20話『尋ね人』
ある日の午後、野営地で穏やかな時間を過ごしていた時、一人の青年が野営地に訪れた。
腰には剣をぶら下げて、淡い緑のマントを羽織り、フードをかぶっている。森の中で動かなければすぐには見つからなさそうな色だ。
「こちらに竜人様はいらっしゃいますか」
その青年は白く細い手でフードを取ると、その整った顔を露わにし野営地で休憩を取っていた竜人達一行に声をかけた。
ただ、驚くべきはここにいる誰も彼の接近に気が付かなかったことだ。
聴覚や嗅覚が人間の何倍もあるエルフのリゼル、魔素の流れを感知できるマリアやティガル。さらに、30倍の力を持っている竜人でもさすがに森の中を歩いてこられたら気が付く。
それをかいくぐってこの距離まで接近するということは相当な手練れってわけで……必然的にそれぞれが武器を構えるのは自然な流れだった。
しかし、ティガルは色白の男を見えると構えていた武器を下ろした。
「これはこれは、シュタイン様」
「ティガルさんですか、こんにちは。まさかこんなところでお会いするとは」
柔和な表情でティガルと挨拶を交わした男は羽織っていたマントを丁寧に脱いだ。
「私はシュタイン・シュガルツ。ここの森一帯と近くの街一帯を治めるシュガルツ家の者です」
そういって彼はペコリとお辞儀した。
どうやらリゼルとマリア、ティガルはもちろんのことサダキチも彼のことを知っていたようで、その言葉を聞いた途端武器を下ろした。
「なんでそんな方がこんなところに……」
最初に口を開いたのはリゼルだった。
ただ、そういいつつもこめかみに青筋が浮かび上がっているのを竜人は見逃さなかった。おそらくはリゼルがエルフなことを気にしているのだろう。
街の人間はエルフのことをよく思わない人間がいるらしく、そういう人間と直接接触ししないためにも彼女が街に出るときは気配が極限まで薄くなるように暗示をかけたローブを着ている。が、それでも勘のいい人間はリゼルの存在を何となく察するそうだ。
そのことで文句を言う者は少なからずいるもので……以下略。
「ご安心を、エルフの嬢。今回はエルフ族のことは関係ございません」
そういってリゼルをなだめた後、彼は再び口を開いた。
「私は竜人様率いるサタン討伐軍の支援をさせていただきたいと思っております」
「……ん?」
一瞬の後に竜人は間の抜けた返事をした。
街のお偉いさんがオレたちのサタン討伐を支援……?
なんとも想像の斜め上をいく彼の言葉に驚きを隠せなかった。
「でもそんなのあなた方にどんな利益が……?」
素性も知れぬ……はずの竜人とその仲間たちに長年ドラゴンの力をしてやっとどうにかなっていたこの国の未来を託すというのはどうかと思う。しかも支援をするってことは少なからず金を出すってことでつまりは竜人達がサタン討伐に失敗したときのダメージは少なからずあるはずだ。
それでもなお竜人達にそんな話を持ち掛けるということはそれなりの理由と根拠があるからなのだろう。
「そうですね……まず、もしもサタンがあなた方によって討伐された際、私たちにはそれを支援したという結果が残ります。それによって更なる当家の繁栄が期待されるでしょう。もし、討伐が成功しなかった場合は……あなた方が民からどういう対応を受けるか……とても見ものかと」
あぁ、なるほど。こいつはかなり正確に難があるな。と竜人は感じた。
だが、現段階の装備でサタンを倒すことは不可能に近いだろうというのはさすがにわかっているからこの交渉を蹴るのはあまり良い選択ではないだろう……うぅむ、あとはリゼがどうするか……
一瞬の逡巡の後、竜人はリゼルの顔色を窺った。
しかし、彼女の方は大して悩んでいる様子もなくシュタインに対する敵意もある程度和らいでいた。
「これは、私たちがあなた方に力を借りるのでなくあくまでもあなた方が私たちに物資を押し付けるということなので。そこをお忘れなく」
それだけ言い残しリゼルはシュタインに背を向けてどこへ行くともなく歩き出した。
「リゼ、そこまで言わなくても……」
だが、一応は呼び止めようとしてもその甲斐空しくリゼルが止まることはなかった。
「うちのリゼルがすみません……」
「いえいえ、こういうことは慣れていますので」
さわやかな笑顔でそう応じたシュタインは嫌味の一つも含まれていないような物言いだった。
なるほどな、これが本物の紳士か……
「それで、しゅたいんとやら。その『物資』とやらはどうやってここに届けてくれるのじゃ」
それまで黙って話を聞いていたマリアが耐えきれなくなったように聞いた。
「それに関してはご心配のほどはございません。後日こちらにワープホールを手配させていただきます。それを使用して私が所有する蔵へご案内いたします。そこで皆さんにお好きなものを選んでいただきます」
なるほどねぇ、家のためにとは言いつつ割と自分の出世のことを考えてるのかもしれないな、この人……
竜人のシュタインに対しての印象が良くも悪くも大きく変わった一言であった――。
お、お久しぶりです……((((;゜Д゜))))
多分今日からまた(だいたい)毎日更新再開しますっ