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鳳凰記  作者: 新野 正
19/33

賭けの答え

今回は少し、短いです。


 ところ変わって、鳳凰旗団、本隊である灯火と紅夜は本陣に残っていた全ての式兵を率いて泉千の援護へと向かっていた。

「(泉千さんはもう交戦してる頃か)灯火さん、本当に大丈夫なんですか?」

「ああ? 泉千のことかい? 坊やもしつこいねぇ、そんなに泉千が心配かい?」

「そりゃ、心配しますよ。いくら泉千さんが強いって言っても限度が――」

「限度って、坊やは泉千の限度を見たことあるのかい?」

「いえ、ないですけど――」

「だったら、いらぬ世話さ、最も楽な戦にはなってないだろうから、泉千の奴もさすがに霊術を使ってるだろうね」

「泉千さんの霊術って、どんな霊術なんですか?」

「簡単に言うと自分と指揮下の式兵を強化するみたいな感じだね、肉体強化系の最上位って言えばわかるかい?」

「……なんとなくは想像できますけど、強いんですよね?」

「そうさね、足手まといが二人いながらそれを守りつつ、百体以上の七條軍式兵を無傷で斬り倒すぐらいには強いね」

「……始万霊の加護無しで、ですか?」

「勿論」

 化け物だと紅夜は思ったが、泉千の容姿や普段の姿を見ていると、それを口に出すのはなんとなく気が引けてしまい黙り込んでしまう。

「わかったんなら、泉千の心配より式兵たちが遅れてないか、ちゃんと見張ってな」

 灯火にそう言われた紅夜は黙ったまま頷き、後方に率いていた式兵らに目を配り、遅れている者がいないか確認しながら泉千のもとへと駆け続けた。


「(通説によれば、いかなる強者も三百の式兵を斬れば、霊力は底を突くと言われている。故に私は先方として三百の式兵を剣乃に当てた。例え斬られても、霊力を消耗させられれば十分だと判断したからだ。だが、どうだ。そこを突く、どころか『底が見えない』とはな)」

 霊力を保有し、霊術を使える武将と言えど、式兵三百には勝てないと言われているのは式兵の強さを表現していることと同時に、ひと昔前にあった、霊力持ちが戦場で何千人と人を殺す時代は終わり、数が戦の行方を左右する時代が来たという時代の変化を表す言葉でもあった。実際、式兵は強く利便性に長けており、人間の兵士を完全に上回っていたので、武に長けた武将一人で戦場の戦況を打開するという時代は終わっていた。

 だが、修立の目の前で広がる光景はひと昔前のそれと酷似していた。力なき者が一方的に斬られるというこの地獄のような光景は。

「(底は見えないが、確実に消耗はしている。ただそれが予想よりも遅い)」

 地獄のような、光景を目の前で見せつけられた修立は当然、平静ではいられない、だが、冷静にならなければと自分に言い聞かせ、頭を回す、目の前の化物を殺さなければ、自分も首を斬られ、血を吹きだし、地面に倒れ、冷たくなる、だけなのだから。

 頬を伝う、脂汗を鬱陶しいと思いながらも、修立は何故、これ程までに霊力を消耗していないのか、三百の式兵が斬られた後、新たに投入した百の式兵たちの動きを観察し、一つの信じがたい答えにたどり着く。

「(まさか、とは思っていた。だが、そんなはずはないと、そんなことがあっていいはずがないと勝手に除外していた。しかし、こうして見てみるとそれ以外に答えはない。剣乃は式兵から一度たりとも『攻撃を受けていない』いや、正確には『攻撃すらさせていない』)」

 霊力は体や武器に纏うことで、身体能力の向上や、武器の性能強化などが一般的には知られている。また霊術の発動により多くの霊力を消耗することから霊力の消耗は交戦時や攻撃時に多く消耗すると思われがちだが、霊力の最も優れている点は、痛みや傷の軽減や敵霊術の相殺など防御面と言われている。

