13話『彼は王室魔術師』
「さて、私から君にこの力について少し説明をするとしよう」
いまだ蒼い炎に身を包んでいる竜人に対し、ティフォンは言った。
「まず、この力はごくごく一部の生命だけが発揮する超技能だ。そもそもこの力のことにを知っている人間はごく一部の人間だけだが、その中でもある一定の人間からは『チート』などと呼ばれている」
なるほど。ということは、相当強い力を竜人は今手に入れたということだろうか……?
「おそらく竜人くん、君に出た力は素のステータスを数十倍に跳ね上がらせるような能力じゃないかな?」
そういわれ、竜人は左手の『超便利デバイス』でステータス画面を呼び起こした。
曖昧に言ったティフォンに対し、リゼルは竜人にチラチラと目を向けながら尋ねた。すると、なんということだろうか。竜人の場合少し特別で、『素のステータス』×30(特異能力による)と書かれた後ろに結果のステータスが書かれていたのだが、そこにさらに「×32(覚醒能力による)」と付け足されていた。
「ふむ……30倍に追加で32倍……と……これじゃあそこいらにある俺TUEEEEEEEEEE!系のラノベの主人公と一緒じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
竜人の切実な嘆きが森に響き渡る……
「『俺TUEEEEEEEEEE!』なるものが何かがよくわからないから何とも言えないのだが……とにかく、現段階では数字上は素のステータスの960倍の力が出すことができることになっているのだが――」
そこまで言いかけた時、リゼルが口を挟んだ。
「960倍じゃなくて62倍じゃないのですか? だって30倍に32倍でしょ……? それなら30と32で……ほらやっぱり62倍じゃないですか!!」
頬を膨らませ竜人とティフォンに抗議するリゼルに対し、男性陣二人は顔を見合わせるしかなかった……
「100歩譲って、今の彼の力は960倍だったとします」
リゼルが仕方なさそうな顔で宣言する。100歩譲らなくても960倍だと思うんだが……。
「ティフォンさんが『チート』の発現に対して何か特別な力をお持ちなのも何となくわかりました。しかし、なぜ彼がこの力を秘めていると思ったのですか?」
これは彼女の率直な疑問であり、彼を試す場所でもあった。神様からの情報では、ある特定の『視える』人間と、『チート』の能力を持ってる者が何となく感じることができると聞いている。そして、そういう者は戦争などの争いやそれ以外においても大抵がスパイなどとして動くことが多い。
内なる力を秘めている敵がいる場合はその力が出る前に殺しておいた方が後々厄介なことにならなくて済むからだ。
「なるほど、確かにそれははっきりとさせておく必要がありますね」
彼はそのあたりをしっかりとわきまえているらしく、リゼルの発現に対し誤魔化す素振りもなく話し始めた。
「とは言っても、一つあらぬ誤解を生んでしまっているようなので先にそちらだけ解決しておきたいと思います。現時点で確かに竜人くんは数字上960倍の力を手に入れましたが、実際にその力をフルパワーで使えるかといわれたら不可能です。その力やそれを支える魂が入っている身体はいくら30倍やそれ以上の能力で強化されていようと限界があるものなのでね。無理に力を使うと身体がバラバラになって魂だけが一つどこか彼方へ飛んで行ってしまうため……まぁ要は死ぬため、魂もそれを理解して能力をフルパワーでは使えないようになっているのです。そのため、実際に仕える力となってくるとお嬢さんが言っていた62倍程度が限界かとは思われます。多少は鍛えることによって上限の突破はできますけどねぇ」
困ったように目を細めて苦笑いしながらティフォンは言った。
紳士風な出で立ちのためどこかとっつきにくい雰囲気を醸し出していたが……笑った顔は案外人懐っこかった。人は見た目によらないって……こういうことなんだな。
「じゃあオレは今まで通り鍛えることを考えておけばいいと……」
「あぁ。しかし、それだけじゃこの力を自分で発動することはできない。現に今だって私が発現させたわけで自分の力で発動させたわけではないからね。ちなみに言っておくと今その姿を維持できているのも私が安定して力を送り続けているからだよ」
そういい終わると同時に竜人の周りから一瞬にして蒼い炎が消え去った。
「さらに言えばその力の維持にはかなりの体力が消費される。今回はほとんどを私から消費したためそんなこともなかったが……今の状態で使ったら持ってせいぜい10秒……いや、発動させるのに使う体力を考えると全く足りないかもしれないね」
真剣な眼差しを竜人に向けながらティフォンは言った。
「まぁそういうことだよ。大変だろうけど、それでもサタンを倒すにはこれをマスターするしかない。あと数日のうちに」
そういえばすっかり忘れていたがサタンが復活するまでに数日もないのだった。
あ、そういえば――。
ティフォンの言葉にそれぞれ考えさせられるところがあったのだろう。各々押し黙っていたところを不意にティフォンが声を上げた。
「一番大事な質問に答えていませんでしたね」
少し重たい話に顔が固まっていた彼は不意にほほを緩め続けた。
「私は、長年この『視えるだけ』の力と『周りより長けた魔術の素質』だけで王宮に仕え、長年王宮魔術師として仕えてきた。その甲斐ってか私は眠った力を覚醒させるための魔術を作り上げることに成功した!」
その言葉に多少なり理解のあるリゼルとサハタは息を呑む。ちなみに竜人にはなんのこっちゃわからない。文脈からすごいことをしてきてまたすごいことをしたってことぐらいは分かるけども……
「そんな私はティフォン。そのまたの名を、ティガル・フィラメスという!」
竜人の考えていることなどいざ知らず。調子よく大きな声で立ち上がったティフォン改めティガル・フィラメスは言った。
森の木々でさえずっていた小鳥たちはそれに合わせいっせいに飛び飛び立っていった――