14話『魔法幼女』
そして再び時間は過ぎ去り翌朝のこと。
いつものごとくサハタが作った朝食の香りに目を覚ます。
しかしそこにはいつものような静かな時間はなく、テントの外から二つの話声が聞こえる。一つは小さく幼い少女のような声で、もう一つはサハタの声だろうか。
「まだ皆さん寝ているのでもう少し声を抑えてもらっても……」
「なんでわらわが人間どものために声を抑えないといけないのじゃ。この国を代表する魔法使い様がせっかく来てくださったというのに。なんで人間どもはみんなして寝てるのじゃ!!」
「ですからこんな早朝から……」
どうやらサハタは叫ぶ幼女を必死になだめているらしい。
「サハタさん、もう大丈夫ですよ」
しかしさすがに限界もあろうと思い竜人はゆっくりとテントから這い出ながら言った。
「あら、竜人さん。おはようございます」
すると竜人とチラリと目が合ったサハタはペコリとお辞儀した。そしてその一言に幼女はすかさず食らいついた。
「貴様がりゅうとか。わらわはマリア。国王のじじいに言われてきたが……そこのおっさんがいるからわらわの出る幕はないな」
白く肩ぐらいの長さの髪を二つに分けて結んだ幼女は身の丈に余るほど大きな紫紺のローブを身に纏っているため見える肌といえば顔ぐらいだ。結構……いや、かなり幼い。
もし日本なんかでこんな子に街中で出会おうものなら……しゃべりかけただけでも次の瞬間お縄になるだろう。
それぐらい幼女だ。がっつり幼女だ。……幼女だ……。
「驚くほどの口の悪さだな……白髪幼女……」
「しかも私のことをおっさんだなんて……貴女私にどれほどまでにお世話になったら覚えていて言っておられます…?」
もはやその悪態の付きように竜人含めそれを聞いていた全員が文句の一つすら言う気も起きなかった……ティガルを除いては。
すると、さすがにうるさかったのだろうか、リゼルのテントがのそのそと揺れ動いた。
「なに、朝からみんなして……何かあったの……?」
大きなあくびをしながら出てきたリゼルは、マリアの姿を見つけた瞬間大きく口を開けたまま固まった。
それは、マリアも同様だった…………
「なんだ、リゼの知り合いだったのか……」
リゼルから、リゼルとマリアの過去の関係性について話すと、みんなが驚いたように言った。
二人はもともと王宮の孤児院で幼いころを過ごしていた。しかし、二人ともエルフということもありまだ見た目は幼女とさほど変わらない段階で孤児院を追い出され、それから二人は幾年もの時を一緒に過ごした。
その後のことは二人とも頑として言おうとしなかったが……別れは案外あっけなかったらしい。
ちなみに二人とも孤児院には居たものの、別に親がいなくなったとかそういった理由ではなく。現代のエルフは時に小さい子を人間に慣れさせるためにそういった施設に預けるのだとか。
というかこの世界の孤児院はそんな人ならざる者や、人間の中でも両親が忙しいため日中の間預けられるような、そんな泊まり込むこともできる保育園のような扱いを受けている。
ちなみに二人ともご両親はまだご存命らしく、リゼルの場合はマリアと別れた後生まれ故郷に……二人が生まれたエルフの村に戻って、そこで精霊術について深く学んだらしい。
その後は国王に仕えたりいろんなところを転々としたのち、今ここ至るそうだ。
「なるほどねぇ……」
うんうんと頷きながら呟く竜人。ちなみにこれらすべて、彼は初耳である。
「まぁ、何はともあれ。リゼともともと一緒にいたってならオレは仲間にしてもいいけど……さすがにその言葉の悪さはどうにかしてほしいけどな」
苦笑いを浮かべながら竜人は言った。初対面の幼女に『貴様』呼ばわりされてたまったものではない。が……国一番の魔法の腕があるってのならさすがに話しは別だ。
「私も賛成です。私は特には直接何も言われていないので」
竜人の隣に腰かけていたサハタはさらに隣に座っているティガルにチラリと視線を向けた。
……そういう問題でもない気がするが……
「私ですか。まぁ、確かにその子は腕が立つ。私が言うのだから問題はないでしょう」
少し不満がありそうな物言いだが、賛成の意と取ることとしよう。
「え、私!? 私は……別にマリアのことは嫌いじゃないけど……あんた本当に大丈夫なの?」
「ふっ、何を言っているりぜる。わらわはこの国で一番の魔法使いだぞ? むしろ心配なのはお主の方では?」
嘲笑うかのようににんまりと口元をまげて言うマリア。さすがのリゼルも肩を震わして必死に怒りを抑えようとしている。
「あんたに心配されるほど……私は弱くはなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああああああいっ!!!!」
しかし努力もかなわず、彼女は爆発したように森中に聞こえるぐらい大きな声で叫び散らした――