 つまり、敵から霊力を纏った攻撃、または霊術を受けるとそれを反射的に相殺し、傷や痛みを軽減しようとする際に霊力を消耗する。

 なので、敵から攻撃を受けなければ、無駄に霊力は消耗しないので、長く霊力を持続させることができ、長く戦い続けることが出来る。

「(理論上は攻撃を受けなければ、その分霊力は消耗しない、なので長く戦うことが出来る。単純に見える理論だからか、字面だけで見れば可能そうにも見えるが、この状況を見ればわかるだろう、実際は不可能と言ってもいい。圧倒的多数に囲まれながら一度も斬られないことが、どれほど難しいか、など言うまでもない。だが、それを剣乃はやってのけている。剣乃にとっては式兵すら赤子同然ということか)」

 目で見て、肌で感じ、頭で考える。

 剱乃 泉千が如何に強いと聞いていたとしても、こうして直接目で見なければ意味が無い。何故ならこれ程までに強い武将を見たことが無いからだ。目で見えないものは信じられない、剱乃 泉千の武勇が風に流れ耳に届いたとしても、所詮は噂だと聞き流してしまう。それ程までに、噂に尾ひれが付いていると『勝手に思い込んでしまう程』、実際の泉千は強い。この世に鬼や悪魔がいたとすれば、それに例えられる程に。

 現に修立もこれを見なければ、泉千がここまでやるとは思わなかった。そうしてようやく理解する。今、自分の目の前にいる敵が如何に強大なのかと、手段を選んでいる場合ではないのだと。

「金興様、このまま、ただ式兵が斬られ続けるのであれば、私の霊術の使用を許可して頂きたく」

 修立は頭を軽く下げ、そう促すが、金興は「う~む」と少し考えこみ、口を開く。

「お主の霊術は強力だが、式兵が代価になるものであろう。故に今まで使わずにおったはず、た、たしかに、剱乃の強さは尋常ではない、だが、霊術を使う程とは――」

 金興からすれば、泉千の武勇は確かに恐ろしい。現に威厳を保とうとしてはいるが、声が震えてしまっている。

 それでも、修立に霊術を使ってほしくないと思うのは戦の情勢が圧倒的優勢だと思っていること、霊術を使い、式兵を代価としなくても勝てると思っているからだ。

 つまり、剱乃 泉千の武勇が凄いことを認めてはいるが、戦の情勢を変えるほどではないと思っている。そこが修立と金興の考えの差である。

「見ての通り、剱乃が霊術を使った今、我らが精鋭である式兵たちは皆、ただ斬られております。ただ斬られ消滅するのであれば私の霊術の代価となった方が、剱乃に傷を与えられると愚考します」

「この状況でそこまでする必要があるのか?」

「はい、このままでは万が一ということも」

「……仕方あるまい、よかろう、許可する」

「ありがたきお言葉、それでは、百体ほど私の指揮下に」

 金興は百体の式兵に修立の指揮下に入るように命令を出すと、修立はすぐさま、霊術を発動させる。

「【白蜘蛛しらぐも】」

 修立が霊術を発動させると、指揮下の式兵たちの背に白い蜘蛛の刻印が浮かび上がる。

「七條家の繁栄のため、礎となれ」

 修立はそう言って、式兵たちに突撃の指示を出すと、怖れを抱いていないかのように一心不乱に泉千へと向かって行った。

「(今まで、のと、雰囲気が、違う?)」

 修立の霊術により式兵が纏う霊力の変化に気づいた泉千だったが、強化されているようには感じず、違和感を抱きながらも今までの式兵と同じように斬りつけようと、一歩踏み出す。

泉千は修立の霊術によって蜘蛛の刻印を打たれた式兵たちを少しは警戒しながらも、試しに突出している一体の式兵を斬って見るが、あっさりと斬れてしまい。拍子抜けしていると消滅する直前に半径四尺(約2メートル)ほどを巻き込む爆発が起き、泉千も爆発に巻き込まれる。

「(上手くいったか、さすがに追尾する爆弾となった式兵らからは逃げられないだろう、斬れば爆破、斬らねば斬られる。自軍の式兵が確実に消滅してしまうことから、金興様から制限されていたが、剣乃さえ止めてしまえばすでに勝ちは決まっているこの戦況下なら有効に働く)」

