6-20.足元の見えぬ闇夜の奇襲
攻め込む兵の動きを見ながら、ショーンは己の剣を抜いた。降り注ぐ矢を払うラユダが呼吸を図って、隣に滑り込む。目配せだけで合図は足りた。
「……はっ」
馬の腹を蹴り、一気に崖を下る。旗印として崖の頂上で我慢していたショーンが駆け下りると、呆れ顔の傭兵達が後に続いた。正規兵に同じ命令を下しても躊躇するはずだ。かろうじて鹿や山羊が行き来する急な崖は、馬が嫌がる。ましてや上に乗る兵や騎士の怯えを感じれば、本能的に拒絶するだろう。
軍馬として訓練され、戦好きのショーンに従ってきた雌馬は嘶いて、真っすぐに崖を下りた。その先で矢をつがえる兵が怯えの表情を浮かべて、逃げ出す。放り出した弓を踏み、向けられた背を蹴飛ばして一群が走り抜けた。
土埃が戦場を横断していく。
敵の意表をつき、戦場を乱す台風の目となったショーンが剣を振るう。落とした首に見向きもせず、次の男へ向けて再び振りかざした。背中を守るラユダが、鋭い突きを剣でいなして追いかける。半馬身遅れの位置を譲らぬラユダの頬を、1本の矢が掠めた。
目を細めるが、頬を伝う血を無視して剣を振るった。手応えを確認しながら、次の敵を切り伏せる。ラユダの纏う革鎧はあっという間に返り血で赤く染まった。滑る柄を乱暴に拭い、ショーンを追う。
「ショーン、一度さがれ」
「……確かにおかしい」
中央突破を仕掛けた側が有利なのは当然だが、あまりにもスムーズに突破できてしまった。誘い込まれる可能性がある。ラユダの指摘に、違和感を感じていたショーンも眉をひそめた。
このまま囲まれると、退路が絶たれる。見上げた夜空は月がなく、足元は飲み込まれるような闇が広がっていた。
ひらりと舞うマントを手で払い、退却の合図を送る。周囲を取り巻く傭兵達が急速に距離を詰めた。
「ボス、まずいです」
「危険ですぜ」
敵の動きの変化を敏感に察した彼らの忠告に、ショーンは速度を緩めた。これ以上敵地深く入ってしまったら、退却が出来なくなる。
「ショーン、マントを寄越せ」
ラユダが身代わりを申し出る。しかしショーンは首を縦に振らなかった。
他国にない指揮官のマントの風習は、シュミレ国の誇りだ。武勇を誇るチャンリー公爵家当主が、己のプライドであるマントを傭兵に預けるなど、名が廃る。それくらいなら討死にの方がマシだ。
きつい黒瞳が語る決意に、ラユダは苦笑いした。
「そうだろうと思った。血路を開くぞ」
「おうよ」
「ボスは無事に出してみせるぜ」
「俺らにだって誇りがある」
「恩を返すときだ!」
囲まれた状態からの脱出を果たすため、傭兵達は互いの距離をはかる。動きを止めず、しかし速度を揃えた。互いの連携をとりながら、中央に守るショーンに目配せした。
「任せる」
言い切った潔さに、傭兵達は奮起した。剣の持ち方を変えて、近接戦闘から早駆けの体勢に切り替える。
「いくぞ」
ラユダが乱暴に左手で髪をかき上げた。返り血に濡れた手が、普段隠している目をさらけ出す。背後に迫る敵、眼前に襲いかかる敵、どちらをみても敵ばかりの状況で、ラユダはにやりと笑った。
壮絶な色気と殺伐とした雰囲気を併せ持つラユダの表情に、ショーンの背がぞくりと震えた。死ねぬと強く思う。一群は敵を蹴散らしながら、漆黒の闇を駆け抜けた。
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