6-16.傲慢な無能は使い道がない
アスター国の宰相は、愚鈍で親バカが過ぎる国王に愛想を尽かしたらしい。
「ん? お前、囚われている間にそんな工作をしていたのか」
「いや。数年前に一度コンタクトしただけ」
怪訝そうな顔をするウィリアムだが、歴代の王族が愚かな短絡思考ばかりで宰相が苦労し続けてきた裏の歴史など知るはずもない。他国の秘された裏事情は、ドロシアが詳しく知っているだろう。後で聞き出そうと連絡用の手紙の文面を作り始めた。
「エリヤ、リリーアリス姫をお呼びしたらどうだろう」
にっこり笑う執政の言葉に、エリヤが微笑み返す。
「姉上にはラベンダーの精油を頼んだ」
顔を出してもらう口実は整っている。リリーアリス姫が教会の敷地を出るなら、必ず側近のドロシアが同行するはずだ。準備万端の少年王の切り返しに、ウィリアムが「まいったな」と額を手で覆った。優秀過ぎて執政の出番がない。
政治的な黒い罠を画策する執政を手伝う少年王は、くすくす笑いながら肘をついた。
「ドロシアが来るの?」
期待の眼差しを向けるエイデンに頷いてやり、迎える準備を頼んだ。大喜びで駆け出すが、日付を確認しないで出ていった。あれではまだドロシアの評価は変わらないだろう。子供過ぎるのだと苦笑いするウィリアムが肩を竦め、エリヤは手元の書類に目を落とした。
しばらくは書類の署名と押印が続く。
「捕まえた悪いネズミはどうした」
思い出したようにエリヤがペンを置いた。椅子に寄り掛かって小首をかしげ、無邪気に尋ねる。悪いネズミが、アスター国の王太子を示す隠語だと気づかないウィリアムではない。伝えるか誤魔化すか、迷ったのは一瞬だった。
我が主は隠し事がお嫌いだ――それが答え。
「ネズミに似合いの地下牢に閉じ込めたけど?」
気になるの? そんな問いかけに、しかし少年王は簡単に流されなかった。押印に使用した朱肉に蓋をして、印を片づけ始める。つまり仕事は終わりだと仕草で示したのだ。ここからはプライベートの話だと気づかされ、ウィリアムは溜め息を吐いた。
「閉じ込めただけ、とは思えない」
「うん、少なくともオレと同じ目に遭ってもらってから、あちらに返すつもり」
「返すのか!」
驚いたと声を上げたエリヤが首を横に振る。まるで予想外の答えを否定するような仕草だ。きょとんとしたウィリアムが「ダメか」と呟いた。
「ダメ……ではないが、何か理由があるなら説明しろ」
「うーん、アスター国の王族が政治的に使えないのに追放されない理由があるんだよ。3代前に聖女が生まれた家系で、その聖女がまた優秀な女性だったもんだから奴らが横暴でも許されてきた」
聖女が生まれた家系というなら、今のユリシュアン王家も同じだ。エリヤの姉が聖女であり、貧しい民への施しも行っている。彼女を崇める信徒も多く、教会も大切に保護してきた。
「姉上のような人か」
「そう。小さい頃から優越感を糧に育つと、ああいう無能で害悪にしかならない王族が出来上がる。シュミレ国にとって次代の教育では反面教師ってわけだ」
笑いながら長い髪の穂先をくるりと指で回した。そのまま一度解いて編み直し始める。肩が痛むのか、いつもより緩い三つ編みに仕上げたウィリアムが、青紫のリボンで毛先を括った。
「宰相を受け入れるとしたら、エリヤはどんな条件をつける?」
試すように少年王に尋ねる執政へ、黒髪の子供は口元を緩めた。
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