1話『加護と決断と…』
時計が深夜12時の刻を告げた時、佐上竜人の携帯電話の着信が鳴った。
「ん? こんな時間になんだ……」
友達もいなく、携帯電話を携帯電話として使うことが少なくなり、さらに記憶にない番号が彼の警戒心を高めた。
「はい…佐上ですが……」
すると携帯電話の向こうからくぐもった声で聞こえてきた。
『ハッピーバースデー』
「あれ…ここは……?」
定番のセリフとともに横たわっていた上半身を起こす。
「あ、目が覚めたのですね。初めまして、私がこの世界であなたの『相棒』となります、リゼルです!」
光に包まれた部屋で、地面に座る竜人の前には色白でもう透き通るような白い長い髪の美少女エルフが座っていた。
「えっと……いろいろ聞きたいことはあるんですけど……ここはどこです?」
「ふむ…では一つずつ答えていくとしますか。ここは世界の中心、アルガ王国につながる『通り道』です」
「ほう……で、そのアルガ王国ってのはどこなんだ? アメリカか? それともアフリカの方なのか?」
「えっと……多分あれですね。竜人さんの世界で言う『いせかいてんせー』ってやつですね。この世界にはそんな国ないですよ」
え、理解が追い付かない。異世界転生? なんでオレが? だって…別に死んだわけじゃないだろ?
「まぁ正確には、私たちはあなたを勇者としてこの世界に呼んだわけです。ってことで端的にお願いします。どうかこの世界をサタンの魔の手からお救いください」
なんだこの娘は……まっすぐな瞳でオレを見て『この世界を救ってください』って……
「そんなこと言われてもオレなんもできないですよ……特に強いわけでもなく、変わったことができるわけでもない。何ならそこらの人間より弱いよ?」
しかしなおも彼女は食い下がる。
「大丈夫です。あなたには神様からの加護がきっとありますから! あなたじゃないとダメなんです!」
オレじゃないとダメ……ねぇ。勇者ってことは実質ヒーローになるわけだろ。オレは幼いことからヒーローには憧れてたところがあるからそういう言われるのは悪い気はしない。
むしろ頼られててうれしいまでもある。
「まぁ…そこまでいうのなら…? 考えなくもないけれど……でも、今のままじゃ無理だ。せめてその『神様からの加護』ってものを見せてもらわないと……」
「なるほど……それなら、サタンを倒すだけの力があればやってくれるってことですか……?」
「まぁそういうことになるね。正直なところ元の世界に戻せって言っても戻ったところでやることないし。異世界転生ってことだから元の世界のオレはどうせ死んでるんでしょ?」
するとどうだろうか。リゼルは顔をパッとほころばせて言った。
「そのことについては今後ゆっくり話しますから! とりあえずその場で思いっきりジャンプしてみてくださいよ!」
飛ぶことが『神様からの加護』につながるのだろうか……半眼で彼女のことを疑いつつ、とりあえずジャンプしてみた。
するとどうだろうか。彼女の姿がみるみる眼下へ…
「どうです? すごいでしょ?」
どこか誇らしげに笑う彼女の顔がだんだん見えにくくなる……こともなくかなりの高さまで竜人は飛び上がり、きれいに着地した。
「ね? すごいでしょう?」
「これはいったい……?」
高さにして20メートル近くは飛び上がっただろうか。仮にここの重力がおかしいとかでも尋常ではない。さらに、その高さまで飛び上がったにも関わらずすぐ近くで見ているかのような鮮明さで顔がはっきりと見えていた。おかしい…これが神様の加護なのだろうか……
「そう。この世界であなたに与えられた加護は『全能力30倍』なのです! わかりますか? 30倍ですよ! 普通じゃ考えられないでしょう?」
なるほど。それなら何となく説明がつく。
オレは今30倍の力で飛び上がって30倍の視力で彼女のことをみていたというのだろう。
「なるほどね…ちなみにこれって物理的な力も30倍に…?」
「もちろん! その他すべて30倍です!」
うん。悪くない。これはあくまでも個人的な感想だが、ヒーローならそんな能力が妥当だろう。
「ちなみに魔力も30倍ですよ?」
「え、この世界魔法あるの」
「当たり前じゃないですか」
エッヘンといわんばかりのドヤ顔でリゼルは続ける。
「これで、この世界を救ってくれますか…? 今なら私っていうとっても特別な特典もついてきますよ」
「最後のはちょっとよくわかんないけど、これだけすごい力をもらった以上やらないわけにはいかないよね」
少しほほを緩めて応える竜人。
「なら、行きますか! いざ、暴君サタンからアルガ王国を救いましょう!!」
握りしめた右手を頭上で振り回し駆け回るリゼル。
それを追うようにして歩く竜人。そんな彼は元気だなぁと、呆れながらも握りこぶしを作った右手を挙げて小さな声で答えるのだった。
こうして始まった勇者と少女の物語。しかし、そんな二人に襲い掛かる困難を、まだ誰も知らない―――
初めましての方は初めまして!
お久しぶりの方はお久しぶりです!
黒羽です!!
今回から、またこうしてここで作品を投稿することになったわけですが……今回のこの作品、私が初めて連載作品として投稿した作品のリメイクなわけです。
まぁリメイクといってもはっきりとゲームの世界に行くわけでもなく、残ってる設定といったらメインのキャラの設定ぐらいだったので、記憶を頼りに『似た世界観』で、『ゲーム風の異世界な設定』にしたわけです。
とりあえず今回は一週間分先まで書いているので唐突にこけることはないかな…?(笑)
そんなわけで、長くなりましたが今後とものんびりとお付き合いいただけたら幸いです( ˘ω˘ )