 そう思いながら巻き上がる黒煙を修立が見ていると、そこから現れたのは僅かに服が汚れ頬に僅かな、かすり傷がある泉千だった。

「びっくり、した。意外と、威力、ある」

 その言葉とは裏腹に外見的な傷はほとんど見られず、それにはさすがの修立もたじろぐ。

「馬鹿な、範囲内なら式兵とて一発で吹き飛ぶ威力、それをあの程度とは……」

「ど、どうするのだ。修立! なんとかせい!」

 泉千のあまりの滅茶苦茶加減に金興から焦りの声が上がるが、逆にそれによって修立は冷静さを取り戻す。

「たしかに思っていたより軽傷ですが、今まで無傷だったことに比べれば効果的かと、それに一体ではなく複数体による同時爆破ならより大きな効果が得られるはず」

「ううむ、それもそうか」

 修立の冷静な対応に浮足立った金興も余裕を取り戻し、何度も小さく頷きながら視線を最前線に戻す。

「式兵たちよ、容赦はいらない。突貫せよ」

 修立の指示に従い、刻印を打たれた式兵たちは次々と突撃し、爆発していく。泉千自身にはそれほど効果的ではなかったが指揮下の式兵たちは次々と爆発に巻き込まれ消滅し、泉千自身も容赦のない連続爆発によって少しずつ傷が増え始め、徐々に動きが鈍くなり始める。

「(数に勝る兵法無しか、全くもって身も蓋もない言葉だが、あれほどの化物がこうして弱っていく姿をみれば真理なのだろう)」

 一定の効果があるのを目の当たりにし、修立はそう思いながら少し安堵するが、どこかつまらなそうな表情で弱っていく泉千を見つめる。

 霊力による力は霊力でしか防ぐことが出来ない。霊力による爆発は泉千自身の霊力をよって相殺し防ぐしかない。爆発の傷が浅いのは霊力によって相殺しているからであり、爆発を受ければ受けるほど霊力を消耗してしまう。霊力が減れば減るほど、爆発を相殺する力が弱くなり傷も徐々に増え深くなる。

 それは修立の読み通りだった。

「(しかし、百近い式兵を自爆させてようやくこれとはな)」

 たった一人になろうと、どれだけの自爆に合おうと戦意を失わずにただ目前の式兵を斬り続ける。その気高くも獣のような姿に修立は敬意と呆れを込めながらそう思う。

「(さすがに、ちょっと、きつい、かも、このまま、だと、全員、斬れない、かな、しょうが、ないか)」

 あくまでも全ての式兵を斬り捨てようと本気で考えていた泉千だったが、自身の残りの霊力、疲労、傷、それらを考慮に入れて判断すると、式兵たちの後ろに隠れ戦況を見ている金興と修立へ泉千は視線を向ける。

「(例え、難しく、ても、私が、死んじゃっ、ても、あの、二人、だけ、でも、斬らないと、ね)」

無論そこへの道のりは険しい、どこよりも多くの式兵が並び、堅固に二人を守っている。

 それでも例え、たどり着けなかったとしても進まなくてはならない。戦況を変えるにはこれしかないと、灯火の顔を思い出しながら、死を覚悟し、相打ち覚悟で一歩踏み出そうとした時、後ろから灯火の声が聞こえてくる。

 死が迫り、幻聴が聞こえたのかと思ったが、振り返らずにはいられず、振り返る。

「こりゃあ、随分と珍しいもんが見られたね眼福、眼福」

楽し気な笑顔で満身創痍になった仲間に掛ける言葉とは思えないような、お調子者のような口調で、灯火は大剣を構え 振り返った泉千の横を抜けていくと、泉千に向かってくる刻印が打たれた式兵らを斬りつける。当然爆発に巻き込まれるが、黒煙を吸ったことにより、若干咽せ返る程度で、鬱陶しいと言った様子で黒煙を手で払う。

