22話『作戦会議』
「ふむふむ、竜人くんは魔剣を選んだのか」
竜人とリゼルがシュタイン宅の大きな蔵をあさった晩、例にもよって大きな部屋のど真ん中に置かれたもはや無駄としか言いようのない大きな大きなテーブルに煌びやかに飾りつけされ、とてもこんな人数では食べきれないような大量の豪華な食事が並んでいる。
この家では一流のシェフがたくさん雇われているのだそうだ。そのため普段から高級食材をふんだんに使った豪華な料理を……むむ、羨ましいやつめ。
そんな食事を、シュタインは上品に口に運びながら続ける。
「その剣は国内に現存する最高とされる三本の魔剣の一つだよ。さすが、見る目があるようだね」
頬を緩めてシュタインはからかうように竜人に言った。しかし、そんな言葉も竜人の耳には届かなかったようで……
「こ、国内に三本…!? それってめちゃくちゃ貴重なやつじゃねぇか!!」
竜人は目を白黒させて立ち上がった。
「そんなのオレがもらってもいいのか……!? だって…貴重なものなんだろ!!?」
「いいんだよ、竜人くん。今回僕が君たちを支援するのはこちらからの申し出。それに僕が『この家にあるものは何でも持って行っていい』と言ったんだよ」
それだけ言うとシュタインは手元の皿に飾り付けられている肉をナイフで上品に切り分け口元に運ぶ。
だが、どうにも納得しない竜人は助けを求めようとリゼルやティフォンに目をやるが……二人ともが静かに、上品に食事をとっていた。
うぅむ…困ったものだ。なんとしてでもサタンを倒さねば……
改めて心に堅く決意する竜人であった。
翌朝からはサタン討伐戦の準備が本格的に始まった。
「まずは、どうやって倒すか。だが……これについてはみんな未経験ってことで異論はないよな……? あるって言われても困るけども」
朝食を取ったのち少し大きな円卓の置いてある会議室にて竜人達はサタン討伐に関する作戦会議が開かれた。
ここには現在、竜人はもちろんのことリゼルやマリア、ティガルにサダキチ。そしてシュタインと総勢が集まっている。
昨夜のこと、そろそろ久しぶりのベッドで寝ようかとしていた竜人のもとへシュタインが話をしたいとやってきた。
「僕はそれなりに戦えると思っているから……君たちと一緒に戦わせてほしい。もちろん足でまといにはならないようにするしもし僕が手負いになった時には無視してサタンを倒すことだけを考えてほしい」
「そうか。まぁ……怪我したときに無視していくかどうかは置いといて、頼りにしてるぜシュタイン」
「あぁ、よろしく頼むよ竜人くん」
満点の星空の下、二人はバルコニーで再び固い握手を交わした――。
「さて、サタンをどう倒すかだが……それ以前にまずサタンの手下たちをどうするかだ。このあたりは実際に戦ったマリアとティガルさんはどんな感じでした? 手応えとか……」
正直なところ、あの時のことは思い出したくもない……あの時、竜人は必死に逃げることしかできず……否、必死に逃げた上で敵に追いつかれて生死の境をさまよったのだ。
自分がこの国の希望としてこちらの世界に呼ばれたのに、そんな『希望』がたかが手下に殺されかけていて大丈夫なのか? そんなことで本当にやつらの親玉、サタンを倒すことはできるのか? そして、ちゃんと生きてサタンを倒した後の世界を見ることはできるのか……?
様々な不安と恐怖が彼の脳内を駆け巡る。
そんな中竜人の考えていることを察してかマリアが立ち上がって口を開いた。
「あれからりゅうとも結構強くなったと思う。だから大丈夫だ。だいたい、りゅうとはサタンを倒すことだけを考えておけばいいんだよ。サタン軍の手下ぐらいわらわとおっさんがいれば簡単に蹴散らせるんだからなっ!!」
胸を張ってマリアがそう宣言したのち再び席に着いた。その隣ではティガルもコクコクと頷いている。
なんだよ……こんな幼女にこんなに逞しいこと言われて……目頭が熱くなるだろって……。
心の中でそうつぶやき右手で目頭を押さえて俯いた竜人に代わり、シュタインが会議を進める。
「では、ティガル様とマリア様はそれぞれサタンの手下たちを、私は竜人くんの支援を。リゼル嬢は……」
「私も竜人の支援よ。特にできることもなさそうですし」
不貞腐れた顔でリゼルが顔を背けて呟いた。
「サダキチ様も我々と行動を共にしてください。可能であれば回復魔術だけでなく支援魔術なども使ってくださると助かります」
「わかりました。任せてくださいませ」
その後もシュタイン主動で何かあった時どうするのか、サタンの根城までどうやって行くのか、サタンを倒しきれなかったときは……動けなくなったときは……サタンの手下のとされている怪物と出くわしたときにどうすればいいのか……などなど、想定されることの限りが議題に持ち上げられた。そして……
「最後に……サタンをどうやって倒すかですが――」
「それは任せてくれ。オレに心当たりがある」
シュタインの言葉を遮るかのようにずっと黙っていた竜人が声をあげた。
そんな彼の目をシュタインが真紅の瞳で直視すること数秒……竜人からのハッキリとした決意を読み取ったのか、小さな吐息とともに頷いた。
「わかった……君に任せよう」
有無を言わさぬ彼の物言いに、周りの者はただ頷くほかなかった……。