三、
「こら、カオス!ヘソだして寝ころぶんじゃない!」
高いとも低いともいえない声が、カオスを叱る。
「なによガイア〜、産んであげた恩を忘れたの?」
「カオス、俺はお前のためを思って・・・」
「女らしくしろって言うんでしょ。無駄よ、私は‘無'の神なんだから」
カオスの顔が曇る。
その瞬間、カオスの部屋のドアが開いた。
「あら?ロッドじゃない。どうしたの?」
カオスは、ドアを開けた者――ロッド・クレイア――に語りかける。
「カオス様、隣国のレマード様から伝言があります。」
「アリアから?」
ロッドからアリアの名を聞いたカオスの顔が、少しだけゆがむ。
神と死神。どちらも神で、どちらも人に慕われている存在。
ゆがんだ顔を元に戻して、カオスはロッドにいった。
「何かしら・・・ロッド、言って」
「はい」
彼は気づかれぬように、顔をゆがめる。
まるで、苦痛にでも耐えるかのように。
「実は、レマード様が‘人の子’になりたいとおっしゃているのですが」
そのとき、
カオスの顔は、麗しい笑みを作り出した。
「チッ」と言う舌打ちも聞こえた。
その声は、麗しい笑みとは遠くかけ離れたトーンだった。
一人の神の顔は安らかに、
一人の神の顔は、大きくゆがむ。
一人の神の口からは、
耳を澄ましたままでいたくなるほどの美しい声が漏れ、
一人の神の口からは、
聞きたくもないトーンの声が漏れる。
光と影
神と死神
二つで一つの存在は
今日も笑い合い、いがみ合う。