24話『闇に包まれた城』
「いいかい、竜人くん。これは今までと違う。厳しいことを言うようだが一瞬でも気を抜いたら死ぬと思ってくれ」
切羽詰まったシュタインの物言いに何かとんでもないことがあったんだなと察した竜人は固唾を飲み込み頷いた。
「一部の者は知っての通り、今この瞬間をもって魔王サタンが完全復活しました。これからやつは手下を引き連れこの世界に侵入。そして崩壊をもたらすでしょう。我々はそれを阻止すべくサタンを討伐します。マリア様とティガル様の報告で、サタンの最初のこの世界への接触はここから東に馬で三時間ほどの場所。シュグの街の近郊です。予想されるのは前回襲撃のあった街はずれの森の中。竜人くんたちが拠点を置いていた辺りとされています。ここまでは以前ワープホールを繋いだものがまだ残っているのでそれを使います。とりあえず各自10分で荷物をそろえてください。15分後に出発します!」
シュタインが沢山の情報を一息で吐き出し、踵を返して自室へ走っていった。
「竜人くん、今の状況は聴いての通り。何か聞いておきたいことは?」
「……ちゃんと倒せますかね…?」
「倒せるかどうかじゃない。我々はサタンを倒すんだよ」
ウインクして言いそうな勢いでそういうと、ティガルも割り振られていた部屋へ戻っていった。
10分後、各自が自分の装備を整え、部屋から出てきた。
竜人は白鞘の魔刀とクナイ、そして蔵の端に飾られていた黒い勾玉のついたネックレス。これには闇の魔術の力を増幅させる能力がある。ちなみに、竜人がわざわざ鞘を何の装飾もされていない白鞘に変えたのは他でもないロマンだからだそうだ。よくわからん。
リゼルは短刀を右の太ももに3本、左の太ももに2本装備している。さらに、純度の高い魔鉱石で作られたレイピアのような武器を1本持っている。
ほかの面々も、それぞれ自分用の装備と、あらかじめ持っていく予定だった幾つかのアイテムを持っている。
「では、皆さんお揃いのようなので行きましょうか」
シュタインの言葉にそれぞれが頷く。そして、シュタインを先頭にワープホールに足を踏み入れていった。
刹那の間をおいて、竜人達が野営地にしていた森に出た一行はその光景に息を呑んだ。すでにサタンの手はこの森全域に及んでおり、森の中心部に位置するあたりには漆黒に包まれた城のようなものができていた。
その周りからはサタンの手下のものと思われる魔物の匂いが無数に広がる。
「これはなかなか、狩り甲斐がありそうだなおっさん」
「そのようだね。行くとするか」
「おい、おっさん。しっかり倒した数覚えておけよ!!?」
「気が向いたらね」
ティガルとマリアは言い合いながらすぐに森の中へと消えて行ってしまった。
「…では、私たちも行くとしましょうか。サタンの場所がわかりやすくて助かりますね」
ため息交じりに言ったシュタインに続いて残った面々も歩き出した。
それから数十分が経とうとしたとき、ついに漆黒に包まれた城の足元までたどり着いた。
ここまでの道のりで魔物と一切遭遇しなかったのはおそらくマリアとティガルが一掃してくれただろう。と竜人は自分に言い聞かせた。
決してサタンが自分たちを誘っているのではないと。
「さて、こうして我々は何事もなくここまでたどり着いたわけですが。なんで扉もない城の上部へ続く塔の足元にいるかわかる方はいますか?」
しかし、シュタインの問いに答えられる者はいなかった。
「……では、しっかり目に焼き付けておいてくださいね。これはなかなか見られるものではないので」
そういって彼は腰に巻き付けてあったポーチから腕の長さぐらいの紐を取り出し、一方を壁に押し当て固定した。そして、その固定した部分を軸にぐるりと円を描くと……
某猫型ロボットが使うアイテムの一つ、壁を自由に潜り抜けられるようになる輪っかを使用したときのような穴ができた。
「…くぐり抜けられます」
シュタインがその穴の横でドヤ顔で言った。
まぁ、すごいとは思うが……小さい頃は実際に存在すると思い込んで慣れ親しんできたものだから……うん…。
そんなシュタインを尻目にリゼルはその穴の中へ入っていく。
「竜人、サタンはこの上よ。この塔の階段には特に何もないみたい」
中から彼女の声が聞こえてきた……
「なんか……ドンマイ」
その報告を聞き、竜人とサダキチはシュタインの肩をポンポンと叩いてから穴の中へ入っていった。
気の毒なものだ……まったく。
さて、穴の先。すなわちサタンにって出来た城の塔の一角へ侵入した一行だが、この先に彼らに待ち受ける試練を予想できた者はまだこの中にはいなかった……。