「また、面倒な霊術だね、それに(わかっちゃいたが下種な奴だね)」

 指揮下の式兵を自爆させ相手に傷を負わせる霊術を気に入らないと言った様子で灯火は修立たちを一瞬睨む。

「修立よ! 敵の援軍が来たぞ!? 本当に大丈夫なんだろうな!?」

 戦の勝敗は決したと修立に言われ、金興は安心していたが泉千の奮戦、灯火の到着により、焦り始める。

「心配ありません、この戦力差は覆りません。それにどちらにせよ、あやつらは殺さなければならない者たちです。それが早まっただけのこと、更に式兵を頂いてもよろしいですか?」

 修立の言葉に落ち着きを取り戻しながら頷き、修立に式兵百体をさらに与える。

「(いくら鳳ヶ崎 灯火と言えど同じ人、剣乃と同じ末路辿れ)【白蜘蛛】」

 新たに指揮下へと加えた百の式兵に刻印を打ち、泉千の時と同じように突撃させる。

「悪いねぇ、泉千、こっからはあたしが暴れる番だ。後ろで大人しくしてな――って、なんだいそのむくれた面は、そんな格好になってもまだ戦いたいなんてね」

 綺麗な黒巫女服があちこち破れ、女性らしい細々とした肩や柔らかそうな白いももが露わになっているにも関わらず、拗ねた子供のように左頬を膨らませながら顔を逸らす泉千に呆れながらも何も反論しない姿に灯火は僅かに笑みを漏らし、向かってくる敵式兵に向き直る。

「さてと、いいもん(泉千の弱ってる姿)見せてもらってありがたいっちゃ、ありがたいが、それはそれ、あたしの仲間を傷つけた借りは高くつくよ。そうさね、とりあえず――」

 灯火は深く息を吸い、大きく目を見開き、楽し気に笑う。

「【火之弥儀ひのやぎ】――死灰しかいになりな」

 向かってくる七條軍に大剣を向け、霊術を唱えると全身と大剣を眩いばかりの炎が、まるで鎧のように包み込む、その熱気はまだ一段(約十メートル)離れているにもかかわらず式兵たちに届き、これ以上進むのを躊躇させた。

「こねえならこっちから行くよ!」

 灯火は炎を纏いし大剣で式兵たちを斬っていく、斬り口からは炎が燃え移り、一瞬の内に全身へと燃え広がる、元は紙で作られている式兵たちはその炎に焼かれ灰になっていく。

 次々と斬り殺され焼き殺される中、【白蜘蛛】により、式兵らは爆発している、しているのだが、炎の鎧はまるでそよ風に当てられたかのように揺らぐだけで、灯火に届いてはいないようだった。

 それどころか、一度燃えた式兵は消滅までに時間があり、その間に他の式兵が炎に接触すると燃え移り、あちらこちらで炎によって燃え尽きる式兵らが多発し、誘爆のような状況になり、阿鼻叫喚の地獄とかし、その中心では大鬼が如く楽しそうな顔で炎剣を振るう灯火がいた。

「修立! なんとかせい! このままでは、このままでは――」

「ご安心を金興様、派手に見えるだけでございます。負けることはありません、式兵を頂けますか?」

 同じようなやり取りの末、二百の式兵を指揮下に加えた修立は同じように霊術を発動し、灯火に当たらせた。

「(一見効いてないように見える。だが、霊力を防いでいるということは消費しているということ、数には勝てまい)」

 修立は冷静だった。武闘派ではないが霊術や霊力についての知識もあり、戦場もそれなりに経験がある。それ故にわかっていた。始万霊の加護がない者があれだけ派手な霊術を使えばどうなるかを。


