2話『始まりの旅』
「で。」
「で?」
「……オレたちはこれからいったい何をすればいいんです? じゃあこれからサタン倒しに行くか! ってわけにもいかないし」
ここはアルガ王国のはずれにある森の中。竜人とリゼルが『通り道』から出た先だ。
「そうですね……とりあえずはこんな森の中なわけですし、そろそろ日が暮れてもおかしくないでしょう。ここは一つ、野営地を決めるべきでは?」
ふむ、なるほど。それはもっともな言い分だ。しかし、
「オレにはそんな技術も知識もないですよ」
だがそんなオレの心配も、彼女の表情を見る限り無駄だったようだ。
「そんなときのためにそれがあるんじゃないですか!」
そういった彼女は竜人の左手首に巻かれた白いデバイスに向けられていた。
「これ、なんなんだ? さっきから気になってたけど」
「それはですね。竜人さん、あなたがこの世界で生きていくうえで非常に重要なものです! だから絶対に失くさないでくださいね!?」
「お、おう……そうじゃなくて使い方をですね…」
「あぁ! そうだった!!」
どうやらこれは、こちらの世界で持ってない人のほうが少ないほど広く出回っているデバイスらしく、所持者本人のステータスなどを表示する機械らしい。オレの使える魔法なども表示されている。ちなみに使える魔法はまだない。
「あ、これインベントリにもなってるのか」
「そうそう。この世界のだいたいの物はその中に入るようになってます。もちろん、そのままじゃなくていったん魔素に分解してからそのデータをその中に保存しているだけなのでその中で保存したものの時間が進むことはありません!」
ふむふむ…よくわからんがそこらのゲームのインベントリより優秀そうだ。
「じゃあ、今この中に入ってるアイテムも取り出せるので?」
「もちろん! アイテム選択したらすぐ出てきますよ」
今インベントリの中には、簡易的なテントの火を焚くために必要なアイテム、そして非常用のクッキーみたいなもの、そしてダガーがワンセットずつ入っている。
「あれ、これ一人分しかないですけど……」
「それは大丈夫! 私のは別でありますから」
微笑んで左手のデバイスを見せたリゼルはすでに設営を終えていた。
「なるほど…さすが」
こうして、オレたちの最初の一日目は特に何も起こらずに終わった。
翌朝、久しぶりの外泊の影響か、竜人が朝早くに目覚めた。……外泊って疲れるよね……?
「あら、竜人さん。おはようございます」
テントから転がるようにして出ると、すでにリゼルが起きて、朝食を作っていた。今朝はゆったりとその長い髪を背中側に流し、軽く一つにまとめている。
「ん、おはようございます……腰が痛い……」
「あらら…そちらの世界の方は普段野宿とかされないのですか?」
「する人はするけど、ほとんどの人はしないですよ」
ちなみに、オレの父親はアウトドアが好きなため小さい頃はよくキャンプに連れて行ってもらった。
「あ、そうだ」
「ん?」
話が一段落し、何となく気まずくなっていたところにリゼルが固くなった表情で言った。
「あのっ、私たち、これから長い旅に出るわけですし……その…敬語、やめませんか?」
「ふむ……」
確かにもっともな意見だ。敬語って長いし。めんどくさいし。
「わかりました……いや、わかった。敬語、やめよう! その代わり、オレのことは『竜人』って呼んでくれ。今まで思ってたけど、『さん』って呼ばれたことないからちょっと恥ずかしいし……」
するとパッとリゼルの表情が綻んだ。
「それなら、私のことは『リゼ』って呼んでください!」
「ほう、リゼか…いいね。なんか仲良しって感じだ」
はにかむリゼにつられてはにかむ竜人。
なんか、この感じいいね。
「で、今日はいったい何を……?」
テキパキと朝食の支度を整えたリゼに、竜人が言った。
「えっと、ずっとこんな森の中で野営するわけにもいかないから、とりあえず今日は近くの街を目指したいと思います!」
「おぉー、いいね。街に行ったら宿があるとか……?」
「ううん、それだけじゃないみたい。この地図によると、武器屋とか防具屋はもちろん、小さなギルド管理センターがあるみたいです!」
ほう、ギルド管理センターとな。
リゼが手元のデバイスのマップ機能を操作しながら続ける。
「えーっと……ここから南に約50キロってとこですかね」
なるほど、50キロか……………
「ちょっ…遠すぎじゃないか!?」
「仕方ないですね、こんな森の中ですもん。諦めて出発しましょ?」
苦笑いで竜人に賛同を求めるリゼ。そりゃそうだけれども……
人が来た形跡の全く見られない完全な未開拓地。日本じゃこんなところそうそうないんだろうなぁ……なんて思いながら竜人はリゼが作ったスープを飲み込み立ち上がった。
さて、行きますか。
こうして、竜人とリゼルの最初の旅が始まった――