4-21.罰の後は丁重に
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「何のお話ですか?」
こういった惚け方も定型文だった。相手が賢ければそこで口を噤む筈だが、幸いというか。この相手も愚かな分類だった。しっかり自分の罪を自白してしまう。
「ゼロシア王家との婚約だ。あのような成り上がり貴族に下賜するなど」
「下賜、と?」
わざと言葉を区切って飛び込んだ貴族の口を封じる。びくりと肩を揺らした小物に、ウィリアムの口角が持ち上がった。久々の獲物だ、狩りを楽しんでも構わない。
椅子から立ち上がり、大きなテーブルを回って男の前に立った。
気の強そうな男は、タロシーニャ侯爵の嫡男だ。名はマイルズと言ったか。頭の中の貴族年鑑を開いて詳細な情報を引っ張り出す。気位ばかり高く、生まれを鼻に掛けたお坊ちゃんだった。
特筆すべき才能も実力もないくせに、生まれた家柄だけで生きていけると信じている。こういった貴族の鼻をへし折るのは、ウィリアムにとって有意義な時間だった。
エリヤの王国を浄化する一歩なのだから。
手加減する余地もない。
「他国の王族に対して使う言葉ではありませんね。姫が王の側室であったならともかく、嫁いでくださる姫君に対して非礼ではありませんか」
無礼では足りない、失礼でも表現しきれない。それほどの非礼を口にした貴族へ、切り刻むような鋭い視線を向けた。息を呑んだマイルズの顔に焦りが浮かんだ。
「普段から王族を蔑ろにしている方の言葉ですから、いたし方ないのでしょうか。これが自国の侯爵だなど、恥ずかしくて口に出来ません」
首を横に振って溜め息をついてみせる。この侮辱に彼はどう反応する? 楽しみに待てば、真っ赤な顔で拳を握り締めていた。ぶるぶる震える肩をみれば、あと一押しで彼が爆発するのは明白だ。
「ゼロシア王家は戦わずに、我が国の領土の自治領となることを決めました。その王家の誠意として示された婚姻であり、ゼロシア自治領の当主はアスターリア伯爵家に任せるつもりです」
まだ公開していない情報を突きつけ、ウィリアムは机の端に腰掛ける形で寄りかかった。
「命を賭して陛下をお守りした彼らに恩恵があるのは、信賞必罰の理屈に合うでしょう――罰はこれから、ですが」
意味ありげに言葉を切ったところで、ウィリアムは机の上の短剣を掴んで引き抜いた。目の前に迫った剣を左へ受け流す。同時に懐に飛び込んで、首に短剣の刃を押し当てた。
「罰はこれからだと言ったのに、せっかちな方だ」
くつくつ喉を鳴らして笑うと、無造作に左に引き抜いた。喉に当たっていた短剣は、その鋭さを存分に発揮する。返り血を盛大に浴びたウィリアムの姿に、衛兵が慌てて駆け寄った。警護対象である執政の無事を確かめると、ほっと息をつく。
足元に崩れ落ちた男の口が呼吸を求めるようにぱくぱく動き、すぐに動かなくなった。スタンリー伯爵のときは胸を突いたが、今回は首を斬ったために返り血が凄い。斜め後ろの机に目をやり、書類に飛んだ血の赤い色に眉を顰めた。
「重要書類は終わったからいいか……死体は丁重に、タロシーニャ侯爵家へお返ししろ」
小声の前半と違い、衛兵に命じる後半は声を大きくして告げる。まだ剣を強く握ったままの嫡男を送り返され、侯爵家の当主はどう動く?
彼らの陣営を一掃しなくては、愛しい王エリヤの身辺が物騒で仕方ない。ドロシアも協力体制に在る中、ウィリアムは徹底的に獅子身中の虫を片付けるつもりだった。
「ああ、その剣はそのままだ」
「はっ」
衛兵が引き剥がそうとした武器を示して指示する。国王の代理権をもつ執政へ、武器をもって立ち向かった嫡男を切り捨てるか。または嫡男を無下に害されたと抗議するか。
沈黙するのが一番賢いが……そうならないことを確信しながら、ウィリアムは赤く濡れた前髪を掻き上げた。




