17話『魔法と魔術と悪魔の根源』
「さて、竜人くん。これからサタンの軍勢がまずはここを叩きに来るだろう。何か計画はあるかね?」
サタンの内通者だと発覚し、マリアのよって特に大ごとにはならず……? サハタは始末された。しかし、すでに彼女はサタンに竜人達アンチサタン軍(仮)のことをすべて話している……ここはいったん身を隠すべきだろう。
「隠れる一択ですね。ここで戦うのは……そもそもオレが戦力になれるかどうかわからないし……」
「うむ。いい判断だ。だが……」
「手遅れね」
言いかけたティガルに、マリアが言葉の後を受け継ぐ。
いつの間にか厚い雲に覆われたどんよりとした空が広がっている。
次の瞬間、紫色の雷が彼らのすぐ近くに落ちた。
「お出ましかな。私は単独で動かさせていただくよ。みんなを巻き添えにするわけにはいかないからね」
それだけ言い残すと、ティガルは森に消えていった。
「わらわもおっさんと同じようにさせてもらう。もっとも、ついてこれるならの話だがな」
ニヤリと笑いつつ、マリアもそう言って森に消えていった。
「……さて。どうするか、リゼ」
「どこかに身を隠すしかないわ。私たちじゃどうにもならないと思う」
リゼルの予想通りの返事に、竜人は雷が落ちた方角へと反対の方角へ走り出した。
どれぐらい走っただろうか。ある程度慣れてきたとは言え、さすがに森の中を長時間走り続けるにはそれなりの体力がいる。30倍に追加で30倍ほど体力が増加された竜人ですら、かなりしんどいものであった。
しかし……さすがは森の種族、リゼルは物ともしない顔で竜人の隣をぴったりとつけていた。
「二人は……大丈夫だろうか……はぁはぁ」
竜人が唐突に息も切れ切れに切り出した。
「きっと大丈夫よ。マリアは強い子だし、ティガルさんは私でも知っているぐらいに国で最強の魔術師だから。きっと倒してくれてるわ」
かすかながら、時々後ろから大きな破壊音が聞こえる。きっと二人が今もなお戦っている証拠だろう。
「さて、竜人くん。ここで問題です」
さらに数秒おいて、リゼルが再び口を開いた。
「お、おう……ドンと…こい」
「うんうん、走りながらなのにいい返事だね。さて、私たちはこうして今もなお走っているわけですが、今私たちが置かれている状況とはいったい!?」
あぁ、やっぱりそのことについてか。薄々は気づいていた……というよりは、さすがに気付いていた。だって、こんなに殺意ギラギラしてるんだぜ? こいつら。
「やっぱり、戦うしかないよなぁ……」
嘆息交じりにぼやいた竜人に、それをジッと見ていたリゼルは口の端を上げて頷いた。
「ちゃんと毎日頑張ってたんだから。こいつらぐらい倒せるって!」
リゼルに背中を押され、竜人は腰の刀を抜きながら体を大きく反転させた。
「さぁ、どいつからでもいい。かかってきやがれ!」
一方、野営地にしていた付近では殺しても殺しても新たに湧いてくるサタンの軍勢に、マリアとティガルは苦悩していた。
一体一体は弱い。一撃で倒せる。敵自体は弱い悪魔たちだった。だが、数があまりにも多すぎる。数が多いゆえに攻撃が飛んでくるか数も多いわけで、二人は常に動き続けることを強いられた。
右に飛んで魔法を放ち、左に躱して魔術を使い……敵が集まっているところには範囲攻撃魔法を打ち込む。
二人とも最大火力の攻撃を続けたとしても、数日は戦えるだけの魔素は常備しているが……あまりにも無駄に魔素を使い続けるわけにもいかない。無限ではないから。
「さぁて、どうしたものかなぁ」
「おいおっさん。早く打開策を考えろ。わらわは考えるのは嫌いじゃ」
「そういわれましてもねぇ……あ、そうだ。根源を叩き潰せば湧くこと自体は止められるのでは?」
マリアとティガルはお互い自分が相手している敵には目もくれず、どんどんと敵が湧いてくる雷が落ちた場所に目を向けた。
「何かが……埋まっている……?」
「さて、問題はあれをどうするかですねぇ」
「……おっさん。あれは固体か?」
「さぁ……」
マリアの問いに首を傾げたティガルは足で器用に足元にあった小枝を蹴り上げるとそのまま謎の物体の元に蹴り飛ばした。
するとコツンと音がなって小枝はそれの脇に落ちた。
今もなおサタンの手下どもが湧き続けている。
「なるほど、固形か。おっさん、数秒の間わらわの分も敵を倒しておけ」
そういうが否や、マリアは身をかがめ悪魔たちの足元をかすめて一瞬で謎の物体のもとへ。すると次の瞬間には『それ』の上空数メートルのところから、サハタを凍らせたときのような強力な凍結魔法で、『それ』の半径数メートル以内の悪魔も含め凍り付かせた。
後に残った悪魔たちはティガルが瞬時にして片付ける。
「なかなか、強くなられたのですねぇ」
「おっさんもだな。そろそろボケてるかと思っていたが、まだまだ大丈夫そうだ」
悪魔が湧いた根源ごと凍てつかせ、難事を逃れた二人はお互いに挑発しつつ、称えあいつつ、目を細めて笑いあった。