25話『光の部屋』
真っ暗なサタンの根城の一階の端。ここには上階へ上がるための螺旋階段がある塔が建っている。
そこに一つ、人が通るには十分なサイズの穴が開き、竜人達が入ってきた。
全員が塔の中に入るなりその穴は閉じ、しばしの間穴から差し込んだ光によって照らされていた塔の内部が再び暗闇へ帰ろうとしていた時、リゼルが聞きなれない言葉をつぶやくと同時に淡い光が彼女たちの周りに漂い始めた。
それからしばらくしてその光はだんだんはっきりとした光に代わっていった。
「で、サタンの城に無事忍び込んだわけだが……ここから先はどうすればいいんだ、シュタイン。何か案はあったりするのか?」
竜人は敵のアジトに潜入した高揚からか、必要以上に声を潜めて聞いた。しかし、
「ここからは僕にも未知の世界だから。その場の状況に合わせて動くしかないね。そして今は、この階段を上るのが正しいと見た」
頭上高くまで続く螺旋階段を見上げてシュタインは言った。
「誰か異議のあるものは?」
もちろん、異議のあるものはいなかった。
一方そのころ、竜人達がいる城の周りの森の中ではマリアとティガルが激しい闘争を繰り広げていた。
「おい、おっさん! 今わらわの魔物盗っただろ!!」
「何を言っているのかな、こういう物は早い者勝ちなのですよ」
「ぐぬぬ……」
倒した敵兵の数を競う戦いが……。
「ところでおっさん。りゅうとの計画は聞いてるか?」
「サタン討伐のですか? 私は聞いていませんが」
「そうか……やつはいったい何をする気なのじゃ……」
「さて。しかし、彼がこの世界の救世主となりうると判断されて召喚されたのですから、どうにか倒してくれるとは思いますがね」
「うむ……わらわとて信じていないわけではない。ただ、不安なのじゃ。元居た場所では別に戦っていたわけではないのじゃろう? それなのになぜゆえこんな世界に…? しかもやつは今まで誰も倒すことができなかったサタンの討伐が目的で召喚されたのじゃよ?」
マリアは悲しみとも怒りとも言えぬ表情をしながら言った。敵兵をなぎ倒しながら。
「そうですね。私にもそれは理解できません。しかし、意味のないことなどないのがこの世の理。彼がこの世界に呼ばれたのには必ず意味があるのですよ」
ティガルは諭すかのように返した。
「まぁ、そうなのだがな……」
しかし、マリアはいまだ解せぬといった物言いだった。
場面は戻って竜人達が忍び込んだ城の中。彼らはそろそろ長かった螺旋階段を上りきろうとしていた。
「シュタイン、この階段を上った先に何があると思う」
「さぁ……少なくともサタンがいることはないと思うよ。でも、これだけ上層ということはかなりの強敵がいるはずだ」
「なるほどな……」
こちらは納得の言った顔で階段を上りきった。
「さて……この大きな扉、どうしたものか」
階段を上りきった先には竜人達の身長を全部足しても優に超える高さの扉があった。しかし
「ここはワシに任せてもらおうか」
とてもじゃないがこんな大きな扉を開けられなさそうなサダキチが名乗りを挙げた。
「しかしサダキチ様、この扉はおそらく木材と鋼の塊のようなもので…とてもここにいる人員では通常通りに開けることは困難……」
「そうだぞサダキチさん。さすがにいくら何でもこれはムリだって!」
しかし、竜人が言い終わるか否かのところでサダキチは呆れたような顔で扉を押し開けた。
「こういうのはな、サイズは巨人族の者でも簡単には入れるように大きいが、扉自体には人間やホビットなどでも開けられるように軽量化の魔術がかけられているんじゃよ」
後ろ手に扉を押し開けたサダキチはそう言った。
それを見た竜人とシュタイン、そしてリゼルは呆気にとられた顔をしていた。
扉の先は相変わらず真っ暗で、一見して何もないとてつもなく広い部屋だった。否、「おそらく部屋」だった。
と、言うのも。扉がある側にはちゃんと壁があるのだが、その反対側と両側面そして天井は暗すぎるが故に確認ができないのだ。
これは、もともと夜目が利きさらに30倍の力を併せ持った竜人でしても見えなかった。
「ふむ…これはいったいどうすればいいものか」
「さすがに私の精霊術では真っ暗な部屋にしっかりとした光源を作り出すことはできないわ……」
「しかも、扉の大きさから考えてこの部屋もかなりの大きさのもの。一体、どうしたものか……」
それぞれがこの状況に思い悩んでいた時、反対側の壁から思われる場所から扉の開く音が聞こえ、何者かがこちらの部屋に入ってきた。
そして、部屋が強烈な光に包まれた。
「私の姉さまを殺したのはお前らかい?」
甲高い声だけが聞こえてくる。そして、徐々に目が部屋の明るさに慣れてきたころ、目の前にどこかで見たような顔立ちの女性が立っているのが目に入った。