち着け。これっていったいどれぐらいなんだ?」

「えっとね、一般的な討伐系のギルドクエスト報酬が70銀貨にプラスアルファで討伐した生き物から取れた副産物って感じだったはずです。だからクエスト一回分ぐらいってことですねぇー」

「ふむ…それじゃわかりずらいな……もっとわかりやすいのはないのか?」

「じゃあ、パン一斤が大体8銅貨とかどうでしょう? あ、10銅貨で1銀貨、100銀貨で1金貨って計算です」

 なるほど、じゃあ今は結構な額持ってることになるわけだ。

 「まぁとりあえず、お金のことは今度ゆっくり教えますから街に入りましょ! ね!?」

 両足でその場で足踏みをして言う。

 そんな彼女に引っ張られていくようにして、竜人は街の門をくぐった。


 シュグに、到着――。






 「はぁ、どれもよかったなぁ」

 この街に着いてから、この宿に落ち着くまでずっと歩きっぱなしなので街に到着した喜びからここまでの移動の疲れがある程度飛んでいたとしても、かなり疲れた。

 定期的に開催されているらしい市場で食べ歩きながら、路地を入ったところにある少しあやしい武器屋や防具屋、また見たこともないような奇妙な文字で綴られた本がたくさん並ぶ本屋など、様々な店があった。

 「それはそうと、本当に同室でよかったのか? オレも一様は男なんだぞ?」

「大丈夫です! 私別に、男の人に狙われるような体してないので!!」

 あははと笑い飛ばして言うリゼ……十分すぎるほどスタイルいいと思うんですがねぇ……

 「それに、そんなこと関係なく私は竜人くんのこと信じてますから! 大事な相棒なんだですから!! それじゃ、明日も早いから。おやすみなさい!」

 それだけ口早に言い残すと彼女は宿の一階の食堂を飛び出し、二人が泊まることとなった部屋に駆け戻った。

「全く、元気なやつめ……」

 苦笑いしてリゼルを見送る竜人の瞳には、どこか寂し気な色が映っていた……






 朝はこれ以上にない快晴だった。今はちょうど過ごしやすい快適な季節ということもあってとても居心地がいい日だ。

 「ところで竜人くんはどの職にするか決めたのです?」

「いや、まだ決まってはないよ。候補はいくつかあるけどねぇ……」

 この世界では不思議なことに、冒険者の中にもいくつもの職種がある。簡単に言えばそれはパーティーの中のポジションのようなものなのだ。例えば回復系の魔術を使う職や、防御力のある盾を使いながら前線を上げていくような職、素早さとトリッキーな技で敵陣に一番に攻め込んでかく乱させる職、またファンタジーの世界で聞くような魔法で巧みに戦う職など、さまざまある。

 「オレは攻撃速度重視でかつ多少魔法も使いながら戦いたいかなぁ」

「ふむふむ……じゃあニンジャあたりになるので?」

「うん。一応はその予定」


 ちなみにリゼルはエルフがよく選ぶらしい精霊術士だ。

 精霊術士は精霊との契約を結んだ者が晴れて慣れるのだが、生まれた時から森で過ごす森の種族エルフは森に生息する精霊とは特にかかわりが深いそうだ。そのため、精霊術士になるエルフは多いのだとか……


 「それなら、竜人くんは長時間の負担に弱いからちゃんとそれに見合った武器と防具探さないとですね。そうじゃないと歩けなくなってサタンにやられちゃいますよ?」

「あぁ、そうなんだよ。30倍の力、いったいどこ行ったんだよ」

 困ったように笑いながら言ったリゼルにつられて竜人も笑った。


 あれ、こっちの世界に来て確実によく笑うようになったよな……そんな竜人の思いを乗せて、今日も街の喧騒に包まれた笑い声が美しい青い空にこだまする―――

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