26話『闇の魔女が死んだ』
「誰だお前は」
サタンの根城の塔を上りきり、その先にあった扉の先には光に包まれた部屋と見覚えのある顔の女性がいた。
「私の名前はサハラ。お前たちが醜い姿に変えたサハタお姉さまの妹よ」
そういうと彼女は身体の周りに7つの黒い球体のものを出現させて言葉を続けた。
「その借り、ここでしっかり返させていただくわ」
それだけ言い切ると、その球体を竜人達に撃ち込んだ。
しかし、リゼルがギリギリのところで空気を圧縮させた壁を作り上げそれを防いだ。
「闇の魔術ね…厄介だわ」
リゼルが呟いた。
「へぇ? 貴女、なかなかやるじゃない。でも次はこうはいかないわよ?」
サハラと名乗った女は顔をニヤリと歪めながら言った。相当キてるようだ。
「これは面倒くさいことになったな……竜人くんと私で攻撃、リゼルさんは様子を見て私たちに加勢してください。サダキチさんはその援護を!」
シュタインはそういうと、腰に差していた魔剣を鋭い金属音とともに引き抜いた。
その剣は文字通り柄の部分から剣先まで全体が七色に輝いていた。
「さぁ、どこから削ぎ落して欲しいですか、サハラ嬢」
一気に踏み込んだシュタインは、サハラの魔術によって作り出された黒い球体を華麗に避けながらその距離をどんどん詰めていった。
「ちっ…こざかしい!」
しかし、それが当たらないと判断したサハラはその攻撃をやめ、真っ黒なロングソードを作り出した。
刹那、シュタインの魔剣とサハラのロングソードが激しい音を立ててぶつかり合った。
両者の剣の技術は若干シュタインが上回った。しかし、サハラはそれを補うかのように時折先ほどの球体を射出しシュタインとの距離を適度に取る
残された三人は、流れ弾を受け流しながらただ眺めることしかできなかった。
だが、そこで我に返った竜人は決意を固めサハラ目掛けて飛び出し、大きく跳びあがった彼は絶妙なタイミングで彼女の首元狙って大きく振りかざした。
しかし、それを見切っていたサハラは竜人を一刀両断。その瞬間さすがのシュタインも息を呑み、リゼルが短い悲鳴を発した。
だが、真っ二つにされたはずの竜人の身体はグニャリと歪んで宙に消えた。
サハラの首が飛んだのはその瞬間だった。
真っ二つにされ、虚空に消えたように見えた竜人だったが、それ自体はただの影分身であり、実際の彼は存在を極限まで薄くしサハラを挟んで影分身とは真逆の方向に走り込んでいた。そしてタイミングを見計らい、影分身がサハラに切り込んだ瞬間自分も跳びあがって刀を頭上高くに振りかざし、彼女の首を一刀両断した。
その光景に、呆気に取られているシュタインの隣に竜人は着地し、血振りをするとそのまま鞘に刀を納めた。
「うん。なかなか使えるな…これ」
「…え、ええと……さすがだね、竜人くん」
その一瞬の出来事に、さすがのシュタインも理解が追い付かないのはおかしくはないだろう。
先ほどまで自分の背後で固まっていたその男が、次の瞬間自分の隣で真っ二つになり、さすがに死んだと思ったら自分と戦っていた相手がその男に首を斬り落とされていたのだ。
…と、
「竜人っ!!」
耐えかねたリゼルが走り出して、竜人に抱きついた。
「っうお!? リゼ、どうした!?」
あまりの勢いに、竜人はリゼルを抱きかかえたまま尻もちをついた。
「竜人が生きてる……竜人が…っ! 生きてるっ!! よかった……」
そのまま彼女は竜人の腕の中で泣き始めた。
しかしその顔は安堵の笑顔で満ちていた。
そんなリゼルを見つめながら竜人は思う。……撫でたい……。
「こういうときぐらい、いいんじゃないかな? 竜人くん」
そんな思いと心の中で奮闘していた竜人を見かねたシュタインは苦笑いを浮かべながらそう言った。
なんだ、こいつも心の中読める側のやつかよ。
少し呆れかえった表情を見せた竜人は、リゼルの腰にまわしていた右手をほどき、そのまま頭を数回優しくなでた。
気のせいか、彼の手がリゼルの頭に触れた瞬間ピクリと彼女の身体が反応した気がした。
そして竜人は、あくまでも重力に。決してリゼルの「体重」ではなく「重力」に身を任せて背中を床につけた。
依然、左手はリゼルの腰を右手は頭を抱いている。