 一方その頃、ようやく追いついたと言わんばかりに肩で息をしながらも灯火の援護をするように式兵たちに指示を出し、突撃させた紅夜は後ろから泉千に声をかける。

「一人で先行して行ったときはどうなるかと思いましたけど、さすが、灯火さんですね。圧倒してるじゃないですか」

 そんな紅夜の声は届いているはずなのだが、返事をしない泉千に紅夜は首を傾げていると「援軍、いらなかった、のに」小さな声が返ってくる。

 その言葉に予想通りだと思った紅夜は思わず笑いそうになってしまうが、笑ってしまえばより機嫌を損ねることになるだろうと思い堪える。

「そう言うと、思ってましたよ。それでも灯火さんは泉千さんのことが心配だったんですよ。だから俺らをほっといて単騎駆けをして行ったんですから」

 恨み節を含んだような拗ねた口調に泉千の口元が僅かに緩む。

 灯火の判断は正しかったのだろうと、今の泉千を見て紅夜はそう思っていると泉千が口を開く。

「援軍が、来なければ、あの、二人の、首は、なかった――、でも、私の、首も、なかった、かも」

 少し残念そうな口調だったが、それでもどこか嬉しそうに灯火の後姿を見た泉千は珍しくお茶目な顔で控えめに舌を出しながら振り返り、紅夜を見る。

 可愛い姿だが、もう少し遅れていれば、泉千が何をしようとしていたのか、それがどういう結果になるのか、紅夜にはわかってしまい。愛らしいと思ってしまいながらもそんな未来もあったのかと思うと少し怖く、そして本当に間に合ってよかったと思った。

「(『かも』ってとこが泉千さんらしいな)」

 そんなことを思いながらも灯火の方へ視線を移すと、今までの様子と少し違って来たことに紅夜は気づく。

「泉千さん、灯火さんの動き少し鈍くなってませんか?」

「うん、そうだね。このまま、だと、灯火は、危うい」

 こうなることを知っていたかのように泉千は冷静にいつもの口調と表情で話す。

紅夜にもわかっていたはずだ。いくら灯火でもこの数相手に勝てるはずがないと、それでも本当にこの二人なら僅かに式兵の援護があれば、この程度斬ってしまうのではないかと思わされてしまっていた。だからこそ泉千の口からその言葉を聞き、紅夜は動揺してしまう。

「それって、どういうことですか?」

「灯火の、霊術は、どちらかと、言えば、瞬間、強化、だから、持続力が、ない」

 言われてみれば明らかだった。まるで自身の霊力を燃料としてそのまま燃やしているかのような霊術は、激しく燃え上がり勢い衰える様子がない、それはすなわち、灯火の霊力を激しく消費しているということだ。

「まだ、四百、ぐらい、残ってる、斬れて、百が、限界」

 つまり、灯火と泉千が霊力切れになり、残り三百程度の敵式兵が残ることになるということだった。三百もの式兵を紅夜が一人で斬れるはずもない。このまま何もなければ敗色濃厚なのは言うまでもない。わかっていたことではあるが、紅夜の顔に僅かに不安の色が滲み出る。

「何か、手があるん、でしょ、じゃなきゃ、灯火は、あんな、戦い方、しない、あれは、信じて、戦ってる」

 自分の手で戦を勝たせようと思うのではなく、自棄やけを起こし突撃しているわけでもなく、紅夜の策を信じ、時間を稼ぐために戦っていることを長年の付き合いのある泉千は見抜き、紅夜を諭す。

「手は打ったつもりです。ただ、確証はないんです。そうあってほしいと言うか、それ以外に勝ち目がないと言うか……」

 言葉通りの状況ではあった。陽奈が殺されていない保証はない、殺されたということが嘘であろうとも捕虜として引き渡されるかもしれない。その可能性を考慮にいれつつも紅夜は一番勝てる可能性に賭けていた。

「(根拠はある、自信もある、それでも万が一)」

 予想が外れれば、今ここで灯火も泉千も紅夜も殺され、そして今頃は陽奈も成実も死んでいるそんな可能性がある。それはどうしても拭えず、未だに心の奥に恐怖心として残っている。

「そんな、顔、しなくて、いい、大丈夫、上手く、いく、紅夜は、私たちの、軍師、だから」

 不安そうな顔つきになっていた紅夜を元気づけようと、泉千なりに優しい声をかけてくれる。

 淡々とした言葉と表情ながらも柔らかさを感じ、紅夜の不安は少し和らぎ、徐々に疲労の色が強く出始めた灯火に視線を戻す。

 もし何かあれば自分も前に出ようと、剣を抜き、ただ願った。

「(頼む、来てくれ!)」

 その一心だった。

「紅夜、あれ」

 祈るような気持ちで灯火を見ていた紅夜に泉千が金興らの奥、後方に指を指す。

 その先にあったのは―――。


 七條軍の旗を掲げる羽葉と羽湯の部隊だった。


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